クラウドファンディング特集#04
左からsuageのスープカレー、YASHICA、しろくま湯たんぽ(画像=各プロジェクト起案者提供)

クラウドファンディングのプロジェクトは千差万別。プロジェクトごとに目的や内容が異なる。「自分が惚れたスープカレーをもっと大勢の人に食べて欲しい」、「自分達のデザインをもっと世に広めたい」、「レトロなカメラを復刻させたい」――。取材を通して感じたのは、彼らがそのプロジェクトにかける思いの数々。彼らがクラウドファンディングを活用したのは、資金調達以外にそれぞれの理由や思いがあった。(取材・文 新井奈央)

特集第3回に続いて、今回もプロジェクト発案者(起案者)たちのクラウドファンディングの経験談を紹介していこう。

仲間が集結して呼び込んだ札幌の味! SUAGEのケース

「suage」は、札幌で数店舗を展開するスープカレーの有名店。札幌ではスープカレーの人気店として知られているが、東京にはまだ店舗がなかった。今回、取材を受けてくれた竹下遼さんが勤める会計事務所では事務所の代表が札幌出身で、以前から「東京にsuageの店舗があったら嬉しいね」などと話していたという。実は竹下さんも北海道出身で、同じ思いを抱えていた。現在、その竹下さんはsuage渋谷店の運営本部のマネージャーを務める。

「東京にもスープカレーのお店がいくつか進出していますが、代表も私もsuageの大ファンでした。こっちに店舗ができないものかと前々から思っていたんですが、だったら自分達で作ってしまおうと思い立ちました」(竹下さん)

スープカレーは1970年頃、札幌の飲食店が考案したとされる。チキンや豚、野菜などから取ったダシにたくさんのスパイスを合わせた薬膳カレーだ。2000年代半ば、横浜にある「カレーミュージアム」でスープカレーを扱ったことをきっかけに、札幌の「ご当地グルメ」としてブームが到来。その後ブームは落ち着いたが、地元の札幌ではソウルフードの一つとして定着している。

竹下さんが勤める会計事務所では飲食事業を手掛ける顧客もいたほか、会計事業の傍らカフェ事業なども展開していたため、飲食業の経営には多少のノウハウがあった。とはいえ、SUAGEとは何のパイプもなかったことから、とりあえずSUAGEのホームページで問い合わせをしてみるところからスタート。その後、東京での店舗をオープンする計画を進めることになった。ではなぜ、クラウドファンディングを活用しようという考えに至ったのか。

「会計事務所に以前クラウドファンディングを使った経験のあるスタッフがいたんです。そのスタッフの話を聞いて、じゃあやってみようと。資金集めというよりは、クラウドファンディングによってSUAGEを多くの人に認知してもらうことがメインの目的でした」(竹下さん)

2019年4月下旬、キャンプファイヤーで「全国出店プロジェクト」と銘打ち、支援の募集を開始。約1カ月後には目標金額100万円に対して200万円近い支援が集まった。竹下さんはプロジェクト開始当初、ここまで資金が集まるとは思っていなかったようだ。

「東京に住む北海道出身者はもちろん、北海道民にも支援を頂けたらいいなと思っていました。札幌のsuage本部ではSNSをあまり活用していなかったので、東京での認知度がどこまであるかは未知数の状態。ここまで伸びるとは思っていなかったので嬉しい驚きでしたね」(竹下さん)

竹下さんは、プロジェクト成功の要因を「もともとあったsuageの認知度がクラウドファンディングを通して表面化したのでは」と分析する。SNSを積極的に活用していなかったため認知度が目に見えづらかったが、クラウドファンディングによってそれが可視化したわけだ。つまり、クラウドファンディングには潜在的な認知度や人々の間に眠っている需要を掘り起こす効果が期待できるということだろう。

こうして2019年5月27日、無事にsuage渋谷店がオープンした。店舗はプロジェクトを手掛けたキャンプファイヤー本社の近くにあるため、プロジェクト担当者も何度か店舗を訪れようとしたが、コアタイムはいつも行列ができるほど人気でなかなか入れないようだ。

クラウドファンディング特集#04
suageのスープカレー。(提供=suage渋谷店)

プロジェクト終了後も小まめな活動報告が必要

飲食店をはじめ、小売、アパレルなどは消費者との距離が近い業態とはいえ、店舗をオープンする前から消費者と密接にやり取りできる機会はあまりない。しかし、クラウドファンディングではその点が違う。竹下さんはクラウドファンディングのメリットとして「店を開く前から応援してくれる人の声を聞くことができること」を挙げる。ただ、いいことづくめのように思えるクラウドファンディングにも苦労があったようだ。

