不動産売買契約に役立つ「買付証明書」の知っておくべきポイント
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丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

不動産売買契約に役立つ書類として知っておいたほうがよいのが「買付証明書」です。買いたい不動産の購入意思を示すのに有効な書類ですが、提出する前に確認すべきことが多くあります。例えば売買契約書との違いや提出後にキャンセルした場合どうなるかを知っておくことは非常に大切です。本稿では、買付証明書の書き方やメリット・デメリット、提出する際に注意すべきポイントを紹介します。

目次

  1. 1.不動産の買付証明書とは何か
    1. 1-1.買付証明書が持つ3つの役割
    2. 1-2.買付証明書と不動産売買契約書の違い
    3. 1-3.買付証明書はどこに提出する?
    4. 1-4.買付証明書の有効期限
  2. 2.売渡承諾書とは?
  3. 3.買付証明書に法的効力がないのに提出する理由とは?
    1. 3-1.買付証明書提出後にキャンセルすると問題になるケースとは?
  4. 4.買付証明書のメリット・デメリット
    1. 4-1.買付証明書のメリット
    2. 4-2.買付証明書のデメリット
  5. 5.買付証明書の書き方
    1. 5-1.物件に関する情報
    2. 5-2.購入希望金額
    3. 5-3.手付金
    4. 5-4.中間金
    5. 5-5.残代金
    6. 5-6.年収
    7. 5-7.金融機関・融資利用の情報
    8. 5-8.契約希望日
    9. 5-9.有効期限
  6. 6.買付証明書を提出するときの注意ポイント
    1. 6-1.契約に向けて話が進んだ段階でキャンセルすると違約金が発生する場合がある
    2. 6-2.キャンセルが多いと信用を失う
    3. 6-3.正しい情報を記入して提出する
  7. 7.買付証明書提出から引き渡しまでの流れ
  8. 8.買付証明書に関するよくある質問
    1. 8-1.Q:買付証明書とは?
    2. 8-2.Q:買付証明書を提出するメリットは?
    3. 8-3.Q:買付証明書を提出した後にキャンセルはできる?
    4. 8-4.Q:買付証明書を提出するときの注意点は?

1.不動産の買付証明書とは何か

不動産の買付証明書とは、不動産を購入する際に購入希望者が不動産の売主側に購入の意思を伝える書類のことです。購入申込書と呼ぶ場合もあります。なぜ買付証明書を提出する必要があるのでしょうか。不動産を購入したいと思った場合、売主側に対して意思表示をする必要があります。もちろん口頭で意思表示を行っても問題ありません。

しかし不動産業界では、万が一のトラブルを避けるためにも書面で行うことが慣例となっています。売主側からすればいくら口頭で購入の約束をしても冷やかしの可能性も否めません。そのため買付証明書があったほうがスムーズな取引が期待できるというわけです。

ただし買付証明書の提出は、任意となります。万一不動産仲介会社から買付証明書の提出を促されても購入の決断ができないなど自分の意に反する場合は提出しないほうがよいでしょう。

1-1.買付証明書が持つ3つの役割

買主が買付証明書を提出するのは、一定のメリットがあるからです。例えば提出することで売主や不動産仲介会社との信頼関係を築けることが期待できます。買付証明書の主な役割は、以下の3つです。

1-1-1.買主が購入の意思表示をできる

不動産売買の意思を口約束だけで伝えることもできますが、お互いに内容の誤認がある場合、後でトラブルに発展しかねません。しかし買付証明書を提出すれば買主は、希望する物件の購入意思や条件を売主へ正確に書面で伝えることが可能です。売主にとっては、買主が冷やかしではなく購入意欲が高い顧客と認識できるメリットがあります。

ただしあくまでも買主側の意思表示となるため、売主が必ず書かれている条件で売らなければいけないわけではありません。

1-1-2.優先交渉権を確保できる

不動産業界の商慣習では、最初に購入の意思表示をした人が優先的に交渉できる「先手優先」が一般的です。そのため買付証明書を提出することで誰が優先交渉権を持っているかがはっきり分かります。ただしあくまでも優先的に交渉する権利となるため、優先購入権ではない点には注意しましょう。売主には、条件によって断る権利もあるため、購入まで保証されるわけではないのです。

