
売買や相続など、何らかの形で不動産に動きがあると関わることになるのが、不動産の登記です。不動産の専門家にとっては当たり前のものですが、不動産との関わりがそれほど多くない一般の人(不動産投資家も含めて)にとっては普段ほとんど関わりがない未知の世界です。
それだけに不動産登記の仕組みから登記簿に記載されていることなど、「わからないことだらけ」とお感じの方も多いことでしょう。しかし、すべての方が不動産登記簿についてプロ並みの知識を持っておく必要はありません。
当記事では不動産の登記簿や登記の仕組みについて、最低限知っておくべき知識を10分程度でマスターできるようにまとめました。「今すぐ概要をざっと理解しておきたい」という方に最適な内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1.不動産登記の基本と仕組み
不動産登記とは何か?その基本と仕組みについて簡単にまとめました。以下の5点を押さえておけば、不動産登記の基本をマスターすることができます。
1-1.不動産登記とは何か
不動産登記とは、土地や建物についてその物件そのものの情報や所有者などに関する情報を、国の職員で専門的な知識をもった登記官が確認しコンピューターに記録する制度のことです。この登記をすることにより、その不動産が誰のものであるのかといった権利関係が明らかになります。
登記された情報は誰でも交付請求し閲覧できるため、その不動産に関する所有者の権利が保全され、不動産取引の安全性も確保される仕組みになっています。
1-2.不動産登記が行われる主な場面
不動産登記が行われるのは、対象の不動産に関する状況に変化があったときです。土地や建物の所有者が変わったり、建物を取り壊したりといったように、不動産そのものやその不動産の権利関係に変化があると、それに伴って登記を行います。
具体的には不動産の売買や相続、所有者の氏名や住所などが変わったとき、ローンを完済したとき、建物を取り壊したときなどです。よくある不動産登記の種類を一覧にすると、以下のようになります。
新築の不動産を購入したとき | 所有権保存登記 所有権移転登記 |
中古不動産の売買、相続、贈与などがあったとき | 所有権移転登記 |
建物の増改築をしたとき | 表題変更登記 |
住宅ローンを完済した | 抵当権抹消登記 |
土地を分割したとき | 分筆登記 |
引っ越し、結婚で姓が変わったなど | 登記名義人の住所・氏名の変更の登記 |
これら以外にもさまざまな場面があり、それに伴って不動産の登記内容に何らかの変更があったらその事実を登記します。
1-3.不動産登記の費用
不動産登記には、費用が必要になります。この費用のことを登録免許税といって、登記の内容によって登録免許税は個別に設定されています。登録免許税は国に納めるものなので交渉によって値引きできるといった類のものではなく、登記を司法書士など専門家に依頼した場合であっても別途必要になるものです。
登録免許税は不動産の価額に対して%で設定されており、主な不動産登記の登録免許税は以下のようになります。
所有権保存登記 (新築の不動産購入) | 0.4% |
所有権移転登記 (中古の不動産購入、譲渡など) | 2.0% |
これらは基本的な登録免許税の税額ですが、登録免許税にはさまざまな軽減税率や免税措置などがあります。税率や期間がそれぞれ異なるため、詳しくは国税庁のホームページも参考にしてください。
1-4.不動産登記の必要性
冒頭で解説したように、不動産登記はその不動産に関する情報を記録するシステムなので、不動産に関する何らかの変更があった場合は登記をする必要があります。不動産を購入しても登記しなければ、第三者は所有者が変更になったことを知ることができません。売却しようとしている人が所有者であることを証明できないため、登記されていない不動産を売却することもできません。
後述しますが、不動産の登記簿は「表題部」と「権利部」という2部構成になっています。表題部には不動産の現況を記載し、権利部には不動産の権利関係を記載します。このうち表題部は不動産に何らかの変更があった時点から1か月以内に登記することが義務づけられており、違反すると10万円の過料という罰則規定もあります。
もう1つの権利部については意外にも登記の義務はありません。しかし売却や不動産を担保に融資を利用する際にも支障をきたすので、表題部と併せて権利部もできるだけ早く登記しておくべきでしょう。
なお、2021年に法制審議会が土地の相続については登記を義務づける法改正案を答申しており、これが法制化されると相続による土地の所得を知ってから3年以内に登記申請をしなければ10万円以下の過料という罰則が設けられます。
1-5.司法書士の役割
不動産の登記は簡単にできるものではありません。そこで多くの場合、不動産の登記は専門家である司法書士に委託されます。司法書士には登記申請書の作成や登記申請、それを完了するまでの一切の手続きなどを代行することが認められているため、不動産の売買や相続などがあった際には司法書士に登記を依頼するのが無難でしょう。
