不動産を実物で所有するよりコストが安い、信託受益権のメリット
(画像=denisismagilov/stock.adobe.com)
丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

不動産は、実物で所有するだけでなく権利として収益を得ることも可能です。その方法の一つが「信託受益権」の売買です。本記事では、信託受益権のメリットや注意点を解説しつつ「不動産クラウドファンディング」についても紹介します。

目次

  1. 不動産を実物所有以外で運用する方法
  2. 信託受益権とは何か
  3. 信託受益権のメリット
  4. 信託受益権にする場合の注意点
  5. 不動産が信託に適している3つの理由
    1. 不動産は価格が高い
    2. 不動産は管理に手間がかかる
    3. 不動産は安定した収益を見込める
  6. 似た手段のクラウドファンディングにも注目
  7. 信託受益権に関するよくある質問
    1. Q.信託受益権とは?
    2. Q. 信託受益権のメリット、デメリットは?
    3. Q. 不動産が信託に適している理由は?

不動産を実物所有以外で運用する方法

不動産投資は、マンションやアパートなどの実物不動産を所有し毎月家賃収入を得るのが一般的です。実物不動産投資の場合、不動産投資ローンを完済後は、自由に売却できるなど多くのメリットがあります。しかし運用に手間やコストがかかるデメリットがあるのも事実です。そこで不動産を実物ではなく信託受益権化して運用する投資商品も増えています。

代表的な商品の一つがJ-REIT(上場不動産投資信託)です。J-REITの場合、投資家は物件ではなく事業者が運用して得た収益から分配金を受け取る権利に投資します。分配金を得る権利にあたるのが「信託受益権」です。では、信託受益権について詳しく見ていきましょう。

信託受益権とは何か

信託受益権取引のイメージ

信託受益権とは、信託契約における受益者が信託している財産から発生する利益を受け取る権利のことです。信託受益権の取引手順は、まず不動産所有者が手持ちの物件を信託銀行に信託します。信託銀行は、信託受益権化するにあたりデューデリジェンス(当該物件の価値やリスクを詳細に審査すること)を行います。

審査後、信託銀行が不動産所有者に信託受益権を発行。そして不動産所有者が投資家に信託受益権を売却するのが流れです。信託受益権を購入した投資家は、物件の運用で生じる利益のなかから分配金を受け取ることができます。2007年に金融商品取引法が施行されたことにより不動産信託受益権は「みなし有価証券」として位置づけられ取引においては金融商品取引法の規制を受けています。

信託受益権の安全性については、以下の2点から安全性の高い金融商品といえます。

  • 取引主体(不動産所有者)がJ-REITや不動産ファンドなど適格機関投資家
  • 物件は信託銀行のデューデリジェンスにより信頼性が担保されている

かつて適格機関投資家は、原則金融機関や年金・投資ファンドのみが対象でした。しかし現在では、事業法人や個人も適格機関投資家になることができます。個人の場合の基準は、有価証券残高10億円以上、証券会社での取引実績1年超です。

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信託受益権のメリット

信託受益権のメリットは、財産の管理運用を専門家に委託できることです。通常不動産や株式などの財産は、保有している人が自分で運用を行わなければなりません。専門的な知識やノウハウがないと損失を被ったり専門家の運用に比べて低いパフォーマンスの運用しかできなかったりする場合があります。信託受益権は、専門家に任せることで安定した運用益を確保することが期待できるでしょう。

信託受益権には、いくつかの種類がありますが不動産を信託銀行などに管理・運用を任せることを「不動産信託」といいます。信託した不動産から生じる利益を受け取る権利が「不動産信託受益権」です。実物不動産を売買すると都度仲介手数料や登記費用がかかり手続きの手間があります。しかし不動産を信託受益権にすれば費用と手間が大幅に削減することが可能です。

信託受益権は、名義変更の手間がないメリットもあります。信託契約した時点で委託者(不動産所有者)から受託者(信託銀行)に財産の名義が変更されていますので受益者(購入者)が変わった場合に名義変更する必要がありません。

