ブロックチェーン技術で不動産クラウドファンディングのセカンダリ取引(二次流通)が可能に
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大西 勝士
大西 勝士
フリーランスの金融ライター(AFP、2級FP技能士)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。

不動産投資クラウドファンディングは、個人でも少額から不動産投資を始められるのが魅力です。ただし原則として中途解約不可で、運用期間が終了するまでは現金化できないというデメリットもあります。

しかし、ブロックチェーン技術によって出資持分のセカンダリ取引(二次流通)が可能になり、今後はさらなる利便性の向上が期待できます。今回は従来の不動産クラウドファンディングの問題点や、出資持分の二次流通の仕組みについて詳しく解説します。

不動産クラウドファンディングとは

不動産クラウドファンディングとは、インターネットを通じて複数の投資家から集めた資金で収益不動産を取得し、賃貸収入や売却益を分配金として投資家に還元するサービスです。

不動産を小口化して投資を募り、収益を分配する仕組みは以前からありましたが、2017年に不動産特定共同事業法が改正されたことで、個人でもインターネットを通じてより簡単に不動産投資ができるようになりました。

不動産クラウドファンディングの最低投資金額はサービスやファンド(物件)によって異なりますが、1万円程度から投資できるサービスがほとんどです。投資家は投資金額に応じて分配金を受け取ることができ、運用期間が終了すると元本が返還されます。

入居者や物件の管理は事業者に任せられるため、現物不動産投資と比べると手間がかかりません。また、ファンドごとに投資対象物件や運用期間、利回りが異なるため、現物不動産投資と同じような感覚で投資するファンドを選べます。

ただし不動産クラウドファンディングは元本保証ではなく、投資対象不動産の収益性が悪化したり事業者が倒産したりすると、投資元本が返還されないため注意が必要です。

従来の不動産クラウドファンディングの問題点

不動産クラウドファンディングが登場したことで、個人でもインターネットを通じて気軽に不動産投資ができるようになりました。事業者にとっても、インターネットで多くの投資家から資金を集められるのは魅力です。ただし従来の不動産クラウドファンディングには、以下の問題点があります。

原則として中途解約ができない

不動産クラウドファンディングは原則として運用期間中の中途解約ができないので、投資資金が長期間拘束されてしまいます。また、出資持分を別の投資家に譲渡する仕組み(セカンダリ市場)も整っていません。

急にお金が必要になった時に現金化できないため、まとまった資金を投資することが難しいのがデメリットです。

長期間の運用が難しい

不動産クラウドファンディングは、事業者側にとっては中長期で運用するファンドを設定しにくいというデメリットがあります。投資家には中途解約や持分の譲渡が認められず、満期保有が前提となるため、運用期間が1年以内のファンドがほとんどです。

不動産は長期にわたって安定した収益を生み出すことができる資産ですが、現在の仕組みでは運用期間が短期にならざるを得ません。

ブロックチェーン技術で出資持分の二次流通が可能に

前述のとおり、不動産クラウドファンディングは出資持分の譲渡や中途解約が制限されており、投資家の利便性向上が課題でしたが、ブロックチェーン技術を活用した「不動産STO」によって出資持分の譲渡が可能になりました。

STOとは

STO(Security Token Offering)とは、ブロックチェーン上でセキュリティトークン(デジタル証券)を新規で発行し、資金を調達することです。デジタル証券の裏付けとなる資産は株式や社債、ファンド持分などさまざまで、不動産特定共同事業契約に基づく出資持分も含まれます。

2021年8月、株式会社LIFULLはSecuritize Japan株式会社と業務提携し、不動産特定共同事業者向けのSTOスキームの提供を開始しました。不動産クラウドファンディングの出資持分に対してセキュリティトークンを発行してリンクさせることで、持分(トークン)の第三者への譲渡が可能になります。

投資家に発行・付与されるセキュリティトークンを用いた投資家間の相対取引は、ブロックチェーン上で改ざんが困難な形で記録されます。またトークンの譲渡先は、対象不動産に投資した匿名出資組合員に制限できる仕組みになっています。

LIFULL社のSTOスキームを導入することで、不動産クラウドファンディング事業者は複雑なブロックチェーンを開発することなくトークンを発行できます。

STOスキームの実施例

2020年10月、株式会社エンジョイワークスはLIFULL社のSTOスキームを活用し、「葉山の古民家宿づくりファンド」を国内初の一般個人投資家向け不動産STOとして実施することを発表しました。

80人のサポーターが参加し、目標募集額1,500万円を上回る資金を集めることに成功しています。本ファンドのセキュリティトークンの譲渡にかかる決済は、暗号資産(仮想通貨)を用いて行われます。

また2020年12月には、株式会社グローベルズが運営する不動産クラウドファンディング「大家.com」の第一号案件である「Foresight南麻布」において、STOスキームの導入を発表しています。

出資持分の二次流通が可能になることのメリット

不動産クラウドファンディングの出資持分の二次流通が可能になると、どのようなメリットが生じるのでしょうか。投資家と事業者のメリットを見てみましょう。

投資家のメリット

不動産クラウドファンディングは少額から不動産に投資できますが、運用期間が終了するまで現金化できないことが課題でした。

不動産STOによって出資持分がトークン化され、第三者に譲渡できるようになれば、投資家はより気軽に投資できるようになります。これまでよりも投資金額を増やして、より大きな利益を目指すこともできるでしょう。

事業者のメリット

出資持分の二次流通が実現すれば、事業者は中長期ファンドを設定しやすくなります。投資家の利便性が向上することで資金を集めやすくなるため、投資物件の選択肢も広がるでしょう。

不動産クラウドファンディングの二次流通は浸透するのか

2021年2月、LIFULL社は不動産クラウドファンディングの検索ポータルサイト『LIFULL不動産クラウドファンディング』の公開を発表しました。不動産クラウドファンディング事業者に対して、同社の不動産STO事業を展開することが目的と考えられます。

不動産STOによって出資持分の二次流通が実現すれば投資家の利便性が向上し、事業者にも一定のメリットがあります。

現時点で不動産クラウドファンディングの出資持分のトークン化の事例は少なく、ブロックチェーンやトークン化、暗号資産を用いた決済といった不動産STOが個人投資家に受け入れられるかどうかは、まだわかりません。

また、不動産STOの仕組みに精通している専門家(弁護士、税理士など)も少なく、トークンや暗号資産の税制も整備されていません。出資持分の二次流通を浸透させるには、セカンダリ取引参加者の増加と税制の整備が必要になるでしょう。

まとめ

不動産STOによる出資持分のトークン化によって、不動産クラウドファンディングの二次流通が可能になりましたが、まだ事例が少なく、出資持分の譲渡取引が浸透するかどうかは不透明です。しかし今後も不動産STOの実施は増えると考えられ、投資家の利便性は向上するでしょう。

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