安倍前首相が持病の潰瘍性大腸炎が悪化したため首相を辞任しました。これにより、首相に就任した2012年12月から2020年9月までの7年9ヵ月間、経済政策として掲げてきたアベノミクスが終わることになります。
菅新首相がアベノミクスを継承するかどうかはわかりませんが、安倍首相の辞任でアベノミクスはひとまず幕を閉じます。
これまでのアベノミクスを振り返りつつ、近年注目されているMMT(現代貨幣理論)・ヘリコプターマネーのマクロ経済理論との関係を見ていきましょう。
アベノミクスの振り返り
安倍政権となったのは2012年のことなので、アベノミクス自体がどのような政策だったか忘れている方もいるかもしれません。ここで、おさらいしておきましょう。
「アベノミクス」の語源は、第40代アメリカ大統領ドナルド・レーガンが掲げた「レーガノミクス」と言われています。
アベノミクスは、首相官邸のHPでは以下のように記載されています。
「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」という日本経済の課題を克服するため、安倍政権は、「デフレからの脱却」と「富の拡大」を目指しています。
これらを実現する経済政策が、アベノミクス「3本の矢」です。
(出典:首相官邸HP)
「3本の矢」とは、以下のとおりです。
大胆な量的緩和を伴う金融政策(リフレーション)
機動的な財政政策(ケインジアン)
成長戦略への誘導(サプライサイドエコノミクス)
1本目の金融政策に関しては、財務省財務官だった黒田東彦を第31代日銀総裁に迎え、デフレからの脱却をベースに2%のインフレ目標を掲げました。具体的には無制限の量的緩和と円高是正政策をとり、リフレ派と呼ばれる学者や実務者をブレーンに金融政策を進めました。
今年に入って新型コロナウイルスの感染が拡大したことで一層の金融政策発動が求められ、政府国債、ETF、CP、社債などの買い入れにより、2020年3月末の貸借対照表の残高は約604兆円になりました。
内訳を見ると、日本国債の買い入れにより国債残高が約486兆円とバランスシートの80%を占めています。
アベノミクス開始後の2015年3月末の残高は約324兆円だったので、5年で約1.5倍に拡大したことになります。
2013年4月4日に黒田総裁が発表した「量的・質的金融緩和」(通称QQE いわゆる「黒田バズーカ」)では、物価安定の目標は2%(CPI前年比)、目標達成期間は2年、マネタリーベースは2年間で2倍に、国債保有額・平均残存期間は2年で2倍以上に、と「2」という数字のオンパレードでした。これを振り返ると、最も重要なCPI(消費者物価指数)前年比2%という目標は、まったく達成できなかったわけです。
CPIが前年比2%を超えたのは、2014年4月の消費税を5%から8%へ上げた時だけです。2019年10月の8%から10%への増税時は、上昇率は1%未満でした。
2本目の財政政策ですが、国と地方の長期債務残高は、政権発足時(2012年)は932兆円、対GDP比で189%でした。それが2020年は1,125兆円、対GDP比197%になっています。
「国土強靭化」の名のもとに、多発する自然災害に備えることや、老朽化した道路や堤防、橋などを造り直すことを目的として建設国債を発行し、それを日銀が買い入れるという政策を通じて、政府自ら需要を生み出したのです。これは、後述のMMT・ヘリコプターマネーに関係します。
3本目の成長戦略への誘導は、ほとんど機能しませんでした。規制緩和を一層進めて民間需要を高める事が目的でしたが、岩盤規制とも呼ばれる既得権益を崩すことができず、規制緩和による特需を民間にもたらすことはできませんでした。
今回のコロナ禍によって日本のIT化の極端な遅れが露呈するなど、3本目に関しては結果的にほとんど進展しませんでした。
アベノミクスの主要ブレーンの一人である浜田宏一東京大学・イェール大学名誉教授は、金融政策はA、財政政策はB、成長戦略はE(これらの頭文字をとってABE)と評価しています。
MMT・ヘリコプターマネーとは
ここで、財政政策に関係するMMT理論について見ていきましょう。
今回のコロナ禍においては世界経済が大混乱に陥り、その状態が継続しています。未来のことを考える余裕はなく、目の前の危機を乗り越えることに集中しなければなりません。このような時期には、なりふり構わず財政政策を発動する必要があります。困難な状況にある人や企業を助け、働き場所をしっかり確保することが最も重要な政策になるのです。
財務省の財政均衡理論に異論を唱えたのが、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授などが唱えたMMT(Modern Monetary Theory)です。要約すると、「自国通貨建てで政府が借金をして資金を調達しても、インフレにならない限り財政赤字は問題ない」という理論です。
これは財務省の財政均衡理論を真っ向から否定する考え方で、伝統的な経済理論からすると異端とも言えます。政府支出については、財政規律ではなく失業率(完全雇用の実現)や賃金の適切な上昇、インフレ率を重視すべきとしています。
MMT理論は、デフレーションが続き、金利が低い通貨発行国には有用ですが、インフレ国や通貨を発行できないギリシャのような国には適用できません。
ヘリコプターマネー論とは、ヘリコプターからお金をばらまくような、中央銀行による財政ファイナンスを指します。
これは、日銀が国債を永久に保有することで、民間に対する国の借金が解消されるという理論です。これは禁じ手とも言え、今回のコロナ禍のような非常時にのみ使える理論です。
MMT理論とヘリコプターマネー理論は、まったく異なるマクロ経済理論です。
コロナ禍の非常事態でどのような経済政策をとるべきか
MMT理論やヘリコプターマネー理論が正しいかどうかはわかりませんが、今回のコロナ禍においては常識が通用しないので、従来の枠組みの中の経済政策では景気は上向かないのではないでしょうか。
言い換えると、従来の枠組みを超えた大胆な経済政策でしか景気浮揚は望めない状態にあるということです。
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