底地・借地で困ったときに最初に読む本
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(本記事は、中川 祐治氏の著書『底地・借地で困ったときに最初に読む本』の中から一部を抜粋・編集しています)

地代が安い!値上げ交渉失敗/不当な地代値上げ要求

底地・借地のトラブルでもっとも多いのが、地代に関わる問題です。

関東大震災や第二次世界大戦といった出来事の後、東京を中心とした首都圏、さらには他の都市部も焼け野原になり、住む場所に困る人たちで街はあふれかえりました。これを見かねた当時の地主さんが、土地を貸し出したのが、底地の始まりともいわれています。

現在では貸出し時に権利金や保証金の授受がありますが、当時、権利金等が支払われたという例は、あまり多くはないようで、地主さんからは、好意・社会貢献で借地がスタートしたという話を伺うことが多いです。

ところが時代は移り変わり、地主さんも親から子、子から孫へと底地を相続し、代替わりが進んできました。そうすると、地主さんはその都度、多額の相続税を払わなければならないのに、毎月の地代は微々たるもの。都心であればワンルームマンションで月に10万円前後は家賃収入が入るというのに、底地だと戸建てほどの敷地でも月に2万円ほどというところもあります。固定資産税も昭和の頃に比べると高額になり、定期的に地代を値上げ出来ていた地主さんは良いのですが、十分な値上げが出来ておらず、据え置きになっていることも多く、底地の維持がとても大変になっているようです。

そのような状況を改善すべく、地主さんが地代値上げのお願いを借地人さんにするわけですが、普段から付き合いのない地主さん(面識がないことも多い)からの急な地代の値上げ要求は、寝耳に水で、不当な要求に聞こえるかもしれません。インターネットで検索すれば、地代の値上げは、必ずしも応じる義務はないと書いてあります。地主さんの事情や地代相場も知らない借地人さんは、とりあえず地代の値上げは拒否するという選択になります。

拒否された地主さんはとてもガッカリし、何て理不尽な借地人さんだと思い込んでしまいます。説明やコミュニケーション不足が原因の典型的なトラブル事例です。

地主さんによっては、大規模な底地を保有し数千万円とか数億円もの相続税が課せられ、金融機関から融資を受けて何とか納税したという事例もあります。そのような状況で、地価の上昇に伴い、地代収入とあまり変わらないほど固定資産税が高くなり、借地人さんに地代の値上げをお願いするわけですが、前述の通り拒否されてしまうこともあり、地主さんも不満に思い、いっそのこと、底地を売却して身軽になろうと考えることになります。

底地は借地権と違い、借地人さんの承諾なく、第三者に売却することが可能です。ある日突然、地主さんが不動産会社に底地を売却していたということも珍しい話ではありません。その後は、当然、利益を追求する不動産会社から、借地人さんは地代の値上げを要求されることになるわけです。

地主さん、借地人さん、両者の立場に立ってみると

借地人さんからすると、相続や譲渡で地主さんが代わったからと言って、地代の値上げを要求されても、簡単には納得がいきません。値上げ交渉は難航することが、ほとんどです。地主さんからすると「当然の権利で正当な要求」でも、借地人さんの立場になると「不当な値上げ要求」と映ってしまい、立場の違いで考え方が対立してしまうことになるようです。

もし、地主さん側に立ち、地代の値上げを行いたい場合、まずは周辺の地代相場を調査する必要があります。その結果、自分の底地の地代が他よりも明らかに安いのであれば、借地人さんに根拠を添えて地代の値上げをお願いすると良いでしょう。

また、周辺との地代の価格差が大きいほど、仮に地代の値上げ交渉が決裂し、調停や訴訟に至った場合でも、裁判所に値上げが認められる可能性は高いとも考えられます。

反対に、周辺の地代と同水準であれば、調停や訴訟でも地代の値上げは難しく、単に借地人さんとの関係がギクシャクして終わりとなりかねませんので、地代の値上げ交渉は諦めた方が良いかとも思います。