司法書士への依頼方法や報酬の相場などについては、「5.不動産登記を司法書士に依頼する方法と費用相場」で解説します。
2.不動産の登記簿とは何か
ここでは、不動産登記簿についての概要を解説します。不動産登記簿とは何のためにあり、そこに何が記載されているのかをマスターしてください。
2-1.不動産登記簿謄本とは
実は「不動産登記簿」という正式名称はありません。理由はすでに不動産登記が紙ベースではなくコンピューターで管理されているため、「登記簿」というものが存在しないからです。かつては紙で管理していた登記簿があったため、その名残で「不動産登記簿」という言葉が広く用いられています。
不動産の登記内容を取得するために、かつては登記簿謄本を取得する必要がありましたが、現在では登記事項証明書という名称になっています。登記簿が古い名称だからといって年配の人たちだけが使っている言葉ということはなく、今も広く用いられています。当記事では引き続き、登記事項証明書ではなくこの「登記簿」という名称を用いて解説します。
2-2.不動産登記簿の「表題部」と「権利部」
先ほども述べたように、不動産登記簿には表題部と権利部があります。それぞれどんなことが記載され、どんな性格を持っているのでしょうか。不動産登記簿がどんな体裁になっているのかは、こちらをご覧ください。
これは法務省のサイトに掲載されている不動産登記簿のサンプルです。実際に登記簿を取得するとこのような書面を目にすることになります。
2-2-1.登記簿「表題部」について
登記簿の表題部は、土地や建物の現況を記載します。この表題部については登記の義務があるため、1か月以内に登記をしなかった場合は10万円以下の過料という罰則が定められています。罰金ではなく過料という軽微な罰則なので罪は重くはありませんが、罰則規定があることは押さえておく必要があるでしょう。
2-2-2.登記簿「権利部」について
表題部の下には、権利部があります。権利部は甲区と乙区に分かれていて、甲区には所有者に関する情報、乙区には抵当権など「所有権以外」の権利関係が記載されます。
こちらの権利部については登記の義務はなく、罰則もありません。しかし権利部の登記をしておかないと所有権を証明できないため、さまざまな不利益の原因になります。義務付けられている表題部の登記と併せて、権利部の登記をしておくのがセオリーです。
3.不動産登記簿の見方
不動産登記簿は表題部と権利部、そして権利部は甲区と乙区によって構成されていると解説しました。それでは個々の項目について、登記簿の見方を解説します。
3-1.表題部
登記簿の表題部には、不動産の現況が記録されます。土地については所在地や地番、地目、面積などが記録され、建物については所在地情報に加えて建物の種類や構造、床面積などが記録されます。この表題部を見ることで、その不動産が現在どんな状況にあるのかがわかります。
3-2.権利部甲区
権利部の甲区には、その不動産に関する所有権や所有者に関する情報が記録されています。売買の際には権利関係がとても重要になるので、取引の前には権利部甲区の内容が綿密に確認されるのは言うまでもありません。
それらに加えて重要なのが、所有権に関する経緯です。いつ、どのような形でその不動産が今の所有者のものになったのかといった原因が記録されているため、不動産の権利関係が今に至るまでの流れを知ることができます。
3-3.権利部乙区
権利部乙区にも権利関係が記録されますが、ここに記録されるのは所有権以外の権利です。よくあるのは抵当権で、ローンを利用して不動産を購入した場合は抵当権が登記され、この乙区に抵当権設定が記録されます。不動産を担保にお金を借りるのはよくあることですが、その際に債権者が権利を確保するために設定するのが抵当権です。これは所有権とは逆に所有者の権利に制約を加えるものなので、甲区ではなく乙区に記録されています。
そのほかに、権利部の乙区には地上権や地役権なども記録されます。
4.不動産登記簿の取得、閲覧方法
不動産の登記簿を取得し閲覧する方法は、大きくわけて3つあります。
4-1.日本全国の登記所窓口で交付請求
日本全国にある登記所に請求をすれば、登記簿を取得することができます。役所には一般的に管轄の概念がありますが、登記所は日本全国のどこであっても同じ情報を共有しているので、たとえば東京で大阪の不動産に関する登記簿謄本について交付を受けることも可能です。当記事では登記簿と表記していますが、登記所では登記事項証明書と表記されていますので、間違いのないようにしてください。
4-2.郵送による交付請求
近隣に登記所がない、登記所に行く時間がなかなか取れないという場合は、郵送による方法も可能です。特定の書式があるわけではありませんが、希望する登記所の住所宛てに返送先を記載した封筒と取得を希望する登記簿の情報をメモなどに記載し、返信用の切手とともに郵送すると交付を受けることができます。