「まず、プロジェクトの仕掛けを考えるのが大変でした。もちろんプロに依頼することはできましたが、スタッフ全員で一からやる気持ちを大切にしようと考え、全て自分たちだけでやることにしたんです。クラウドファンディングのリターンの内容を考えたり、クーポン券を手作業で送付したりとやることが山積みでした」(竹下さん)

東京でのSUAGEの出店に向けてスタッフが一丸となって臨み、実際のオープンまでこぎ着けることができた。しかし、今回のプロジェクトに関して「もう少しやれた」と後悔していることがあるという。

「オープン直前に、何気なく投稿したツイッターが有名人がリツイートしてくれたりして盛り上がったんです。もっと初期からツイッターなどのSNSを駆使して活動を多くの人に伝えておけば良かったというのはありますね。プロジェクトが終了した後も、SNSなどを通じた活動報告は小まめにやっていくべきだと思います」(竹下さん)

従来は資金調達をはじめ、数々のハードルを全て起業メンバーだけでクリアする必要があった。しかし、クラウドファンディングで人々の共感を得られれば、そのハードルを大勢の支援者とともに超えることが可能になる。ハードルのクリアによって起業メンバーは店舗を獲得し、支援者たちは満足感を得られる。まさにウィンウィンの関係と言えるだろう。

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suage渋谷店の店内。(提供=suage渋谷店)

ファンからの要望で完成! しろくま湯たんぽのケース

この特集を手掛けている最中、そのかわいさで女性社員たちをざわつかさせた「しろくま湯たんぽ」。オリジナルの絵本やグッズの作成などを手掛けるリトルコチカが生み出した作品の一つだ。リトルコチカは2016年、ディレクターを務めるHayashiさんが立ち上げた。オリジナルグッズの作成のほか、企業のキャラクターや商品のパッケージデザインなども手掛けている。現在は、写真にもあるしろくまがメインキャラクター。しろくまの絵本は作成していたが、以前からぬいぐるみも作りたいとの考えがあったという。

「実際、以前にぬいぐるみの見積もりを出してもらったことがあるんです。ただ、私たちのような小さい事業主では資金の問題もあって、たくさんは作れません。注文数が少なければ当然、単価も高くなってしまいます。少し数を増やせたとしても、在庫を置くスペースが確保できないという問題もありました」(Hayashiさん)

前々から、しろくまのファンからSNSなどを通じてぬいぐるみ作成に対する要望はあった。中には、実際に自分でぬいぐるみのデザインや機能を考えて投稿してくれたファンもいたという。ただ、発注の数が100個単位だと原価でも8000円以上もかかることが判明。5000個レベルのロットであれば単価を抑えられるものの、それだと保管用の倉庫を借りる必要もあり、断念せざるを得なかった。

そうしたファンたちの思いを背景に思いついたのがクラウドファンディングの活用だ。どうせ作るなら単なるぬいぐるみではなく、湯たんぽとしての機能をつけるアイディアをツイッターに上げてみたところ、すぐに4000程度のリツイートを集めたという。そこで、「クラウドファンディングだと資金的なデメリットが少ないですし、受注生産という形でやってみようということになったんです」(Hayashiさん)。

すでにSNSで小さなバズ(SNSなどで話題となり拡散されること)が起こっていたこともあって、クラウドファンディングのプロジェクトのスタートからわずか90分で目標金額の60万円に到達。その後も伸び続け、実にパトロン数936人、目標金額の1157%を達成した。

同プロジェクトは、目標金額に達成しなかった場合にプロジェクト自体がナシになる「オールオアナッシング」型を選択。目標金額を達成できなくてもプロジェクトは続行する「オールイン」型だと小ロットでもぬいぐるみを作らなければならず、リスクが高かっただめだ。ただ、Hayashiさんは「仮に1人しか支援者が集まらなかったとしても、残りの目標金額の全額を自分たちで負担しようという覚悟はありました」と語る。ちなみに、一つだけだと10万円程度の単価がかかる可能性があったようだ。

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しろくま湯たんぽ。(提供=リトルコチカ)

