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最近、ネットニュースや雑誌などで「ベーシックインカム」という言葉をたびたび目にするようになりました。社会保障政策の1つとして、さまざまな問題を解決できるものとして期待されています。誤解されがちなこの言葉の意味や、似た概念との違いなどを解説します。

コロナ禍で注目を浴びたベーシックインカム

新型コロナウイルスの感染拡大による影響が続く中、ベーシックインカムが注目されています。すべての国民へ生活に必要な一定の収入を保障するこの制度は、「究極の社会保障政策」と言えます。経済の停滞によって収入が途絶えた人にとっては、希望の光と言えるでしょう。

ベーシックインカムの特徴は、無条件で平等な給付です。日本にも、「健康で文化的な最低限度の生活」をうたった憲法25条に基づく生活保護制度があります。生活保護の受給には収入などの厳しい要件があり、誰でも受給できるわけではありません。一方でベーシックインカムは、生まれた年や年収、家族構成などに関係なく、一律に給付を受けられます。

海外では、導入に向けた動きがあります。時事通信社の報道によると、2020年5月29日にスペインでベーシックインカム制度の導入が閣議決定されました。コロナ以前にもフィンランドで実証実験が行われるなど、関心が高まっています。

日本では、コロナ禍で特別定額給付金が支給されました。無条件で世帯の人数×10万円が配られるこの政策は、ベーシックインカムに近い考え方です。もし、毎月○万円または毎年○万円という形で継続的に行われるようになれば、その制度はベーシックインカムと言えます。

キング牧師もベーシックインカム支持者だった

ベーシックインカムの主な目的は、生活困窮者への支援です。また、社会保障を一元化することで制度を簡素化し、公的機関の事務費用を削減する目的もあります。

ベーシックインカムには、すべての「働く人」が収入を得られる公平なシステムという意味合いもあります。労働は給与や事業収入など、目に見える形で対価を得られるものだけではありません。家事や介護、育児なども、広い意味では労働です。

家事労働をお金に換算する研究は、広く行われています。内閣府経済社会総合研究所「無償労働の貨幣評価」によると、女性1人当たりの家事活動を貨幣評価すると、年間で193万円5,000円になるそうです。ベーシックインカムは、このような無償労働にも正当な対価を与えることができます。

山森亮「生きていることは労働だ(2007年9月7日バージョン)」によると、1970年前後にイタリアで「家事労働に賃金を!」のスローガンを掲げたフェミニズム運動が行われ、やがてベーシックインカムの主張へと発展しました。同様の運動は、同時期に世界中で行われています。公民権運動で有名なキング牧師が暗殺されたのも、ベーシックインカムを求める運動の最中でした。

ベーシックインカムは生活困窮者を救うだけでなく、平等な社会を実現するための手段でもあるのです。

ベーシックインカムのバリエーション1:負の所得税

ベーシックインカムとは構造が異なりますが、すべての国民に収入をもたらすという意味で「負の所得税」は似た考え方を持っています。これは収入によって給付額を変える制度で、ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンが提唱しました。

所得が一定の基準を上回る場合、日本の税制と同様に所得税を徴収します。下回る場合は差額の一部を給付します。働いていない、あるいは有償労働による収入が少なくても、最低限の収入が得られるわけです。

この提案が画期的なのは、基準収入と実際の収入との差額を穴埋めするように支給するのではなく、一定の割合に留まる点です。たとえば、基準が300万円、収入が120万円、「負の所得税」の税率が50%の場合、支給額は(300万円-120万円)×50%=90万円となり、収入の合計は210万円です。

現行の生活保護制度では、労働収入があればその分給付額が減ります。そのため、労働意欲を失う人が少なからずいることが問題になっています。「負の所得税」では働いた分収入が増えるので、生活保護制度ほど労働意欲は減退しないでしょう。また、一定以上の収入があれば給付されないため、ベーシックインカムに比べて少ない財源で運営できます。

ベーシックインカムのバリエーション2:ベーシックキャピタル

ベーシックインカムは、無条件で継続的な給付を受けられる仕組みです。一方で、ベーシックキャピタルは無条件で1回限り、あるいは数回まとまった金額の給付を受けられます。たとえば、「子どもが産まれたら1,000万円、成人したら1,000万円」という具合です。

ベーシックキャピタルの特徴は、まとまったお金がもらえるため、給付金の使途が多様であることです。留学や進学などの自己投資に使ったり、運用して増やしたりすることもできます。上手くいけば、その後の生活を支えるのに十分な資金を若くして得られるかもしれません。

ただし、使い方のコントロールが難しいという問題があります。無計画に使ってしまうと、老後を迎えてから生活資金が足りなくなるということにもなりかねません。また、親による横領も懸念されます。基本的に年金で受け取り、一定の要件のもとでまとまった金額の給付を受けられるようにするなど、健全に管理する仕組みが必要になるでしょう。

ベーシックインカムと不労所得の違い

近年はベーシックインカムの認知度が上がったせいか、インターネットサイトやSNS上でしばしば言及されるようになりました。その中には、ベーシックインカムを不労所得と混同しているものも見受けられます。「副業でベーシックインカムを作る」といった宣伝には、近づいた人に情報商材を売ったり、コンサルティングなどのサービスを提供しようとしたりするものもあるでしょう。

ここまで読んでいただければおわかりかと思いますが、ベーシックインカムは「無条件で」「すべての人に」「一定の金額を」給付する「社会保障政策」です。自分でお金を増やしたり、他の個人や会社にもらったりするものではありません。誤った表現を目にすることは、ベーシックインカムへの理解を妨げることになるでしょう。

今の社会で、何もせずに収入を得られるようになることは基本的にはありません。「不労所得が得られる」ものとして不動産賃貸経営が挙げられることがありますが、物件を取得するまでの努力や満室経営のための工夫は必要です。労働時間と収入が比例しないだけで、労働は存在します。無条件で固定収入が得られると錯覚させるような宣伝には、十分注意してください。

不労所得を得るためには努力が必要

ベーシックインカムは、無条件ですべての人に一定の継続的な収入を保障する政策です。社会保障の仕組みをシンプルにし、家事などの無償労働に従事する人たちへの平等な給付を実現します。

一方、不労所得とは労働時間に縛られない収入のことであり、努力によって実現するものです。現在の日本で不労所得が欲しければ、何らかの行動を起こす必要があります。

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