3年で10億円を築いた不動産投資家・荒木陽介さんに聞く(前編)「FIREはベストな選択ではない」

荒木陽介さんは30代後半から不動産投資をスタート、3年間で総資産10億円を達成したサラリーマン投資家です。その後、総資産は24億円にまで増大。いつでもFIRE(経済的自立による早期リタイア)できるはずですが、サラリーマンを続けています。なぜ、FIREをしないのでしょうか。不動産投資で成功するためのポイントとともに伺います。

【プロフィール】
1977年生まれ。現役でサラリーマンを続ける不動産投資家。大手広告会社に勤務(部長職)。30代後半から不動産投資をスタートさせ、激務のかたわら時短術を駆使して短期間で総資産10億円を突破。その後、最大で約24億円の総資産を築く。話題の本『3年で10億円を築いたサラリーマンが教える「お金を生む時間」のつくり方』(朝日新聞出版社)の著者でもある。

目次

  1. 人生の充実という軸で考えると、FIREはベストな選択ではない
  2. 20代の投資経験で金融商品の限界を知った
  3. 「物件を買うのは銀行」と考えるとムダが省ける

人生の充実という軸で考えると、FIREはベストな選択ではない

−−荒木さんが所有されている不動産の資産規模は、最大で約24億円だそうですね。これくらいの資産があればFIREはたやすいと思うのですが……なぜ今でもサラリーマンを続けているのですか。

私はFIREに対してアンチの立場です。経済力という軸だけで考えれば、早期リタイヤしてもよいのかもしれません。でも、人生の充実という軸で考えれば、私自身はFIREすることがベストな選択とは思えないんですね。

早期リタイヤをして、グルメ、旅行、ゴルフに明け暮れる……そんな毎日を楽しいと感じる人もいるかもしれませんが、私の場合はすぐに飽きてしまいます。それよりも、サラリーマンをしながら、世の中と関わったほうが刺激的に思えるんですね。

サラリーマンをしていると縛られる、窮屈だ、こんな風に感じる人も大勢いるでしょう。しかし、サラリーマンという立場をうまく使えば、逆に自由になれると私は考えています。サラリーマンには、会社の信用力という大きな武器があります。この武器を上手く使って銀行からの融資を引き出せば、不動産投資で効率的に資産を増やして、経済的な自由を手に入れられます。

−−とはいえ、著書(『3年で10億円を築いたサラリーマンが教える「お金を生む時間」のつくり方』)を拝見すると、FIREすべきか迷われた時期もあるようですね。

アンチFIREという、現在の心境に辿り着くまでには迷った時期もありました。サラリーマンをしなくても生活に困らないだけの不動産投資によるキャッシュフローはある。これをベースにもっと好きなことをやって生きていくのもありなのかな、そんな迷いが生まれました。

また、私は不動産投資を始める以前、サラリーマンをしながら休日を利用してスポーツの指導者をしていたんですが……その指導者の道を追求していくために、早期リタイアするのはどうだろうと考えました。

でも、結果的にFIREを選ばなかった理由は2つあります。1つ目はリタイアしている人で、こんな風になりたいというロールモデルが身近にいなかったことです。そして、もう1つの理由は、娘から「パパってお仕事何しているの?」って言われたとき、あるいは、知人から「仕事って何をしているの?」って聞かれたとき、答えづらいのはイヤだなと思ったことです。

−−社会的に体裁が悪いから、FIREを選ばなかったということですね。

いえ、体裁というよりも……自分が何者かというアイデンティティがないことに抵抗があったんですね。自分が社会的にどういうコミュニティに属し、そこでどういう人たちと関わるかっていうところまで考えると、経済力だけでは判断できないとの結論に至りました。

20代の投資経験で金融商品の限界を知った

−−荒木さんはサラリーマン投資家の代表とも言える存在ですが、そもそもサラリーマンといってもタイプはさまざまですね。

勤めている会社は業種でいうと広告代理店で、大手の部類に入ると思います。この会社には大学卒業後に入社し、現在も勤務していますので私には転職経験がありません。職種的には、営業や販売企画などを経験してきました。現在は管理職の立場です。

−−ご自身ではこういった表現をされるのはイヤかもしれませんが……一般的にはエリートサラリーマンですね。こういった人が資産を増やす選択肢はいくつもありますが、不動産投資を選ばれた理由は何でしょうか。

30代後半になった頃、ゴールデンウィークに「サラリーマンを続けながらできる副業ってなんだろう?」というテーマで徹底的にネットリサーチをしたんですね。その結果、たどり着いたのが、不動産投資による不労所得でした。

