成長を続けるクラウドファンディング市場。CAMPFIREの大東COO(最高執行責任者)は「クラウドファンディングは産業構造そのものを変える力を秘める」と豪語する。ここからは、実際にクラウドファンディングを活用して資金の調達に成功したプロジェクトを紹介。彼らの“発信力”によって多くのパトロンたちがプロジェクトに共感や賛同をしたわけだが、はたして彼らはクラウドファンディングをどのように成功に導いたのか。また、それによって何を得たのか――。(取材・文 新井奈央)
プロジェクトその① ALLYOURSのケース
ALLYOURSは自分達が開発した服を店舗や百貨店などで販売する、いわゆるアパレルブランドの一つ。オリジナルウェアブランドの企画、開発、販売を手掛けている。東京都世田谷区に店舗を持つほか、東京を中心に他のセレクトショップにも製品を展開中だ。「購入型」、つまりパトロン(プロジェクト支援者)に対してプロジェクトの製品を販売する形でクラウドファンディングを活用している。
ALLYOURSは2015年に原康人さんら2人の手によって設立。それ以前、2人は誰もが知る大手の衣料品フランチャイズ企業に所属していた。当時について原さんは次のように話す。
「大手企業の商品は会社都合のものが多く、その服を着る人のことを考えて作られたものではありませんでした。よその会社で『これが売れているらしい』となれば、その類似品を販売するといった具合です。そういう大手企業の考え方が嫌で、この会社を立ち上げました。モノは使う人のことを考えて作るのが本来の姿だと思うんです」
社名のALLYOURSは、「常にあなた(=使う人)を中心に考える」というコンセプトに基づいて付けられたものだ。彼らがクラウドファンディングを使おうという考えに至った理由はなにか。
ALLYOURSが初めてクラウドファンディングを活用したのは、2015年12月。ついその前の月まで「クラウドファンディングについては何も知らなかった」(原さん)という。
「当初は『クラウドファンディング?なんやそれ?』という感じでした。2015p年頃は、おそらく多くの人がクラウドファンディングに対して同じような認識だったのではないでしょうか。当時、事業を展開していくうえでに色々とアドバイスをくれていた金融関係者が『君らの商品はほかのアパレルとは作り方も服に対するアプローチも違っていて新規性があるから、クラウドファンディングを試すべき』と教えてくれたんです」
その第一弾として開発されたのが、「水を弾くコットンパーカー」。これを世に広めるためにクラウドファンディングを活用し、目標金額100万円に対して4倍の398万9240円、述べ369人のパトロンを獲得した。もちろん、同プロジェクトに対するリターンはこのコットンパーカーだが、後日、追加リターンとして同製品と新商品が見られる展示会への招待も加わる。これは、パトロンから「実物がみたい」「他の商品も見てみたい」という声によって実現したものだ。
この展示会には代表の原さんと木村さんも参加し、多くのパトロンたちに新商品などを説明したという。アパレルだけでなく、他の製品でもメーカーやブランドの代表や開発担当者たちと出会う機会というのは早々ないが、クラウドファンディングではプロジェクト起案者とパトロンたちの間でコミュニケーションを取ることも可能だ。この顧客とプロジェクト起案者との“距離感”がクラウドファンディングの特徴の一つと言える。
クラウドファンディングは活用した「その後」がより重要
原さんは、初回のクラウドファンディングを通して一つの問題点を感じたようだ。それは、クラウドファンディングは一つの商品、一つのプロジェクトに対しての資金集めであるため、それだけでは継続性がないということである。
「僕らのプロジェクトは、とりあえず400万円という資金を集めることに成功しました。でも、次につながるアイディアを持っていなくて、たまたま資金集めに成功したというだけ。これは多くのクラウドファンディング活用者に当てはまることだと思います。実は、クラウドファンディングは資金調達できたかできなかったかよりも、活用した後のほうが大事なんです」(原さん)
「水を弾くパーカー」のプロジェクトでは資金調達には成功したが、それだけでは単に400万円分の商品を販売しただけに過ぎない。問題は、クラウドファンディングで開発した商品、サービスをどうやって世に広められるか。そしてパトロンたちを顧客としてつなぎとめられるか。この仕掛けが重要だという。