なお、住宅地の地代(年額)の相場の目安として、固定資産税・都市計画税の合計額の3倍から5倍程度といわれていますので、ザックリの参考程度に利用しても良いかもしれません。詳しく知りたい場合は、専門の不動産会社に相談して入手することも可能ですが、訴訟等の場合には、より正確な不動産鑑定士による適正な地代の鑑定を依頼し入手することになります。

相続や譲渡、更新のタイミングで値上げを要求する地主さんもいますが、やはり同様です。正当な理由がないのに応じる借地人さんは少ないでしょうし、交渉は決裂する場合が多いようです。対抗策として値上げに応じないと更新を認めないと告げる地主さんがいたとしても、法定更新として自動的に更新できてしまうので、基本的に効力を発揮しません

稀に、借地人さんが地代の値上げを拒否したため、地主さんが地代を受け取らないことがあります。この場合の借地人さんは注意が必要です。地主さんが地代を受け取らなかったという理由だけで、そのまま何もしないでおくと、地代滞納扱いになってしまい、最悪の場合は、契約違反により、契約を解除されてしまいます。これを回避する方法が、「地代の供託」となります。

地代の供託とは、地主さんが地代を受け取らない、地主さんの所在がわからないなどの理由で、借地人さんが地代の支払いができないなどの場合、法務局が地主さんに代わって地代を預かり、通常通り地代の支払いがあったものとして取り扱ってもらえる救済措置のことです。この供託中に、地主さんと借地人さんの間で問題解決を図ります。

ここで、地主さんの注意点があります。問題解決後には預けられた地代を法務局から引き出すことをお忘れなく。借地人さんとの問題解決がなされていない場合の供託金には時効がありませんが、問題解決した後も供託金を引き出さずに放置していると、10年で時効となり、供託金は受け取れず消えてしまいますので、ご注意ください。

借地人さんが地代を滞納した場合はどうなるのでしょうか。当然、契約違反となり、契約解除となりかねません。しかし、一度や二度滞納したからといって即刻、契約解除されるわけではありません。しかし、地主さんが催促して一時的に改善がみられても、度々滞納状態を繰り返し、今後も改善の見込みがないというような状況で、信頼関係が破壊したと裁判所が認めた場合は契約解除が妥当と判断されます。契約解除は簡単ではありませんが、借地人さんは、キチンと期限内に納めることが大切です。地主さんの心証を悪くして良いことはありません。

反対に、地主さんにおいては、地代の滞納が生じた場合は、そのままにしないで、早め早めに対処を行うことが重要です。

すぐに、催告の内容証明郵便を送りつけるということではなく、どうしましたか?などの声掛けでも構いません。そのままにしておくと、事情を聞いたり、話し合いを持ち掛けるタイミングを逃してしまいます。滞納させないのも貸す側の責任ともいえますので、放っておくことだけはしないでください。

底地・借地で困ったときに最初に読む本
中川祐治(なかがわ・ゆうじ)
株式会社アバンダンス代表取締役。1979年生まれ。宅地建物取引士、相続診断士。
高校卒業後、建設業界にて地主さんを主な顧客とした土地活用の提案営業に従事。2006年、底地専門の不動産会社に転じ、地主さんに寄り添った底地売買や相続対策の経験を積む。2011年、底地と借地に特化した不動産会社、株式会社アバンダンスを設立。柔軟なコーディネートに定評があり、税理士などの士業事務所や大手ハウスメーカーと連携し、様々な不動産案件に対応している。2013年、税理士などの士業とワンストップで相続対策をコーディネートする、あいか相続対策研究所株式会社を設立。現在は、地主さん・借地人さん向けセミナーのほか、金融機関の行員向け、大手ハウスメーカーや保険会社の職員向けセミナーや勉強会も行っている。

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