亡くなった親の不動産賃貸業を相続するときは、税金の申告や開業の届け出、名義変更など必ず行うべき手続きがあります。きちんと相続の手続きをしないと不動産賃貸業のメリットを享受できず、トラブルの原因にもなります。一つ一つ確認していきましょう。
亡くなった親の不動産賃貸業は手続きが肝心
亡くなった親の営む不動産賃貸業を相続したら「価値の高い財産が入る」「不労所得が入る」といったことだけをイメージして喜んでばかりはいられません。なぜならきちんと相続の手続きをしないとメリットを享受できないからです。親が亡くなった時点で賃貸不動産を含めた遺産は、相続人全員が共同相続となります。
つまり相続人全員の共有下に置かれるわけです。相続人が1人だけならいいかもしれませんが、複数いる場合は手続きの放置はトラブルにつながります。また亡くなった親が不動産投資を行っていた場合は、相続税の申告だけでなく生前の所得や借金の引き継ぎも行わなくてはなりません。相続放棄するにしても3ヵ月以内という期限があるため、絶対に放置してはいけないのです。
相続に伴う税金の申告
まず意識しておきたいのが税金の申告です。それぞれに期限があるため、注意しましょう。
所得税・消費税の準確定申告
親が亡くなる日までに得ていた不動産収入に関し所得税・消費税の確定申告をしなくてはなりません。通常の確定申告と異なり亡くなった人の所得を生きている相続人が申告するので「準確定申告」と呼びます。準確定申告の申告期限は、原則亡くなった日の翌日から4ヵ月以内です。提出先は、故人の住所地を管轄している税務署になります。
なお所得税の確定申告は誰でも必要ですが、消費税は故人の不動産投資の状況次第で異なる点は押さえておきましょう。
相続税の申告
正味の遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告・納税が必要です。そのため親が不動産投資を行っていた場合は、申告が必要になる可能性が高いと考えておきましょう。申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。一般的には、親の死亡日の翌日から10ヵ月以内になります。
相続する子は開業の手続きが必要
親の賃貸業を引き継ぐといっても税務上はそのまま引き継げるわけではありません。亡くなった親の廃業と共に「相続人が新規開業をする」という届け出を行うことが必要です。具体的には、以下の書類を税務署に提出します。
亡くなった親の分の提出書類
・個人事業の開業・廃業等届出書(届出の区分は「廃業」)
・所得税の青色申告の取りやめ届出書(該当する人のみ)
・消費税の事業廃止届出書(該当する人のみ)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(青色専従者がいる場合)
なお廃業や取りやめの事由は「死亡」、廃業の日は死亡日を書きます。
相続した子の分の提出書類
・個人事業の開業・廃業等届出書(届出の区分は「開業」)
・所得税の青色申告承認申請書(適用を受けたい人のみ)
・消費税課税事業者選択届出書(適用を受けたい人のみ)
・青色事業専従者給与等に関する届出書(適用を受けたい人のみ)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(適用を受けたい人のみ)
このほか市区町村でも亡くなった親の廃業届と相続人の開業届を提出する必要があります。
各種名義変更
遺産分割協議や遺言で親の財産を引き継ぐ人が決まった後は、早々に名義変更を行いましょう。主に以下のようなものがあります。
相続登記
賃貸用の建物と土地の名義変更手続きを行います。なお2020年12月現在、相続登記は義務化されていません。しかし法務省は2020年の臨時国会で所有者不明の土地問題から土地の相続登記の義務化案を検討しています。2019年11月時点では手続きは簡素化するかわり一定期間中に登記しない人には罰則を設ける案もでているため、しっかりと進捗を確認しておきたい内容の一つです。
共用部分の水道光熱費や火災保険の名義変更
共用部分の電気や水道、インターネットなどの名義変更はすみやかに行いましょう。なぜなら故人の預貯金口座は、金融機関に死亡届を出したり死亡の事実が知られたりした時点で凍結されてしまうからです。遺産分割協議がまだ終わっていない状態ならいったん相続人の代表者の口座で契約するなどの対処が必要になります。また固定資産税の納税義務も相続人が引き継ぎます。
実務上は、相続人の代表者がいったん立て替えて後日精算することになります。もし遺産分割協議が遅れる場合は、代表者の届け出を市区町村にしておくとよいでしょう。
家賃の振込口座の変更
既述の通り金融機関へ親の死亡を伝えると預貯金口座は凍結されてしまいます。つまり放置しておくと預金の引き出しだけでなく、賃借人からの家賃の入金もできなくなってしまうのです。相続が始まったら貸主の死亡と家賃の振込先の口座変更を賃借人に伝えなくてはなりません。なおこちらも遺産分割協議が済んでいない場合は、ひとまず相続人の代表者の口座を仮の振込先口座としておきましょう。
遺産分割協議が成立したら正式な相続人の預貯金口座をあらためて賃借人に伝えます。なお契約内容は、故人が契約したときのものがそのまま引き継がれるため、特段変更がないならそのままでもかまいません。ただ将来のトラブルを防ぎたい場合は、契約書を見直し必要に応じて再契約するようにしましょう。
銀行借入の引き継ぎ
借金などの債務(負の遺産)も相続財産の一つです。しかし、預貯金や不動産と異なり遺産分割協議の対象とはなりません。各相続人が相続分に応じて債務を承継するため、銀行は遺産分割協議の内容にかかわらず法定相続分に応じた債務の弁済を各相続人に請求できます。ただ銀行の求めに応じて各相続人が債務弁済に応じるのは難しい傾向です。
実際には、銀行の承諾を得たうえで遺産分割協議を成立させ、賃貸業の承継者がローンも引き継ぐことになります。ただ団体信用生命保険に加入していれば、相続人はローン返済を負わなくて済むので、入っておくべき保険といえそうです。
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