個人投資家として成功してFIREを目指す……そんなトレンドに一石を投じる荒木陽介さん。本稿の前半では、余力がないサラリーマンだった荒木さんが不動産投資家として歩み出したきっかけ、後半では、荒木さんが不動産投資でどのようなことを実践されているかを伺います。
【プロフィール】
1977年生まれ。現役でサラリーマンを続ける不動産投資家。大手広告会社に勤務(部長職)。30代後半から不動産投資をスタートさせ、激務のかたわら時短術を駆使して短期間で総資産10億円を突破。その後、最大で約24億円の総資産を築く。話題の本『3年で10億円を築いたサラリーマンが教える「お金を生む時間」のつくり方』(朝日新聞出版社)の著者でもある。
サラリーマンと不動産投資が人生の両輪になっている
−−荒木さんは、サラリーマンをしながら不動産投資以外のビジネスにも挑戦されているそうですね。そこには、どのようなモチベーションがありますか。
一般的に人は40歳を過ぎると、気力や挑戦する意欲が減退し、それまでに培った身の丈に合った人生を歩んでいくと言われますが、それは嫌だなと、40歳を過ぎてもやりたいことにチャレンジできる自分でありたいので、30代の内にできるだけ身の丈を大きくしたいなあと思ったことがモチベーションの源泉です。
一方、不動産投資以外のビジネス(フィットネスジムや飲食店の経営など)に挑戦したことで、不動産投資やサラリーマンの素晴らしさを改めて学びました。ほかのビジネスでは、従業員を雇う、育てる、管理するといった労力があります。私はオーナーの立場なので直接オペレーションをするわけではありませんが、それでも人の管理の大変さを目の当たりにしました。
これに対して、不動産投資は管理会社に業務を委託することで、最小の労力で運用することができます。また、勤めている会社が持っている、人を採用する、育てる、配置する、評価するなどの機能の素晴らしさを思い知りましたね。
−−いろいろなことに挑戦されながらも、荒木さんの軸はやはりサラリーマンと不動産投資なのですね。
そうですね、サラリーマンと不動産投資が両輪になっている感覚です。サラリーマン生活での気づきが不動産投資に活きましたし、不動産投資をすることでサラリーマンの価値を再認識しました。この両者の価値を1人でも多くのサラリーマンの方々に伝えていきたいですね。
もともとは仕事だけで疲れ果てたサラリーマンだった
−−会社勤めをしながらさまざまなことに挑戦される荒木さんは、サラリーマンのなかでも特別な存在、自分には真似できないという見方もありそうです。
私はもともと営業職に向かないぐらいの人見知りで、プライベートでアクティブに活動するタイプではありませんでした。新卒で入社してしばらくは、仕事で疲れ果て、金曜に憂さ晴らしで飲んで、土曜日夕方まで寝ていて、夜になってまた飲みに行って……そんなグダグダな週末を過ごした時期もあります。
−−荒木さんもサラリーマンをこなすので、せいいっぱいという時期があったのですね。
そんな生活が変わったきっかけは、週末に競技ボートのボランティアコーチを始めたことです。週末が忙しくなったことで、逆にあれもやってみたい、これもやってみたいというアクティブな気持ちになりました。その後、コーチを辞めて週末に余裕ができたとき、スキマ時間を利用してはじめたのが不動産投資です。この延長戦上に今の私がいるわけですから、私は特別な存在ではありません。
−−荒木さんのご経験をもとにすると、投資に限らず、いろんなことに挑戦してプライベートを忙しくすることが、人生が変わるきっかけになるかもしれませんね。
私が地方のRC造物件にこだわり続ける理由
−−ここから先は、荒木さんが不動産投資をどのように実践されているか、詳しく伺いたいと思います。所有物件の詳細を伺いたいのですが。
最近、宇都宮と御徒町の1棟物件をエグジット(投資回収)しましたので、現在はトータルで11棟を所有しています。立地は四日市、鶴見、倉敷(2棟)、静岡、浜松、新潟(2棟)、そして東京都内が東新宿、千歳烏山、森下です。
これらに加えて、戸建てが沼津に一戸、あとリゾートマンションが沖縄に3戸、別荘を山中湖に一軒所有しています。
−−さまざまな立地に分散させているのが荒木さんの不動産投資の大きな特徴ですね。
立地が分散していることはいいことだ、というのが基本的な考え方です。ただ物件選定にあたって、立地を先に選ぶことはありません。一棟ものに関しては、インカムゲイン重視でフリーキャッシュフローが出ることにこだわっています。
