不動産投資の悩みの一つが空室問題です。空室が発生すればその分収益が減り、利益を圧迫します。空室が悪影響を及ぼすのは、収益だけではありません。賃貸物件の保有者が亡くなった場合の相続にも影響します。
空室があると相続税が増える
「現預金で相続するよりも、投資用不動産を相続するほうが相続税を節税できる」ことは、不動産投資家なら一度は耳にしたことがあるでしょう。これは事実ですが、条件があります。その一つが「空室がないこと」です。
投資対象の賃貸物件に空室があると、相続税が増えます。理由は以下の2つです。
貸家割合が下がる
保有物件を貸し出すということは、「貸し出している部分については賃借人が自由に使える」ことを意味します。言い換えると、「貸し出し部分については保有者は自由に使えない」わけです。相続税法では、賃貸物件の財産評価にあたって「貸家割合」として加味し、貸し出している分だけ土地と建物の評価額が下がります。
空室があるということは、その分貸し出し部分が減ることを意味します。つまり、空室の分だけ土地と建物の評価額が上がるわけです。結果的に、その分相続税が増えてしまうのです。
小規模宅地等の特例が使えない
賃貸物件の節税方法として有名なのが、「小規模宅地等の特例」です。不動産賃貸業を営む人が亡くなった場合、その物件を被相続人の親族が相続するにあたり、事業継続などの要件を満たせば、その賃貸物件が建っている土地の評価額は、200平方メートルを上限に50%減額されます。
相続税は、財産評価次第で大きく変わります。そのため、評価額を半分にできるこの特例は非常にお得と言えますが、空室部分には適用されないのです。
こうすれば相続税は増えない
このように、空室は相続税法上の財産評価で不利に働きます。しかし、空室があっても状況や対策次第では評価額が上がらないこともあります。
一時的な空室ならばOK
賃貸業を営んでいれば、契約期間の満了や期間途中での契約解除などにより、空室の発生は避けられません。そこで税法では、賃貸物件での空室が恒常的ではなく一時的なものならば貸家割合を減らさず、小規模宅地等の特例の適用対象にできるとしています。
一時的な空室と認められるための要件
一時的な空室と認められるためには、以下のような客観的な要件を満たさなくてはなりません。
- 賃貸物件の各独立部分が被相続人の死亡時前から継続的に賃貸されてきたものであること
- 賃借人の退去後、すみやかに新たな賃貸募集が行われたこと
- 空室期間が被相続人の死亡時の前後1ヵ月程度といった具合に、明らかに「一時的である」と認められること
- 被相続人死亡後の賃貸が一時的なものでないこと
つまり、その賃貸が節税目的の形式的なものでないこと、賃貸物件としての需要が落ちていないことが求められるわけです。
「一時的」の解釈
ただし、「一時的」の解釈は非常に厳格です。大阪高裁の2015年5月11日判決は、「空室期間5ヵ月間は一時的な空室ではなく、長期的な空室である」としています。また、空室期間の要件を満たしていたとしても、他の要件を満たしていなければ「一時的な空室」と認められない恐れがあります。
判断が難しい場合は一人で悩まず、専門家に相談することをお勧めします。
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