不動産クラウドファンディングの匿名組合とは|税制上の取り扱いはどうなる?
(画像=AndreyPopov/stock.adobe.com)
丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

投資しやすい不動産クラウドファンディングの多くが、匿名組合型で募集を行っています。不動産クラウドファンディングにおける匿名組合とは、具体的にどのような仕組みを指すのでしょうか。本記事では、匿名組合と任意組合の違いや税制上の取り扱いについて解説します。

目次

  1. 不動産クラウドファンディングの匿名組合とは
  2. 任意組合とどう違う?
  3. 税制上の取り扱いはどうなる?
  4. 投資しやすいファンドの多くは匿名組合型

不動産クラウドファンディングの匿名組合とは

不動産クラウドファンディング
(出典:国土交通省

不動産クラウドファンディングの募集要項のなかで「匿名組合」という言葉を見かけたことはないでしょうか。不動産クラウドファンディングにおける匿名組合とは、匿名組合員(投資家)が不動産特定共同事業者に出資し、事業者が営業によって得た利益を投資家に分配することを約束する契約をいいます。

匿名組合は、合資会社に似ていますが、不動産特定共同事業法が対象としている契約類型の一つで組合自体に法人格がないことが特徴です。匿名組合員の投資家は、出資するのみとなるため、「業務を行う」「代表になる」といった権利はありません。

任意組合とどう違う?

不動産クラウドファンディングには、匿名組合だけでなく任意組合という仕組みもあります。匿名組合と任意組合では、仕組みが異なる部分が多いため、違いをしっかりと確認することが大切です。

<任意組合と匿名組合の違い>

任意組合匿名組合
法律民法第667条商法第535条
不動産登記組合員が現物出資の登記を行う必要あり(コスト必要)匿名組合員が不動産登記を行う必要なし(コストが不要)
匿名性匿名性は保証されない組合員同士の横のつながりなしで匿名性あり
出資金額1口100万円からの募集が多い(小口の募集もある)1口1万円・10万円といった少額の募集が多い

規定する法律と責任範囲の違い

不動産クラウドファンディングの組合を規定する法律は、匿名組合が商法第535条、任意組合が民法第667条です。

・匿名組合(有限責任)
匿名組合は、万一事業で損失が出た場合でも組合員の責任が出資した範囲に限られているため、最悪でも出資した金額を失うだけで済みます。つまり組合員の責任は、有限というわけです。

・任意組合(無限責任)
任意組合は、事業で発生した損失に対し組合員が出資比率に応じて無限に責任を負わなければなりません。例えば損失が出資金を上回った場合は、負債を背負うことになるため、注意が必要です。これを聞くと任意組合は、不利に感じる人もいるかもしれません。しかし後述するように相続税や所得税で節税メリットがあるため、節税目的で投資するには適しています。

不動産登記方法の違い

不動産の登記にも違いがあります。匿名組合の契約では、不動産の所有者は事業者となるため、匿名組合員が不動産登記を行う必要はありません。登記のコストがかからないのもメリットです。

匿名組合が分配金を得る権利を所有するのに対し、任意組合の契約では不動産を実際に所有するため、組合員は事業者に対して現物出資の登記を行う必要があります。なお不動産登記のコストは、組合員負担となるため注意が必要です。

匿名性の違い

匿名組合契約は、匿名組合員と事業者の二者間契約となります。そのため組合員同士の横のつながりはありません。前述したように不動産登記も必要ないことから、投資家の名前が表に出ることはなく匿名性が保証されます。

一方の任意組合契約は、任意組合員となる投資家と事業者が共同で事業を行う契約です。事業の結果生じる損益については、組合員と事業者は対等の立場となります。組合員は、重要事項にも決定権を持ち組合員同士も契約で結ばれ、不動産登記が必要なため、匿名性は保証されません。

出資金額の違い

投資家にとって気になるのは「出資にどの程度の金額が必要か」ということではないでしょうか。匿名組合のファンドは、例えば1口1万円や10万円といった少額から出資できるため、不動産投資初心者が投資するのに向いています。

一方任意組合のファンドは、同じように小口から出資できるものもありますが、1口100万円からの募集が多くなっており、初心者が投資するにはややハードルが高い傾向です。

クラウドファンディングは、本来誰でも少額から手軽に投資できるのが魅力となるため、任意組合型は現物不動産を買うのに近い感覚で考えたほうがよいかもしれません。

税制上の取り扱いはどうなる?

