2020年,ベトナム不動産,衰退
(画像=Ho Su A Bi/Shutterstock.com)

不動産市場を取り巻くさまざまな問題

不完全な法的枠組み、建設許可がない、または建設を完了できない「ゴースト」物件の販売による投資家の信用喪失、銀行の不動産会社への信用基準引締めなどから、ベトナム不動産市場は2020年、困難に直面すると言われています。

不動産事業法、計画・土地法、すべてが改正され、土地の認可取得、用途変更、競売・入札に関連して多くの変更点が加わりました。しかし、行政手続きはいまだにあいまいで重複や矛盾があるといいます。コンドテル(コンドミニアムとして各個人が購入したユニットをホテルとして運営させるもの)のための法的枠組みも不透明です。

2009年~2010年頃のベトナム不動産市場は、商品はふんだんにあるものの買う人がいない状態で、200兆ベトナムドン(約9,497億円)に相当する在庫をかかえていたといいます。今、この数値が20兆ベトナムドン(約950億円)にまで下がってきています。2020年の問題は、プロジェクトや新商品が少ないことから、過剰供給から供給不足へとシフトしてきていることです。結果として、土地とアパートメント価格が押し上げられています。

ハノイ当局は2020年から適用される市内の公示価格を変更しました。少なくとも15%、人気のエリアでは30%近く上昇することになります。すべてのエリアで地価が急激に上がったため、不動産デベロッパーは用地の取得により多くのお金を払う必要があります。商品の金額も上がるため、販売も厳しくなるでしょう。

2020年の不動産市場をけん引する3つの原動力

上記のような懸念要素がある中、不動産市場の原動力となりうると言われているのが次の3つです。

1.不動産需要の高止まり

ベトナムで急成長するミドルクラスと急速なペースの都市化が不動産需要を支える2つの柱です。

ベトナム統計局によると、ベトナムの2019年の国民一人あたりのGDPは2,720USドル(約30万円)(前年比7.7%増)で、ベトナム人が平米あたり1,000USドル~2,000USドル(約11万円~22万円)のミドルクラスアパートメントを購入できるようになってきました。

2020年から最低賃金5.7%増となることもまた市場を活気づけ、ミドルセグメントのアパートメントの需要を押し上げるでしょう。

ベトナムのミドルクラスは、ASEAN諸国でも最も急速に増加しているものの一つです。ボストン・コンサルティング・グループによると、2014年から2019年までで、ミドルクラスは倍増し3,300万人となり、人口の3分の1を占めるまでになりました。この数値は、2020年には4,400万人、2030年には9,500万人にまで増加すると予想されています。

現在、ベトナムの人口の36%がハノイやホーチミンシティといった大都市に住んでいると言われています。ベトナムの都市人口は、2050年まで毎年3.85%ずつ増えると予想されておりASEAN平均の2.1%よりずっと高い数字となっています。

大都市のアパートに住もうと移住してくる人々でハノイやホーチミンシティの空室率は低く保たれ、リテールやオフィス不動産では、それぞれ8%、10%程度です。この空室率は、2019年のシンガポールの空室率12%よりも低い状態となっています。

2.外国直接投資

ホーチミンシティは、アメリカのアーバン・ランド・インスティテュート(ULI)と世界最大級の専門サービス会社プライスウォーターハウスクーパーズにより、アジア・パシフィック地域における不動産投資家のための市場トップ3に挙げられました。

ホーチミンシティ人民委員会によると、2019年、同市は、83億USドル(約9,140億円)(2018年から39.45%増)の外国投資を呼び込みました。製造業が33.3億USドル(約3,670億円)(40.14%)、続いて不動産セクターが20億USドル(約2,200億円)(25%)となっています。

近年、不動産セクターは、常にFDI(外国直接投資)の第2位か第3位にランクインしています。特に、国内企業と外国企業がお互いの強みを生かして補い合うことができるため、出資・株式購入を通じたFDIが増えてきています。

地元企業は、利用可能な土地を持っていたり、法的手続きを理解していたりと、もちろん強みはありますが、資金、専門性、透明性の不足などの弱みもあります。一方で、一貫しない官僚的な形式主義や変わりやすい法的環境から、外国投資家はベトナム市場への参入をためらいます。出資・株式購入という形でベトナム企業と協力することで、建設を始められる土地区画へのアクセスが可能になります。外国企業はより高いスタンダードを要求するため、ベトナムの不動産会社がスタンダードを引き上げ、透明性を高めることにもつながります。

いくつか、外国企業によるベトナム不動産への投資の例を見てみましょう。

2019年、ファット・ダット・リアルエステート・デベロップメントは、日本のサムティ株式会社のシンガポール現地法人Samty Asia Investment Pte. Ltdと2,250万USドル相当(約24.8億円)の契約を結び(Samtyの出資額は1,500万USドル(約16.5億円))、ホーチミンシティに重点を置いた不動産開発をすることで合意しました。

シンガポールのケッペルグループは、昨年11月、2区における64ヘクタールのスマートタウンシッププロジェクト、サイゴン・スポーツ・シティの工事に着工しています。総工費3億USドル(約330億円)と言われる同プロジェクトは、4,300戸のアパートメントとスポーツ・エンターテイメント・ライフスタイルハブが入る予定で、2027年の完成を予定しています。

アナリストたちは、ホーチミンシティの不動産市場は、2020年以降も外国からの投資の流入先となるだろうと予想しています。

3.新興セグメント(リゾート&工業不動産)

総合不動産会社サヴィルズ・ベトナムによると、2020年は、リゾート不動産、工業不動産といった新しいセグメントの需要増加が見られるだろうとしています。

ノヴァランド、ヴィンホームズ、ソンキム・ランド、レフィコなど少数に限られますが、ベトナム企業はハイエンド・ラグジュアリー部門で外国企業と競合できるようになってきています。

2019年の外国人観光客数は1,800万人以上(対前年+16.2%)となり、不動産デベロッパーにとって、ダナン、フーコック、ニャチャンといった観光客に人気のエリアにリゾート物件を導入するにはいい機会となっています。

しかし、この新しいタイプのセグメントに関する法的な環境はまだあまり整っていません。規制当局はまだリゾート物件の所有権の期間や収益シェアのしくみに合意していませんので、注意が必要です。

米中貿易戦争およびEU-ベトナム自由貿易協定(FVFTA)を含む、新しい自由貿易協定により、中国から生産拠点をベトナムにシフトさせる企業が増える中、工業不動産への需要も高まっています。ホーチミンシティ、ビンズオン、ドンナイといった主要なエリアでは、2019年第2四半期の工業不動産の稼働率は81%にもなっています。賃料も、2019年、複数の県で大幅に上昇しました。

サヴィルズ・ベトナムによると、投資家にとってベトナムが中国より魅力的なところは、低い賃料にあります。平均的な工業不動産の賃料は四半期・平米あたり100~140USドル(約11,000~15,400円)で、中国は四半期・平米あたり180USドル(約19,800円)だと言います。ホーチミンシティなど主要エリアはもう少し高く四半期・平米あたり160USドル(約17,600円)ですが、それでも中国より安い状態です。

ホーチミンシティにあるタントゥアン輸出加工区では、工場などの製造コンプレックスを補完するための総合施設建設の計画が進められているといいます。これには、ファミリー向けのリテール施設、エンターテイメントコンプレックス、教育機関なども含まれます。これは、可能性あふれるこの不動産セグメントに外国投資家が投資をするに絶好の機会となりそうです。

*日本円表示は記事執筆時の為替レートで換算した参考表示です。

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