フィリピン・セブのオフィス需要をけん引するESL

近年、中部ビサヤ諸島のトップ大学では、インド人、ナイジェリア人、タイ人、アメリカ人、韓国人、ニューギニア人、ケニア人など、海外からの外国人学生が、地域の経済の中心であるセブにおいて就学し、第3期教育(大学や高等専門学校における教育)を受けるケースが増えています。外国人学生に最も人気がある過程は、医学、薬学、歯学です。

外国人学生がセブで学ぶことを選ぶ理由の一つは、良質かつ安価な教育を受けることができるからです。

そのような状況で英語学習は特に、セブでは大きなビジネスとなっています。

ESLとは

ESLとは、English as Second Language(第二外国語としての英語)の略です。セブには、韓国、日本、中国、台湾をはじめとして、様々な国から多くの人が英語を学びに来ています。

現在、中部ビサヤ地方には約150校のESLセンターがあります。その中心地であるセブには、オンライン/オフライン合わせて100ものESLセンターがあり、ESLのメッカとなっています。

なぜセブが人気なのか

セブがESLのハブとして台頭してきたのには、以下のような理由があげられています。アクセスのしやすさや質の良い授業が安価に受けられることに加えて、レストランやレジャーなどのプラスαがあることも魅力の一つのようです。

  • アジア各国から直行便がある
  • ESL費用・滞在費が先進諸国と比べて安い
  • 高度な資格を持った英語教師がそろっている
  • 英語が堪能な人口が多い
  • レストランやレジャー設備があり、ビーチも近い

英語を話す環境があり、学校、レストラン、レジャーといった様々な施設があるので、学校で学んだことを地元の人たちや他の学生との交流のなかで実際に使うことができます。

政府もESL事業に注目

政府もESL事業のポテンシャルに注目しています。

フィリピン観光局(Department of Tourism)の中央ビサヤ地方事務所(DOT-7)は、より多くの観光収入を得ることができるESL業界の高いポテンシャルを引き出すために、2020年7月にセブ市でESL全国大会(ESL National Convention)を開催します。

DOT-7の地方ダイレクターである、シャリマー・O.・タマノ氏は、セブは、観光業界でも急成長中のサブセクター「エデュケーション・ツーリズム(教育観光)」を、ESLを通じてリードしていくべきだと述べています。教育観光は、学習と観光が同時にできるということで、長期滞在だけでなく、体験型観光を促進することができるため、今後大きな可能性を秘めています。

実際、1週間ないし3か月セブに滞在するESLの学生は、授業だけでなく、観光、ショッピングなどにもお金を使っていきます。セブにあるESL校の多くも、校内にプールを設置したり、ボートを用意したりと、学生のためにレジャー設備をもっていることもわかっています。

観光局は、全国大会を行うことで、この業界でのプレイヤー数、その懸案事項などを把握する狙いです。現在はまだ、セブにおけるESL学生数を把握する調査をしている段階ですが、ESL業界が過去5年間で「指数関数的成長」を遂げてきたことを受けて、ESL業界の地元経済への貢献度を計る調査を開始するとも発表しています。また、ESL校を集めたコミュニティを作ることで、政府が適切なサポートをできるようにしたいとも考えているようです。

さらに、国外からセブへの飛行機でのアクセスの良さを利用し、従来の市場である韓国、日本、中国、タイ、台湾だけでなく、ヨーロッパや中東、アフリカなどの市場への参入も視野に入れています。

ESL校は、DOT認証の専門教育と技術向上を管轄する期間、TESDA(Technical Education and Skills Development Authority)のライセンスを受けていなくてはなりません。また、学生は、入国管理局が発行する特別就学許可証(SSP)を持っている必要があります。

地元のオンラインニュースSunstar Cebuでは、2018年に入国管理局から外国人学生に発給されたSSPは59,428件、一方で2013年は22,561件だったと伝えています。

高学歴のESL教師

セブは永くフィリピン南部における教育の中心となってきました。2018年6月時点で、中部ビサヤ諸島には165の高等教育機関(HEI)があり、会計、看護、教員養成、IT、環境科学、歯学、医学、経営管理、法律など様々なプログラムを提供しています。

昨年、39,000人以上の学生が、同地域のHEIを卒業しました。

これらの学生の中にはESL教師になる者もいます。このような教師候補となりうる高学歴の人材の大きなプールが、セブおよび地域のESLを加速させており、観光局がESL業界の拡大に自信を見せている理由でもあります。

拡大するESL事業者の賃貸面積

上記のような背景から、ESL事業の拡大にともなって、このような事業者によるオフィススペースの需要が今後さらに高まるとみられています。

不動産サービス会社コリヤーズは、2020年のセブのオフィススペース需要は、ESL事業者からの強い需要にけん引されるだろうと報告しています。同社は、より多くのESL事業者がセブにオープンし、既存の事業者も事業を拡大していくだろうと予想しており、デベロッパーに対して、このような企業のオフィススペース需要をよく検討すべきだとしています。

多くのESL事業者は、最初は小さなオフィススペースでスタートして、事業拡大とともに賃貸面積を広げていくケースが多いようです。

コリヤーズは、2020年から2021年にかけて、セブでは279,000平方メートルの新規オフィススペース供給があると見込んでいます。このうち半分以上が、セブ市内の主要なビジネス街に位置しています。

セブ市内のビジネスエリア、セブITパークやセブ・ビジネスパークに拠点を構えるESL事業者には、QQイングリッシュ、ニュータイプ・インターナショナル・ラングイッジ・スクール、TOMASイングリッシュ・トレーニング・センター、アクセス・Eトーク・プラス、ウィンキー・オンライン・イングリッシュ・アカデミー、ネクシードやセイハ・イングリッシュ・ネットワークなどがあります。

コリヤーズは、デベロッパーはこのようなESL事業者のためにフレキシブルなオフィススペースを提供するべきだと助言しています。

政府も注目するセブのESLビジネス。需要の拡大にともなって、学習をより楽しく魅力的なものにするために、新しいアトラクションなどの開発も促されることになりそうです。今後の動きが注目されます。