4-3.オンラインによる交付請求
3つめにご紹介するのは、オンラインによる交付請求の方法です。ネットが発達した現在、オンラインによる方法が最も便利です。法務省が運営している「登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと・供託ねっと」から交付請求をすることができます。
このネットサービス上から交付請求を行い、指定された登記所で受け取るか指定の送付先への送付で受け取るかを選択することができます。
なお、手数料についてもオンライン請求が最もオトクです。書面請求だと600円ですが、オンライン請求で窓口交付なら480円、オンライン請求の送付による受け取りであっても500円のため、最も低コストです。
5.不動産登記を司法書士に依頼する方法と費用相場
登記簿を取得してそこに記録されていることを参照する程度であれば、専門家でなくても十分可能でしょう。しかし売買や相続などで取得した不動産を登記するとなると、全くの素人がこなすのは簡単ではありませんし、リスクを伴います。そんな場合は司法書士に依頼するのが無難なので、最後に不動産登記を司法書士に依頼する方法と費用相場について解説します。
5-1.不動産登記は司法書士に依頼しよう
不動産の登記を自分でやることに少しでも自信がない場合は、専門家である司法書士に依頼しましょう。法律によって司法書士には「登記申請書の作成」「登記申請のための資料などの作成・取得」「登記申請から完了までの一切の手続き」「登記完了後の書類などの受領」といった業務を委託できると規定されており、不動産の登記もこれに該当します。
不動産登記を司法書士に依頼するべき理由は言うまでもなく、致命的なミスの防止です。不動産は高額商品の代表格であり、自分がその所有者になったのであればそれを正確に登記しなければ予想できないような不利益を被ってしまう恐れがあります。
司法書士は登記のプロであり、多くの司法書士は不動産登記のプロでもあります。ネットで検索すると多くの司法書士事務所の情報を見つけることができますし、特に司法書士のあてがないのであれば不動産会社から紹介された司法書士を利用するのも1つの方法です。
ただし、不動産会社から紹介された司法書士に依頼する場合は不動産会社に中間マージンが発生している場合があるので、それが気になるのであれば自身でネットなどから探しても大きな問題はないでしょう。
5-2.登記には登録免許税が必要になる
登記には登録免許税が必要になりますが、これは司法書士に依頼しても、しなくても等しく発生するものです。司法書士に登記を依頼した場合は司法書士報酬とは別途発生する費用なので、それを考慮に入れておきましょう。
5-3.司法書士に不動産登記を依頼する場合の報酬相場
不動産の売買や相続などに伴って行う所有権移転登記の場合、司法書士への報酬はどの程度の金額になるのでしょうか。これについては司法書士それぞれ自由に決めてよいことになっているため、それぞれの司法書士や事務所によってまちまちです。
司法書士の全国団体である日本司法書士会連合会が、全国の司法書士に対してアンケート調査を行っており、ここから司法書士報酬の全体像を知ることができます。ここから見えてくる司法書士報酬の相場は、以下のようになっています。
・売買による所有権移転登記:4万円台から6万円台程度
・相続による所有権移転登記:6万円台から7万円台
・新築建物の所有権保存登記:2万円台から3万円台
ただし、これらの報酬目安はいずれもモデルケースを想定した調査なので、特殊なケースになると費用感は若干異なってくると思います。
ローンを組んで不動産を購入する場合は抵当権設定の登記が必要になりますが、こちらについても同調査に報酬の相場が公開されています。これによると3万円台から4万円台が相場で、逆に抵当権を抹消する登記の報酬は1万円台です。
6.登記簿を上手く活用して不動産情報を得よう
「不動産の登記ってなに?」「登記簿ってなに?」というように、言葉を見聞きしたことはあってもその仕組みや意味がイマイチよくわからないという方に向けて、不動産の登記と登記簿についての基本から登記簿の見方、登記簿から読み取れることなどについて解説してきました。
ほとんどの場合、専門家以外の人が登記について当記事の内容より深く理解する必要はないでしょう。なぜなら、不動産の売買や相続などがあったとしても司法書士に登記を依頼するケースがほとんどだからです。しかしながら登記簿から不動産に関する情報を知る必要があるような機会はあるでしょうし、司法書士に依頼するとしても最低限の知識を持っておいたほうがスムーズです。「これさえ知っておけば十分」という知識に絞って解説しました。ぜひお役立てください。
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