1-1-3.売主との最初の条件交渉を明示できる

買付証明書には、購入希望金額や希望条件が記載されるため、売主との最初の条件交渉を明示する役割があります。例えば、売出価格5,000万円の物件に対して希望購入金額を4,800万円と記載すれば「200万円の値下げ交渉をする」という意味です。そのため著しく低い購入希望金額や無理な条件を記載した場合は、買付証明書を確認した段階で交渉が破談するケースもあります。

買付証明書を売主が受け入れ実際の交渉に至るには、売出価格を参考に常識的な範囲の購入希望金額を記載したほうが無難です。

1-2.買付証明書と不動産売買契約書の違い

内容買付証明書不動産売買契約書
法的効力なしあり
キャンセル可能可能
(条件によりキャンセル料発生)
手付金の有無なしあり
本人確認書類なくても可必要

買付証明書は、購入する意思を売主へ表明し条件交渉を依頼するための書類です。ただし、買主が提出した買付証明書に記載されている条件を売主がすべて承諾した場合でも、売買契約を交わしたことにはなりません。そのため買付証明書は「法的効力はない」ということを理解したうえで提出する必要があります。

一方で不動産売買契約書は、売買に関する具体的な条件を明記しお互いに記載された条件で取引することを約束する法的効力がある書類です。また手付金を支払うのが一般的で、キャンセルした場合は条件によってキャンセル料(違約金)がかかる場合もあります。

1-3.買付証明書はどこに提出する?

買付証明書の提出先は、物件の種類によって以下のように異なります。

物件の種類提出先
中古物件などの仲介物件不動産仲介会社
売主が直接募集している物件売主

不動産を購入する際は、問い合わせ後に建物の内覧をするのが一般的です。内覧により物件の購入意思がある場合は、内覧後が買付証明書を提出するタイミングとなります。例えば不動産仲介会社へ買付証明書を提出した場合は、その後不動産仲介会社から売主へ正式な買付意思が伝えられる流れです。買付証明書に記載されている条件で売主と交渉が始まります。

1-4.買付証明書の有効期限

買付証明書には、有効期限を記載しなければなりません。有効期限は、一般的に1~2週間程度となり最長でも1ヵ月が目安です。ただし問い合わせの多い優良物件の場合、1ヵ月にすると早く買主を決めたい売主から敬遠される場合もあります。そのためどのぐらいの有効期限とするかについては、不動産仲介会社にあらかじめ確認しておくと安心でしょう。

売主が買付証明書に対する回答をする際に売却の意思がある場合は、一般的に次章で紹介する「売渡承諾書」を有効期限内に買主へ提出します。買付証明書と売渡承諾書がそろえばお互いの意思確認が書面上で行えるため、安心して売買交渉を進められるでしょう。

2.売渡承諾書とは?

売渡承諾書とは、購入の意向を示した買主または不動産仲介会社に対して売主が売却の意思があることを明示する書面です。売渡承諾書があると不動産仲介会社が交渉しやすくなるため、スムーズに売買を行えるようになります。

売渡承諾書には、主に以下のような項目が記載されています。
※不動産仲介会社や売主によっては記載項目が異なる場合があります。

  • 売渡承諾書の日付
  • 買主の宛名
  • 売主の住所、氏名
  • 買主に売り渡す意思の表示
  • 売り渡す金額
  • 支払方法(手付金、中間金、残代金)
  • 引き渡し方法(現状有姿渡し、リフォーム渡しなど)
  • 瑕疵のない完全な所有権移転である旨の記載
  • 融資特約付帯の有無
  • 有効期限
  • 登記簿による不動産の表示(土地の場合は所在地、地目、地積など、建物の場合は所在地、家屋番号、床面積、構造など)

買付証明書と同じように法的効力はなく交渉を取り下げた場合でも原則損害賠償などのペナルティは発生しませんが、売主が不動産の売却を言明しておきながら、契約直前に理由もなく態度を変えたような場合には、買主は契約準備のためにかかった費用などを損害賠償請求できるケースもあります。

購入希望者にとっては、優先交渉権を得られるため、ローンを利用する場合、金融機関に対して物件を取得できる可能性が高いことを示すことができます。

3.買付証明書に法的効力がないのに提出する理由とは?

