不動産オーナーだからこそやっておきたい「相続税の納税資金対策」
(画像=Watchara Ritjan/Shutterstock.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

まとまった資産を保有する不動産オーナーの心配の種のなかでも多いのが将来の相続です。特に家族が自分ほど資産運用に積極的ではない場合、「納税資金が大丈夫かどうか」も気になるのではないでしょうか。今回は不動産オーナーだからこそやっておきたい相続税の納税資金対策について解説します。

不動産投資規模が大きくなったときの懸念は「相続税の納税資金不足」

不動産の投資規模が大きくなったとき、懸念事項となるのが「相続税の資金不足」です。オーナー自身の所得税や住民税など、「投資した本人が生きている間の税金」は不動産収入などからまかなうことができます。しかし相続が発生したあとの相続税、つまり「投資した本人が亡くなったあとの税金」までをもカバーできるわけではありません。

オーナー死亡後の税金を払うのはオーナーの親族である相続人たちですが、オーナーと同じように資産運用に積極的だとは限らないからです。共有あるいは代表者が相続したあと代償分割をするなどといった対策もありますが、相続人同士が不仲であれば承継したあとにトラブルが続発しかねません。また賃貸不動産そのものを売却すれば、売却時の譲渡所得に課税されます。

相続人たちの負担をなるべく少なくする形で相続税の納税資金の対策をするには、オーナー自身が生きている間に準備することが肝要です。

相続税の納税資金対策としてやっておきたい2つのこと

オーナーが亡くなったあとの納税資金対策としてぜひ検討したいのが以下の2つです。

生命保険の非課税枠を活用した対策

相続人がオーナーの死亡後受け取る生命保険金は、民法上の相続財産ではなく相続税の課税対象となる「みなし相続財産」です。ただし相続後の相続人たちへの生活の配慮から、相続税法では「生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。相続人のうち相続放棄をした人は、この非課税枠の適用を受けることはできません。

しかし非課税枠の計算は、法定相続人の数のうちに相続放棄をした相続人の数を含めます。そのほか養子が相続人にいる場合には一定の制限があるため注意が必要です。この非課税枠の効果を活かすべく、生命保険金の受取人を相続人になるはずの配偶者や子にしておけば、税負担を少なくしながら納税資金を用意することができます。

また生命保険金は遺産分割の対象とならないため、渡したい金額を相続人に渡すことが可能です。

不動産投資の法人化

不動産投資の規模がかなり大きい場合、生命保険金だけで相続税をまかなえない可能性があります。この場合には、不動産投資の法人化、つまり「資産(不動産)管理会社の設立」を通じて相続人たちに納税資金を用意することが可能です。なぜ資産管理会社を設立することが相続人の納税資金の準備につながるのでしょうか。その理由は「役員が受け取る役員報酬」にあります。

個人事業主の投資規模が大きくなった場合、青色申告の適用を受ければ、親族を「青色事業専従者」という名前の従業員とすることで彼らに支払った給与を必要経費に計上することが可能です。しかし「ほかで仕事をしておらず、事業主の事業に専従していること」「給与に見合った業務を行っていること」などの条件をクリアしなくてはなりません。

一方、法人の役員であれば従業員ほどの勤務実態を備えていなくても非常勤役員として報酬を受け取ることが可能です。法人への関与度合いに見合った役員報酬を検討する必要がありますが、役員報酬という形で不動産収益を分配しておけば、その蓄積を後々の納税資金に活用することができます。

注意点

以上2つは相続人候補者に納税資金を残すための手法です。ただ、これだけで万全というわけではありません。ここでも注意点があります。それは将来相続人となるはずの配偶者や子に生命保険や法人化の目的をきちんと話しておくということです。人間は己の欲に負けやすい生き物なので、まとまったお金が入ることがわかると相続税の納税資金以外のことで浪費してしまうかもしれません。

「将来の納税資金としてとっておくように」と伝え、別のことに使わないようにしておくのが賢明です。「配偶者や子の浪費を心配するなら名義預金をしたほうが手っ取り早い」と思うかもしれません。しかし名義預金は相続税の税務調査における最大のチェックポイントであり、極めて課税リスクの高いものとなります。危ない橋を渡るのではなく法律に則った形で納税資金を残すようにしましょう。

ただし「年7.3%」あるいは「前年の11月30日の公定歩合+4%」のいずれか低い割合の利子税を支払わなくてはならないので注意が必要です。

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