キャッシュフローが出やすいのは、やはり地方の一棟物件ですね。とくにRC造は積算が出やすい。とくにエレベーターなしの4階建ては、フリーキャッシュフローで有利です。私の所有物件は、この条件にあてはまるものばかりです。
−−地方の物件が中心ですが、物件価格下落のリスクをどのように捉えていますか。
仮に、物件価格が大きく下落しても、家賃自体は急に下がるものではありません。そのため、地方物件でキャピタルロスが出ることを私は気にしていません。物件価格が下がっても、売らなければ損切りにならない、そんな感覚です。ただ、地方物件をやみくもに購入するのはリスクがあります。金利や空室率の上昇を想定したストレスをかけてシミュレーションしたうえで購入するのが安全です。
−−これから不動産投資を始めたい人のなかには、知識をどう学んでよいか迷われている人もいると思います。この部分で荒木さんは大家コミュニティーをうまく活用されている印象があります。
不動産投資の知識を習得するために、大家コミュニティーは間違いなく役立ちます。ただ不動産投資の初心者で大切なことは、講座型の大家コミュニティーを選ぶことです。私の場合、不動産投資家育成協会や日本不動産コミュニティーなどの大家コミュニティーに参加することで、体系的な知識を得ることができました。
この体系的な知識という共通言語があることで、同じ大家コミュニティーに属するメンバーの方々と情報交換をしたときにその質が高くなると感じています。投資家同士の集まりだと、それぞれの考えを披露するだけの場になりやすいですが、体系的な知識という共通言語があるコミュニティーだと健全に刺激しあえると感じます。
今後、銀行間の競争が出てくると面白くなる
−−さきほど宇都宮と御徒町の1棟ものをエグジットされたとのことでしたが、このタイミングでの売却は当初からの計画だったのでしょうか。それとも、マーケット状況を見てのご判断だったのでしょうか。
基本的には、銀行の融資状況に着目しました。これはもうトレンドが変わっていますが、1年くらい前は銀行が優良な法人に対しては積極的に融資をしているように見えました。一方、物件の供給に関しては少ない状況だったので、有利に売却できると考え当初の計画より早くエグジットに踏み切ったわけです。
−−投資物件のマーケットだけでなく、銀行の融資状況を見ながらエグジットの時期を考えていらっしゃるんですね。金融機関の動向については何を情報源にされていますか。
やはり今お付き合いしている銀行の担当者のヒアリングは大事です。銀行とのコミュニケーションは情報源になるだけでなく、不動産投資で持続的な成長をしていくために欠かせません。円滑なコミュニケーションができるメインバンクを複数持つことで、安定的な規模拡大ができると考えています。
−−今のタイミングで、新たな物件の購入を考えていますか。
先ほども申し上げましたが(前編参照)、不動産投資で物件を買うのは、本質的な意味で投資家ではなく銀行だと私は考えているんですね。その意味では、現時点だと銀行のスタンスで不透明な部分があると感じているため、現時点での購入はなさそうです。金融機関全体の変化が見えてきた段階で動き出すために、現在は準備段階のフェーズかもしれません。
−−お話を伺っていると、荒木さんが不動産投資において金融機関をいかに重視しているかがよくわかります。金融機関の開拓についてはどのようなスタンスですか。
もともと私は、銀行の新規開拓には積極的なタイプでした。ただ資産規模が大きくなってきたり、銀行の物件の評価が厳しくなったりする流れのなかで、銀行の対応が似通ってきている印象もあります。具体的には、収益性や積算を含めた担保価値の評価、要求される自己資金が各銀行で似通ってきている印象です。
この状況が変わって、銀行間の競争が出てくると面白くなるかなと思っていますね。今は水面下で競争が始まったとの情報もありますが、銀行間で物件と投資家を取り合うような状況ではありません。そのため、労力対効果で考えたときに、もうしばらく待って銀行間の競争が出てきてから動き出したほうが面白いかなと感じています。
−−不動産投資をしていくうえで、金融機関全体の動向や個々の銀行とのコミュニケーションがいかに大事かがわかりました。本日はありがとうございました。
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