シンガポール不動産市場,新型コロナウィルス
(画像=Getty Studio/Shutterstock.com)

2020年2月27日、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、安倍総理大臣は3月2日から、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを表明しました。

2019年12月、中国・武漢から発生した新型コロナウィルスの影響は世界中に出ています。新型コロナウィルス(Covid-19)による経済的な影響を計ろうとさまざまな取り組みがなされています。

市場の専門家、投資家は、世界で最も開かれた経済を持つ国の一つ、シンガポールについても注意深く観察しています。

本日は、2月15日にビジネスタイムズ紙(オンライン)に掲載された総合不動産サービス会社JLLによる新型コロナウィルス(Covid-19)のシンガポール不動産への影響に関する記事をご紹介していきましょう。

JLLは、今年の成長率はやや減速気味となるものの、中国がその余波を食い止め世界経済の安定性を保とうと迅速で断固たる措置を取っていることもあり、今のままならシンガポールが大幅な修正を余儀なくされることはないとしています。

伝統的に域内でも安全な場所とみられてきたシンガポールの不動産は、2003年のSARS流行以降、国の経済の多様化を図ることで、さらなる回復力を身に着けてきました。

JLLは、2003年のSARS流行時よりも、新型コロナウィルスの下振れリスクに対するクッションができていると考えています。

SARSが流行したのは、世界を不況に追い込んだ2001年のインターネットバブル(英語ではdot-com bubble(ドットコムバブル)と呼ばれる)を受けて、シンガポールの不動産の賃貸需要がすでに落ち込んでいるときでした。ほとんどの不動産セクターにおいて賃貸料はすでに下降気味でした。

SARSの流行は、2003年の年前半にさらなる下向きの圧力をかけ、市場は弱気となり、賃料は下落しました。

しかし、JLLは、現在の多様化した不動産市場とマクロ経済状況は、SARS流行当時とは異なると指摘しています。各セクターについての同社の予想は以下の通りです。

○オフィス
需要ベースは広がりテナントミックスも豊かになっています。従来の金融や保険会社に加えて、テクノロジー企業とビジネスサービス企業も増え、向かい風に強い安定性のある基盤ができあがっています。

○リテール
消費者がショッピングモールなどの混雑した場所を避けるようになるため、ウィルスの流行は、観光業とリテールに対して不利な状況を作り出します。市場回復に向けて課題に直面するだろうと予想されています。

外出を控える消費者は、よりEコマースに頼ろうとしますので、オンラインプラットフォームを持つ小売業者の方が、そうでない小売業者と比較するとこの状況をよりよく切り抜けられそうです。

○物流および倉庫スペース
Eコマースの小売業者に十分支持されるはずです。新鮮食品および医療用品のための倉庫需要も増えるかもしれません。薬品・食品関連業界のスタンダードが上がれば、コールドチェーン物流の後押しにもなるでしょう。

セクターが貿易に大きく依存していることもあり、貿易摩擦に加えて、製造活動の停止、中国の各都市のロックダウンやフライトの制限などで、完全回復に向けてのスピードは弱まるでしょう。

○レジデンシャル
駐在員が出向時期を延期したり、企業が外国人の雇用を見送ったりすることが考えられるので、2020年前半の賃貸需要は弱い状態が続くでしょう。

旅行を取りやめる人が増加、ウィルスの状況が落ち着くまで国内バイヤーもビューイング(内覧)を控えるため、販売量は短期的には影響を受けるでしょう。

しかし、JLLは、多くの販売会社が価格下落の圧力に耐えうるだろうとしています。バイヤーの需要自体は堅調なので、流行が落ち着きを取り戻せば、繰延需要として再浮上すると予想しています。投資家が一般的に様子見のアプローチをとるため、2020年前半の取引量には影響を及ぼすとみられていますが、新型コロナウィルスの流行が年後半に持ち越さない限り、シンガポールの投資市場全体への影響も限定的になると考えられています。

以上のことから、JLLは、新型コロナウィルスがシンガポールの不動産市場に長期的に影響を与えることはなさそうとの見方を示しており、シンガポールの中長期的な市場ファンダメンタルズは変わらないまま、この時期もうまく切り抜けられると予想しています。

JLLの記事の前日、2月14日に発表された不動産サービス会社コリアーズの「2020年シンガポール不動産市場見通し」に関連して、同社のシンガポール市場リサーチヘッドも、新型コロナウィルスの流行について、短期的には、特に観光関連のセクターを中心として下振れリスクがあるけれども、シンガポールの観光業の長期的な成長ドライバーには影響はほぼないだろうとコメントしています。ただし、新型コロナウィルスのシンガポールの経済への影響を見極めるのには、時期尚早とも加えています。

一方で、2月17日には、シンガポール通商産業省(MTI)は、2020年の経済成長見通しを-0.5%~1.5%に下げました。また、新型コロナウィルスの流行により見通しが弱まったことを受けて、景気後退の可能性についても示唆しました。

MTIは、成長率が、予想範囲の中間点である0.5%程度に落ち着くとみています。2019年11月、MTIの2020年経済成長見通しは0.5%~2.5%でした。

新型コロナウィルスの状況はいまだ刻々と変化しています。この流行がいつまで続くのか、またその影響の度合いについても、今後も注目していく必要があります。