信託受益権にする場合の注意点

信託受益権にする場合は、信託契約を解除して実物不動産として売買すると不動産取得税や登録免許税、印紙税が通常と同じ税率で課税されます。さらに当初の信託受益権登記時に登録免許税がかかっているため、実物不動産に戻して売買する際はコスト増になるケースも少なくありません。そのため信託受益権にすれば必ずコスト安になるわけではないことに注意が必要です。

不動産信託は、プロに運用を任せますが100%収益が上がるとは限りません。不動産市況によっては「空室が出る」「入居者が集まらない」といった事態も考えられます。期待通りの収益が上がらなかった場合でも手数料や諸経費は差し引かれる点は押さえておきましょう。運用で赤字が続けば信託終了時に信託財産を売却して清算されるケースもあります。

不動産が信託に適している3つの理由

不動産は、特に信託に適しているといわれています。なぜなら主に以下の3つの理由があるからです。

不動産は価格が高い

不動産は、物件によって数千万円~数億円する価格が高い投資商品です。高額な物件の場合、小口投資家では手が出せませんが信託受益権を活用すれば高額な不動産を小口に分けて販売することができます。例えば5億円の不動産も1,000口に分ければ1口50万円から購入することができるため、投資家の裾野が広げることが可能です。

不動産は管理に手間がかかる

マンションやビルを購入して運用するには、管理に手間がかかりノウハウも必要です。そのため一棟マンションやビルの運用を副業で行うのは難しいでしょう。しかし信託の仕組みを使ってプロに運用を任せれば本業が忙しいオーナーでも副業として不動産の運用が可能となります。

不動産は安定した収益を見込める

不動産は、リーマンショックやコロナショックといった金融市場の混乱が起こらない限り、運用する物件から家賃収入を得ることができる比較的安定した投資です。信託の仕組みを使えば長期間財産を継続して管理でき受益権者は、安定して収益を受け取ることが期待できます。株式のような相場変動に左右されにくいのが不動産信託の大きなメリットです。

似た手段のクラウドファンディングにも注目

信託受益権に似た手段として「不動産投資クラウドファンディング」も注目したい投資方法の一つです。不動産投資クラウドファンディングは、不特定多数の投資家から資金を集め不動産を購入または賃借して運用を行います。運用で得られた賃料収入や不動産売却益は、分配金として投資家へ還元される仕組みです。

不動産投資クラウドファンディングは、ファンドへの申し込みから分配金の受け取りまですべてインターネット上で行うことができます。多くのファンドが1万円から投資することが可能です。手間がかからず少額投資ができるため、利用する人が増えています。J-REITは、多数の物件に分散投資するため、特定の物件を選ぶことはできません。

その点、不動産投資クラウドファンディングは物件ごとにファンドを組んで募集しているため、自分が気に入った物件に投資することが可能です。しかし不動産投資クラウドファンディングは、特定の物件に投資することができるため、現物不動産投資に近い感覚を得ることができるでしょう。

一方J-REITの場合は、物件を所有している実感があまりなく株式投資に近い感覚といえます。買付可能な期間はいつでも購入できますが、不動産投資クラウドファンディングは募集金額に達すると早期に売り切れる場合があります。優良物件は、早めに申し込むことが大切です。
不動産投資の王道は、マンションなどの不動産を購入して賃料収入を得ることです。しかしコストや管理の手間を考えると不動産を信託受益権で所有することも有力な選択肢といえるでしょう。

運用や管理をプロに任せ収益のみを受け取れる信託受益権は、非常にメリットが大きい投資方法の一つです。不動産投資クラウドファンディングも含め投資の選択肢が広がることは、投資家にとって歓迎すべき状況といえます。

信託受益権に関するよくある質問

Q.信託受益権とは?

信託契約における受益者が信託している財産から発生する利益を受け取る権利のことです。

Q. 信託受益権のメリット、デメリットは?

財産の管理運用を専門家に委託できる点や名義変更の手間がない点にメリットがある一方、信託契約を解除して実物不動産として売買すると不動産取得税や登録免許税、印紙税が通常と同じ税率で課税される点に注意が必要です。

Q. 不動産が信託に適している理由は?

不動産は価格が高い投資商品で、管理に手間がかかる一方、安定した収益を見込めるからです。

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