「現在はある程度、クラウドファンディングが世の中に認知されつつありますが、大半のイメージは『クラウドファンディング=資金調達』だと思います。購入型は、資金調達がネット通販や店舗販売と同じ販売チャンネルの一つになりますが、大切なのは『クラウドファンディングをきっかけに自分達がどう動くか』です」(原さん)
クラウドファンディングを継続し、ビジネスのすそ野が大きく拡大
初回のプロジェクト終了後、ALLYOURSではクラウドファンディングをより一層効果的に活用するためにはどうすればいいのかを考え、「24カ月連続クラウドファンディングプロジェクト」を立ち上げた。2カ月に1回、2年間にわたって新しい商品を出し続けようという試みである。単発で終わってしまうプロジェクトが多い中、継続して世の中に発信を続けるために考案したものだという。
「クラウドファンディングを販売チャネルとしてだけでなく、メディアとしても使うためにこのプロジェクトを考えました。新商品を出し続けることで注目度も上がるし、それによってファンも増えると考えたわけです」(原さん)
実際、この継続プロジェクトによって顧客やビジネスのすそ野がめちゃくちゃ広がったという。また、この継続プロジェクトを通して、例えばプロジェクトのサムネイルに表示するキャッチコピーや写真をどうすればより共感を得られるのか、顧客に対してインパクトがあるのかなど、「より効果的なマーケティングについても学ぶことができた」(原さん)。さらに、クラウドファンディングの実績を通して銀行からの融資を得ることにも成功している。
原さんは「これから購入型クラウドファンディングを使おうと考えているなら、絶対に活用以降の展開を考えるべきだと思います。ただ、常に新しいものを考案し、発信し続けるのはかなりしんどいですけどね(笑)」と語る。単発で終わらず、次につなげるためには“発信力”が必要なのだ。
プロジェクトその② スタディクーポンのケース
スタディクーポン・イニシアティブは、子供たちの教育格差をなくすために立ち上げられたプロジェクトだ。前述したALLYOURSのような「購入型」ではなく「寄付型」である。親の所得格差が教育の格差につながっている現状を打破しようと、子供たちが塾などに通えるクーポン券を配布するというもの。その活動資金をクラウドファンディングによって集めようという試みだ。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表の今井悠介さんと、NPO法人キズキ代表の安田祐輔さんが2017年に立ち上げた。
ある大学の調査によると、高校進学が迫る中学3年生の学校外教育の支出は、世帯収入が200万円未満で13万円程度。その一方で、世帯収入が1500万円以上になると35万円程度に跳ね上がるという。当然といえば当然の数字だが、今井さんは「家庭の経済的な事情に関係なく、子どもたちの多様な学びの機会を得られるようにしたい」という想いを掲げ、日々奮闘している。
「スタディクーポンの活動そのものは、2011年の東日本大震災後から東北を中心に行っていました。当時から寄付金を元に活動しているのですが、子どもたちからの要望が非常に多く、大勢の子どもたちにクーポン券を配布するには寄付金だけではまかなえない状況があります。そこで新たな試みとして、スタディクーポン・イニシアティブを立ち上げました」(今井さん)
東北では、個人が経営する塾や地域の事業主などと協業してスタディクーポンの活動を行ってきた。当時から、すでにクラウドファンディングについてある程度の知識はあったようだ。「NPO法人の世界では、ワンショットで資金を集める手段としてクラウドファンディングは割と常識になっている」(今井さん)という。
クラウドファンディングの活用第一弾は、2017年10月。目的は、東京都渋谷区におけるスタディクーポンの配付だ。なぜ渋谷区なのかといえば、区長の長谷部健さんがNPO出身で、NPOの活動に対する理解度が深く、支援にも積極的だったからだという。
「私たちのような団体が個々に支援活動を行うことも大切ですが、やはりその活動を政策化することが重要。政策化することで公的な資金がつぎ込まれ、より大勢の子どもたちを継続して支援することができるようになるからです」(今井さん)
スタディクーポン・イニシアティブの活動によって、2018年には佐賀県の上峰町で町内の中学1年生と3年生を対象にスタディクーポンの配布を決定。2019年には、渋谷区が2019年度予算案にスタディクーポン事業を組み込んでいる。現在は千葉市や東京都でも同様の動きが出てきているようだ。さらに、栄光ゼミナールやZ会、トライグループ、ベネッセなど、学習塾や家庭教師、通信教育の大手も同活動に賛同し、クーポンの利用先に登録している。今井さんたちの活動が着実に実を結んでいるのだ。