投資家にとっては、税制上の取り扱いの違いについても気になるかもしれません。所得税の確定申告において所得区分が異なるため、間違えないように計上することが大切です。また相続税の評価額も異なるため、不動産クラウドファンディングを相続財産に加える計画がある人は違いをしっかりと把握しておきましょう。

<任意組合と匿名組合の税制上の違い>

任意組合匿名組合
分配金の所得区分不動産所得雑所得
相続税評価額70%程度
※賃貸物件はさらに下がる
100%

匿名組合から得た分配金の所得区分

匿名組合から得た分配金の所得区分は「雑所得」となります。匿名組合型のファンドでは、投資家が現物不動産を所有しないため、不動産所得にはなりません。雑所得の場合、金額によっては確定申告が不要なケースもあります。その基準は、分配金と他の雑所得と合わせた金額が20万円を超えるかどうかです(※給与所得者の場合に限る)。

例えば1口10万円のファンドを1年間5.0%の予定利回りで運用した場合、分配金は5,000円(税引前)程度となります。そのため初心者が少額で投資している限り確定申告は不要のケースが多いといえるでしょう。

任意組合から得た分配金の所得区分

任意組合から得た分配金の所得区分は「不動産所得」です。任意組合型のファンドでは、投資家が共有持ち分として現物不動産を所有するため、物件から得た収益は不動産所得として申告します。万一不動産所得が赤字になった場合は、「損益通算」の制度を使って給与所得から赤字分を差し引くことが可能です。そのため所得税・住民税を節税できる可能性があります。

匿名組合型の相続税評価額

匿名組合員が相続を受ける場合は、課税時の評価額がそのまま相続税評価額となります。匿名組合は、現物不動産を所有することなく、分配金を受け取る権利を有するだけです。そのため有価証券と同じく時価の100%で評価されます。例えば1口10万円の不動産クラウドファンディングに出資していた場合は、10万円と評価されるため節税メリットはありません。

任意組合型の相続税評価額

任意組合員が相続を受ける場合は、現物不動産を所有しているため、相続税評価額は70%程度に下がります。また賃貸物件は、所有者の権利が制限されるため、さらに評価額が低くなる点がメリットです。賃貸住宅として建っている「貸家建付地」の場合、相続財産の評価が自用地よりも低くなります。そのため任意組合型は、相続や贈与時に節税メリットを享受できる可能性があるといえるでしょう。

投資しやすいファンドの多くは匿名組合型

不動産クラウドファンディングサイトで募集を行っているファンドは、匿名組合型が多い傾向です。出資金額が1万円、10万円など少額で投資できることがメリットで、募集を開始すると多くのファンドが完売となります。なかには、募集金額を上回る出資を得るファンドもあり、不動産クラウドファンディングの人気の高さがうかがえるでしょう。

不動産クラウドファンディング

冒頭の責任範囲で「匿名組合は損失が出ても出資の範囲を超える責任は発生しない」と述べました。多くの匿名組合型ファンドが「優先劣後方式」を採用しています。上図のように損失は、定められた比率で事業者が優先的に負担するため、投資家が損失を被ること自体が少ないといえるでしょう。そのあたりのセーフティネットが確立されていることも不動産クラウドファンディングの人気といえます。

匿名組合型のファンドは、ベテラン投資家にとって分散投資先の一つとしておすすめです。一方初心者には、少額で不動産投資の経験を積むことに適した投資先といえます。不動産クラウドファンディングの比較サイトにアクセスすれば各事業者のファンド一覧から「募集中」または「募集前」のファンドを比較することが可能です。

投資初心者でも投資しやすい商品のため、「匿名組合型」「任意組合型」を確認したうえで自分の希望条件に適したファンドを選んで不動産クラウドファンディング投資デビューを果たしてはいかがでしょうか。

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