1人1人がプロジェクトの主役。プロジェクト失敗にはリスクも

クラウドファンディングを活用するうえで、Hayashiさんがいくつか気付いたことがあるという。

「プロジェクトの中には、人件費や移動費といった経費を含めた金額にしている案件も見受けられますが、自分たちはクリエイション、作品だけを大事にしていこうと。あとは、支援してくれた方々の信頼感は絶対に失わないようにしないといけません。そのためには、クラウドファンディングを資金調達の方法とは考えず、ファンの方々と一緒に作品を作り上げる姿勢が大事。支援者1人1人がプロジェクトの主役であって、このプロジェクトにおいて私たちは単に〝モノを作る係〟なんだという認識で臨みました」(Hayashiさん)

「購入型」のクラウドファンディングのメリットは、資金を前もって自己調達する必要がないこと。Hayashiさんも、クラウドファンディングによって、クリエイターにとっての資金調達のハードルがすごく下がったと感じているようだ。また、小さい事業主にとって、クラウドファンディングでは実質的な受注生産が可能なため、在庫リスクがないことも大きい。

しかし、プロジェクトが成功しなかった(目標金額に達しなかった)場合は、その商品や作品に対して周囲から「需要があまりないんだな」というマイナスイメージを持たれてしまうリスクがある。その一方で、成功した場合は「やっぱりこれ人気があるんだ」とポジティブにとらえられる可能性が高いという。Hayashiさんは「自分の作品を世に出すためにクラウドファンディングの活用を考えているクリエイターは、そのメリットとリスクを十分意識するべき」と指摘する。

支援を得るには日ごろの活動が重要。モノづくり本来の姿を取り戻す契機に

現在、しろくま湯たんぽは、東京有楽町のマルイやヴィレッジバンガードのオンラインでも購入することができる。当初のしろくま湯たんぽの支援者たちからは、しろくま湯たんぽの〝成長〟を喜ぶ声が多く届くという。

「これは推測ですが、おそらく支援者の方々からすると、推していたインディーズバンドがメジャーデビューした感覚なのではないでしょうか。『私たちのリトルコチカが成長しているぞ!』という感覚で応援してくれているのだと思います。購入型クラウドファンディングでは、パトロンが作品に愛情を感じたり、共感を覚えて支援してくれるケースが多いのでしょう。そうした愛情や共感を得るためには、日ごろの活動も重要だということに気付きました。常にどういう思いでその作品を作っているのか、自分たちが何をやりたいのかを、SNSなどを使って発信していくことが重要でしょう」(Hayashiさん)

自分たちの事業は、ファンや支援者、購入する消費者があって成り立つ。本来はこうした考えのもとにモノづくりの世界が動いていくことが理想だろう。しかし、大量生産・大量消費の時代にあって、生産する側がこの考えを持ち続けるのは難しいかもしれない。

クラウドファンディングでは、生産者と支援者の距離が非常に近く、支援者たちの声が直接届く。それがモノづくり本来の姿を取り戻すきっかけになる――これも、クラウドファンディングのメリットの一つと言えるのではないか。

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リトルコチカの代表作の絵本。(提供=リトルコチカ)

レトロだけど新しい! YASHICAのケース

3件目は、「YASHICA」というレトロなカメラを復刻させようとするプロジェクトについて紹介しよう。YASHICAは、コンパクトでモダンな形状と最先端の機能が受けて1960年代半ばから1970年代にヒットしたカメラだ。「YASHICAエレクトロ35」は世界で初めて電子制御を取り入れ、シリーズ累計の販売台数は全世界で500万台を記録。50代以上なら、この名前を聞くと胸が高鳴る人も少なくないのではないか。「YASHICA復刻プロジェクト」をクラウドファンディングによって立ち上げたセブンシーズ・パスタの中西さんも、「昔このカメラに触れた経験がある人は、その名前を聞くだけで当時の記憶がよみがえるみたいです」と話す。

実はこのプロジェクト、セブンシーズ・パスタが主導したものではない。YASHICAブランドは、まず1990年代後半に京セラが権利を買い取り、「YASHICA Tシリーズ」などを販売。その後、香港の会社が京セラから権利を買い取った。今回の復刻プロジェクトは、この香港の会社が先導して立ち上げたものだ。

「2年ほど前、仕入れの担当から香港の会社がYASHICAのプロジェクトを進めているという話を聞いたんです。そこで、うちの会社で日本での販売を引き受けようという話になりました。会社のメンバーでは誰より電化製品に詳しかったので、自分が担当になったわけです(笑)」