クラウドファンディング活用で活動の認知度が格段に上昇
クラウドファンディングを活用したことで、今井さんたちの活動に大きな変化があったようだ。
「クラウドファンディングの魅力は、それを通して〝発信〟することで社会の問題を大勢の人々に知ってもらえるということです。クラウドファンディングを活用することで、『こういう活動は個々の団体ではなく学校自体でやるべきだ』など数多くの意見を頂きました。また、これを発端にさまざまな議論が起きています。つまり、クラウドファンディングがこうした議論のきっかけになったということ。政策化するには、まず世の中で話題となり、議論されることが必要ですから、クラウドファンディングが果たした役割というのはとても大きいと感じています」
クラウドファンディング活用後、スタディクーポンの世間的な認知度は格段に上がったという。プロジェクトでは、1000万円の目標金額に対して約1400万円の支援を得ることに成功。もっとも、得た金額以上に700名以上がこの活動に賛同し、パトロンとなってくれたことが何より嬉しかったと今井さんは言う。
今井さんは「もしクラウドファンディングを活用していなかったら、現在も渋谷区などで政策化されることになっていなかったかもしれない」と話す。今井さんたちのもとには、支援に対する直接的な感謝の言葉はもちろん、クラウドファンディングを通してこの活動が一歩前に進んだことに対する喜びや期待の声が多く届いているという。
「いいことをします」だけではダメ。伝えたいメッセージをどう発信するか
しかし、クラウドファンディングには問題点もあるようだ。それは、やはり「単発で終わってしまいがち」(今井さん)ということ。寄付型でいえば、前回支援してくれた人が次も支援してくれるかはわからない。今井さんは「継続的な予算が必要な事業は、クラウドファンディングに向いていないかもしれません」と指摘する。
「特に、寄付型のクラウドファンディングでは人々に伝えたい〝メッセージ〟が重要だと思います。ただなんとなく『社会に向けていいことをしますから、応援して下さい』では、人々から多くの共感を得ることは難しいでしょう。そのプロジェクトが社会に対して何を伝えたいのか、何を発信したいのかを明確にすることが大切です。それが資金調達の成否にも大きく関わってくると思います」(今井さん)
その〝メッセージ〟を効果的に発信するため、スタディクーポン・イニシアティブではあるIT企業のマーケティング部門の人々にボランティアで協力してもらった。その人たちと発信の中身を練りに練ったうえで、発信の仕方などを決定したようだ。
ちなみに、今井さんもプロジェクトを一緒に立ち上げたキズキの安田さんも、スタディクーポンイニシアティブに関しては全くの無償で活動を続けている。今後も、同活動の地域的な事業立ち上げに関しては、クラウドファンディングを活用することも十分あり得るという。
支援型は資金額、件数とも圧倒的少数。他のタイプの拡大も追い風になる?
大手シンクタンクの調査によると、2017年度におけるクラウドファンディング市場(新規案件の支援額ベース)において、寄付型は全体のわずか0.4%だという。資金額ベースだと融資型が約9割と圧倒的。件数ベースでは購入型が多数を占めている模様だ。購入型では、クラウドファンディングを店舗での直接販売、EC(電子商取引)などと同列の販売チャネルの一つとしている企業が増える一方、融資型では他のクラウドファンディングと比べてどうしても資金ベースで大きくなるため、支援額ベースだと融資型、購入型という並びになってしまうのは仕方ない。
しかし、クラウドファンディングの認知度が高まることで、スタディクーポンのような組織や団体が増えることは間違いないだろう。東日本大震災や熊本地震といった自然災害が発生すると、マスメディアやコンビニなどが積極的に支援金を募集するのが従来の流れだが、今後は被災した地域の人々が具体的な支援を求めてクラウドファンディングを活用する機会が増えそうだ。
そのためには、まずクラウドファンディングが人々に広く認知されることが必要である。そういう意味では、購入型や融資型の市場が拡大することも、寄付型やその他のクラウドファンディングの認知度を高める一助となりそうである。次回の特集第4回でも引き続き具体的なプロジェクトを紹介していく。
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