−−株式、FX、仮想通貨などの金融商品は気にならなかったんですか。

前提として、私は20代の頃、株式やFXは経験済みでした。まあ、こういった金融商品の限界をリアルに実感していたわけです。だから、金融商品以外の選択肢として何があるんだろう、というところがスタートラインになったんです。

このとき徹底的にリサーチした結果、不動産投資ならではの魅力が理解できました。1つ目は融資を使ってレバレッジがかけられること、2つ目はインカムゲインを生み出す仕組みであること、そして、3つ目はうまくいけば売却時にキャピタルゲインを得られることです。これらの不動産投資の特性が自分のなかで腹落ちしたんですね。

−−とはいえ、ネット証券で手軽に投資できる金融商品よりも、不動産投資はスタートするときのハードルが高いです。このハードルをどうやってクリアしましたか。

実は、私の身近なところに不動産投資があった、これが大きいですね。それまでまったく自覚していませんでしたが、私が生まれた頃から実家は賃貸併用住宅だったんです。私が不動産投資に興味を持った30代後半当時も実家は賃貸併用住宅だったので、将来、物件を継承したときにきちんと守られるよう大家としてのスキルを身につけなければならない、そんな気持ちも不動産投資への挑戦を後押ししてくれました。

「物件を買うのは銀行」と考えるとムダが省ける

−−さきほど不動産投資の3つのメリットを挙げられましたが、逆にデメリットはありますか。サラリーマン投資家としての大変さは何でしょうか。

物件を管理していくという観点でいえば、大変さは感じませんね。サラリーマンに限らず、例えば主婦のかたでも不動産投資による副業はしやすいと思います。

物件管理でいうと、最近は、管理会社のDX化が進んでいるので、オーナーの負担が劇的に減っています。以前は、管理会社から送られてくる書類をファイリングして保管・管理する手間がありました。しかし、最近は、PDFのデータをGoogleドライブに送ってもらって、それを税理士と共有するだけで済みます。ここでお話したのは一例ですが、デジタルツールをうまく駆使すれば、不動産投資に使う時間はわずかです。

また、入居者が退去したあとの業務は、パターン化しておけばルーティンワークのように処理できます。例えば、修繕の見積りは相見積もりをとる、入居者付けは広告費を活用するといった具合に、ある程度のノウハウ持っていれば、容易にパターン化できます。このパターン化さえきちんとやっておけば、物件管理で突発的なタスクが発生することは、ほぼありません。

−−ただ、不動産投資の初心者は、パターンをつくる前段階のノウハウ自体がありません。

私自身の体験でいえば、不動産実務検定の2級、1級を取得し、さらにマスターに認定されたことが大きかったと思います。これは資格名の通り、不動産投資の実践的な知識を体系的に学ぶものです。この資格を通して知識を身につけたおかげで、オーナーがやるべきこと、やれることはここまでだということが明確になりました。

−−自由に使える時間の少ないサラリーマンだと、物件購入のフェーズも効率的に進めなければなりません。

物件購入の負担を減らすポイントは、パートナーと連携することです。私は「物件を買うのは最終的に銀行だ」という考え方を基本にしています。やみくもに金融機関を開拓するのではなく、「今、不動産投資に積極的に融資したい銀行はどこなのか」「その銀行はどこの銀行とバッティングしているのか」という2つのポイントが大事です。

このポイントを意識すると、融資を受けやすい金融機関を開拓しやすくなります。加えて、銀行、仲介、買主である私の3者が「この物件を仕上げに行こう」と一致団結することが大事です。こういった環境をつくると、物件購入がスムーズにいきやすいんですね。買主の物件を買いたい気持ちが空回りして、金融機関の担当者が乗り気じゃないのに無理やり稟議上げても何もいいことはありません。

−−サラリーマン大家としてデビューしても、うまくやっていけるのだろうかという不安はどう解消すればよいでしょうか。

たしかに、サラリーマン大家が、資産規模が大きく経験豊富なメガ大家に対抗するのは難しいでしょう。しかし、サラリーマン大家の競合はこういったメガ大家ではなく、昔ながらの地主大家と私は考えます。

地主大家は土地を仕入れる費用が不要のため、空室率がかなり高くなっても赤字にならないのが普通です。こういった地主大家のなかには、1室、2室の空室が発生しても、すぐに埋めようと必死にならない、入居者付けを本気でしない人も結構いらっしゃるんですね。

こういった余裕のある地主大家に対して、サラリーマン大家が入居者付けの努力をしっかりしていけば、優位に競争していくことは可能ではないでしょうか。

後編に続く

荒木陽介さん

荒木陽介さんのTwitter(外部リンク)

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