セブンシーズ・パスタはもともと電化製品を扱う会社ではなく、食品や雑貨などの輸入販売を手掛けていた。それが、仕入れ担当との何気ないやり取りをきっかけに、これまで扱ったことのないカメラの日本における代理店販売契約を結ぶようになったのである。

「香港の会社からは販売方法は自由と言われたので、手段を色々と考える中、その一つとしてクラウドファンディングを活用することにしたんです。当然ですが、カメラを輸入するためには資金が必要になります。その資金を、クラウドファンディングで賄おうと考えました」(中西さん)

クラウドファンディング特集#04
復刻版YASHICA。(提供=セブンシーズ・パスタ)

数年後にはマーケティングの主力に? 物販業界に静かに広がる変革の波

実は、セブンシーズ・パスタは2016年、2017年にもクラウドファンディングを活用したことがあった。最初のプロジェクトは本業絡みのお菓子。金額目標を30万円に設定したところ、10万円程度しか集まらなかったという。初めての試みは失敗に終わった。

「当時はクラウドファンディングの上手な活用方法もわからず、大して宣伝も打ちませんでした。今回はその教訓を活かし、クラウドファンディングをマーケティングの手段として活用することも考えるようになりました」(中西さん)

実際、クラウドファンディングの活用前後では、客層がガラリと変わったという。また、このYASHICA復刻プロジェクトの後、物販の催事場などでクラウドファンディングの活用の仕方について聞かれることが増えたようだ。そんな周囲の反応を見て、中西さんは今後のメーカーのあり方について、こんな予想をする。

「これからはまず新商品をクラウドファンディングで試し、人々の反応を見る企業が増えると思います。企業側も、従来の主力であるテレビCMからクラウドファンディングでのマーケティングに傾注していくのではないでしょうか。ただ、旧態依然のビジネスを展開している人たちがクラウドファンディングを理解するのは、もう少し時間がかかるかもしれません」(中西さん)

YASHICA復刻のプロジェクトでは、これまでのセブンシーズ・パスタの顧客とは全く違う層からの反応があり、顧客層もぐっと広がった。しかし、従来の取引先は「クラウドファンディング?なんか怪しいな」など、当初は取り付く島もなかったという。また、大手企業にクラウドファンディングの実績を提示しても、まだ反応が薄いケースも少なくないようだ。

「現在はまだクラウドファンディング自体が世の中に認知されている段階なんだと思います。実績として認められるのはもう1、2年先になるのではないでしょうか。ただ、その頃には大手がどんどん絡んでくることになりそうなので、地方のお店や小さい事業主などは、今から積極的にクラウドファンディングを活用していくべきだと思います」(中西さん)

中西さんの周囲では、以前はクラウドファンディングに拒否感を覚えていたが、最近は新商品をクラウドファンディングで試す物販事業者が増えているようだ。さらに、海外のクラウドファンディングのプロジェクトを日本に持ち込み、富裕層向けに販売するケースもよく見受けられるようになったという。すでに、クラウドファンディングは小売や物販業界に静かな変革をもたらしているということだろう。

クラウドファンディングは自分たちの商品や考えを世に広める手段

今回は5件のプロジェクトの発案者に取材を行い、彼らのクラウドファンディングに対する考え方やメリット・デメリット、上手な活用方法などを聞いてきた。5件は三者三様ならぬ五者五様。業態や扱うモノも違えば、それぞれ立ち位置も異なっているが、その一方で多くの共通点を見出すこともできた。

最大の共通点は、クラウドファンディング自体は単発の資金調達の方法ではあるものの、仕掛け自体が単発に終わってはいけないことだ。目標金額が集まり、商品やサービスが世に出た後でもSNSなどを活用して自分達の考え方やコンセプトを発信し続けなければ、その後につながるものは生まれない。むしろ、クラウドファンディングのプロジェクトが終わった後のほうに力を入れるべきなのである。

また、クラウドファンディングの活用によって事業やブランドの知名度が格段に上がったというのも5件のプロジェクトに共通していた。もちろん、背景にはクラウドファンディングの事業者たちの協力もあるだろう。しかし、クラウドファンディングを「自分たちの商品や考えを世に広めるチャンス」と捉えることで、さまざまな仕掛けを真剣に考えるようになるというのも、5件のプロジェクト起案者の話から感じたことである。

熱意を持って応援してくれるパトロンと、その周囲に広がる「なんとなくいいよね」という〝ライトな共感〟。この強弱入り乱れた思いの両方を得ることが、クラウドファンディング自体とその後の事業を成功へと導くカギになりそうだ。