上述の通り買付証明書に法的効力はありませんが、なぜ提出が必要なのでしょうか。買付証明書は、買主が「この物件を買いたい」という意思を売主や不動産仲介会社に示す書類です。具体的には「いつまでにいくらで購入したい」など購入希望条件が記載されます。売主に希望購入金額や条件を具体的に提示することができるため、売買交渉がスムーズに進められる点は大きなメリットです。

ただし契約書ではないため、提出しても購入の義務はありません。東京高等裁判所の判例(昭和50年6月30日)では、以下のような判断がなされました。

「売買契約書を作成し、内金を授受することは、売買の成立要件をなすと考えるのが相当である」
判例出典:公益社団法人全日本不動産協会「買付証明書の法的性格」

つまり「契約書の作成で契約締結が成立する」との判断になるのです。そのため買付証明書の提出だけでは、契約にあたらないと可能性が高いでしょう。さらに大阪高等裁判所の判例(平成2年4月26日)では、以下の判断が示されています。

「不動産を一定の条件で買い受ける旨記載した買付証明書は、これにより、不動産を買付証明書に記載の条件で確定的に買い受ける旨の申し込みの意思表示をしたものではなく、単に、不動産を将来買い受ける希望がある旨を表示するものにすぎない」
判例出典:公益社団法人全日本不動産協会「買付証明書の法的性格」

以上の判例にもあるように売買証明書に法的効力はないため、提出した後に買主が購入をキャンセルしても罰金や違約金を支払う義務はありません。買付証明書を提出することにデメリットはないのです。また、書面にすることで買付意思を示した証拠が残り、条件が具体的に記載されていることで買主・売主双方における誤解や伝達ミスなどを防ぐことが期待できます。

買付証明書に記載される有効期限は、通常1~2週間程度となるため、双方がその期間内に契約締結に向けた交渉を進めることが必要です。何もしない場合、他の購入希望者が買付証明書を提出して優先交渉権を得てしまうリスクもあります。そのため特別な事情がない限り買付証明書を提出しておいたほうが無難でしょう。

3-1.買付証明書提出後にキャンセルすると問題になるケースとは?

買付証明書提出後のキャンセルは、原則可能です。しかし交渉進展状況によっては問題になる可能性もあります。例えば、長期間にわたって契約交渉を重ねておりほとんど合意に至っていながら契約を打ち切るなど買主に信義に反する行為があった場合は、損害賠償を請求される可能性もあるため、注意が必要です。

また契約直前でのキャンセルは、売買契約書の作成や代金の決済について確認した後に買主が購入を拒否して損害賠償請求が認められた判例もあります。信義に反するキャンセルは、損害賠償の対象になることは押さえておきましょう。また買付証明書を提出後にキャンセルして損害賠償にまで至った判例もあります。

平成20年11月10日の東京地方裁判所判決では、不動産購入予定者が不動産市況の悪化を理由に契約締結を拒否したことが、正当な理由がないのに拒否する「不法行為責任」にあたると認められました。同裁判においては、買付証明書提出後に7通の契約書案を交換していたことがポイントとなっています。

すでに「売買契約の条件がほぼ確定していた」「売買に向けて配水管関係工事を実施し駐車場の契約を解除して明け渡しを受けていた」などが重視されています。

4.買付証明書のメリット・デメリット

買付証明書に法的効力はありませんがメリット・デメリットはあるため、十分に購入意思を固めてから提出することが必要です。

4-1.買付証明書のメリット

買付証明書を提出すると主に以下の4つのメリットがあります。口頭で申し込む客よりも買付証明書を提出するほうが「見込み客」として不動産仲介会社や売主からの評価が高くなるため、購入意向が強い物件なら提出したほうがよいでしょう。

4-1-1.希望する物件を購入できる可能性が高くなる

買付証明書を提出すれば希望する物件を購入できる可能性が高くなる点はメリットです。人気物件の場合、内覧希望者が多くなることが予想されます。そこで買付証明書を提出すれば不動産会社は、単なる内覧希望者から見込み客に認識を変えるため、重要な情報や購入に近づけるアドバイスをもらえることが期待できるでしょう。

売主にとっては「買付証明書を提出してまで購入したい意欲的な買主」と映るため、多少条件を譲歩しても交渉をまとめたい気持ちになる可能性があります。

4-1-2.交渉をスムーズに進められる

口約束ではなく買付証明書という書面にすることで交渉がスムーズに進むメリットがあります。買付証明書に希望購入金額や条件を記載するため、売主も合意が可能な買主か判断しやすくなるでしょう。買い手にとっては、買付証明書を提出して売主に受け入れられれば優先的に交渉できる安心感があります。

