タイ,不動産市場,下方修正
(画像=apiguide/Shutterstock.com)

新型コロナウィルスの流行によりGDP成長率予測が下方修正されたのを受けて、タイの不動産情報センター(Real Estate Information Center (REIC))は、レジデンシャル不動産市場成長率予測を当初の5~7%から、3~5%に下方修正したとバンコクポスト(オンライン)が報じています。

REICのウィチャイ・ウィラットカパン局長代理は、新型コロナウィルスの脅威は、世界経済、国内経済に大きな影響を与えるだろうと発言しています。

「不動産市場の刺激策や金利の引き下げにも関わらず、新型コロナウィルスの流行が経済に与える影響を懸念して、市場心理は弱気になるでしょう。」

2020年2月半ば、タイ国家経済社会開発委員会(National Economic and Social Development Board(NESDB))は、2020年の経済成長予測を、昨年11月時点の予測2.7~3.7%から、1.5%~2.5%へと引き下げました。2019年のGDP成長率は2.4%と過去5年で最も低いレベルでした。

ウィチャイ氏は、この予測見直しの主な要因として、中国人バイヤーによるレジデンシャル取引の低迷を挙げています。

不動産市場ワーストシナリオ・ベストシナリオ

REICの基本的なシナリオとしては、タイ国内全体で取引されるユニットの数は、昨年11月の予測0.2%減から下がって、前年比4.5%減の356,661ユニットになる見通しです。

ワーストシナリオでは14%の暴落(320,995ユニット)、ベストシナリオでは3.9%の増加(387,927ユニット)を描いています。

基本的なシナリオにおける予想取引総額は、前年比6.1%減の8,220億バーツ(約2兆7,455億円)、ワーストシナリオでは15.5%減の7,400億バーツ(約2兆4,716億円)、ベストシナリオでは2.8%増の9,000億バーツ(約3兆60億円)となっています。

2019年、タイ全体でのレジデンシャルユニットの取引件数は、前年比2.7%増の373,365ユニットでした。取引総額は、前年比4.3%増の8,750億バーツ(約2兆9,225億円)でした。

ウィチャイ氏は、デベロッパー各社が、LTV(Loan-to-Value、不動産価格に対する借入金の割合)引き締めの影響と昨年後半の市場心理から学習済みで、今年の過剰供給を制御する動きが出るとみています。LTVは2018年10月に市場の過熱抑制を目的に引き締めがされましたが、2020年1月末に一部緩和されています。

各専門家の見方

アユタヤ銀行のチーフエコノミスト・リサーチヘッド兼執行副社長のソンプラウィン・マンプラセート氏は、経済成長の頭打ちには、3つの要因があると指摘しています。

(1) 新型コロナウィルスの流行による観光への打撃(GDP成長率への影響:△0.4%)

中国は世界の観光市場で重要な役割を果たしており、2002年は3%であったシェアが、いまや20%にまで成長していると言います。国連観光機関と中国観光学院の共同ガイドラインによると、2000年には450万人だった中国人海外旅行者は、2018年には1億5,000万人に増加、毎年平均16%増とのデータもあります。

新型コロナウィルスの流行は、観光業だけでなく、世界的なサプライチェーンにも影響を与えており、多くの物資が中国から輸出されないでいます。失業にもつながるでしょう。

新型コロナウィルスは、タイの第1四半期に壊滅的な打撃をあたえることになりそうです。第2四半期はやや改善、第3四半期は、たまっていた需要による観光客数の増加で回復するというのがソンプラウィン氏の見方です。

タイ旅行業協会

また、ソンプラウィン氏は、年後半には不動産市場も前向きになるのではと考えています。新型コロナウィルスの致死率がさほど高くないとして、3月、4月でピークを迎え、5月頃には感染者数が落ち着いて、それ以降は減少していくのではと述べています。

しかし、3月に入って、欧州・米州を中心にまだまだ感染者数が増えている現状を鑑みると、もう少し注意深く状況を見守る必要がありそうです。

(2)記録的な干ばつ(GDP成長率への影響:△0.3%)

40年に一度と言われる水不足が5月まで続けば、農業に与える損害は200億バーツ(約668億円)、9月まで続けば400億バーツ(約1,336億円)に上ると言われています。

▼地表土壌水分の分布(茶色が濃いほど乾いている)

NASA Earth Observatory

(出所:NASA Earth Observatory)

(3) 予算成立の遅れ(GDP成長率への影響:△0.1%)

2020年度(2019年10月~2020年9月)予算が年度の初めからおよそ5カ月遅れで成立。運輸省を中心に進められている政府のメガプロジェクトのための4,000億バーツ(約1兆3,360億円)のうち1,500億バーツ(約5,010億円)ほどの支出が延期となる見通しです。

タイ商工会議所(UTCC)大学の学長、タワナット・ポンウィチャイ氏は、新型コロナウィルスの感染者数の今後の減少や、新未来政党(Future Forward Party)の解党後の政治的な安定といった前向きな要因もあると述べています。「流行が6月に落ち着けば、9月には観光業も回復するでしょう。」

タナワット氏は、価格が下がっているため、マイホーム購入を検討している人にとっては今が買い時だろうとしています。

タイの新型コロナウィルスに関する状況

2020年3月29日(21:00)時点で、タイの感染者数は1,388名、回復者数は127名、死亡者数は7名となっています。

3月30日現在、タイは非常事態宣言により、外国人の入国を原則禁止としています。

ただし、労働許可証を有する外国人、外交団、国際機関の職員、政府の代表等に限り、健康証明書(出発の72時間以内に発行されたもの)の提示があれば、入国は可能となっています。トランジットを行う外国人は、3月31日までに限り、健康証明書の提示を行えば、24時間以内の乗換が認められています。

以上