確実に入居者が見込める優良物件であれば購入希望者も多くなるのは当然です。ただ口頭で購入希望を伝えても買付証明書を提出した人が同じような金額を提示した場合、売主は買付証明書を提出した購入希望者を優先して交渉にあたります。そのため優良物件では、買付証明書がないと不利になるケースもあるでしょう。

4-1-3.物件価格を値下げしてくれる可能性がある

買い手が付きにくい物件を購入する場合でも買付証明書を提出するメリットはあります。なぜなら買付証明書に購入希望価格を記載することで一定期間買い手が付かない物件であれば売主から値下げをオファーしてくることも考えられるからです。売主としては、買い手が付かない物件に購入希望者が現れたことで「多少値下げしても売ってしまいたい」という心理になることが考えられます。

そのため、買付証明書に販売価格よりも低い価格で購入希望金額を記入しておけば、売主がその価格まで下げてくれる可能性は十分期待できるでしょう。ただし、売主には売却希望価格の最低ラインがあるため、あまりにも販売価格とかけ離れた金額を記載すると「買う気がない」と判断されかねません。

4-1-4.先口がキャンセルした場合に購入できる可能性がある

買付証明書で自分が2番手だった場合、買付証明書を提出していることで先行の人がキャンセルしたときに連絡してもらえる可能性があります。買付証明書を提出したことで不動産仲介会社は、見込み客として扱うため、後日購入できる可能性があるのです。

また最初に買付証明書を提出したときは、価格面で折り合わなかった物件でも売主が値下げしたときに再度連絡が来る可能性もあります。買付証明書を提出していない場合は、そのような機会はありません。

4-2.買付証明書のデメリット

買付証明書には、主に以下の2つデメリットもあるため、十分に理解してから提出する必要があります。提出の仕方や記載内容によっては、マイナスになる場合もある点は押さえておきましょう。

4-2-1.提出したとしても購入が確約されるわけではない

買付証明書を提出しても複数の買主が買付証明書を提出している場合は、記載している条件によって自分が後回しになる可能性もあります。なぜなら売主は、複数の買付証明書を比較して自分にとって一番条件の良い購入希望者を選んで交渉する可能性が高いからです。また希望購入価格や諸条件がほぼ同じ場合は、先に提出した買主が優先される可能性があります。

そのため、購入する意思がある物件なら早めの提出が大切です。ただし最初に交渉権を得たとしても購入まで優先されるわけではありません。自分以外に買付証明書を提出する人がいない場合は、購入できる可能性が高くなります。しかし買付証明書の提出者が複数いる場合は、最終的に売主の判断次第になり購入が確約されない点はデメリットです。

さらに買付証明書の有効期限は、長い場合1ヵ月程度あります。そのため自分が2番手となった場合、どうしても欲しい物件であれば1番手と売主の交渉結果が出るまで長期間次の物件を探しにくい点もデメリットです。

4-2-2.買付証明書を安易に提出すると信用を失う

キャンセルができるからといって安易に複数の物件で買付証明書を提出すると信用を失う可能性があります。また無理な条件を記載することも不動産仲介会社や売主からの信用を失いかねません。信用が失墜してしまうと、本当に購入したい物件が見つかった場合でも交渉を受け付けてくれない可能性があるため、注意が必要です。

買付証明書は、本当に購入したい物件に絞り、記載内容も売主が受け入れやすいように磨き上げるようにしましょう。また買付証明書を一度提出すると修正が難しいため、いい加減なチェックのまま提出するとトラブルになる恐れがあります。特に虚偽記載があると不動産仲介会社や売主からの信用を失うことになりかねません。

買付証明書を提出する前には、数字などの記載内容に間違いがないか慎重にチェックを忘れないようにしましょう。

5.買付証明書の書き方

買付証明書は、売買契約書のような正式な書類ではないため、決まったフォーマットはありません。自分でパソコンを使って作成しても問題ありませんが「どのような書式にすればよいか分からない」という人もいるのではないでしょうか。インターネット上に多数のテンプレートがアップされているため、自分に適したものをダウンロードして記入する方法もあります。

また不動産会社が用意している場合もあるので聞いてみるとよいでしょう。買付証明書には、以下のような項目を記載するのが一般的です。いずれも売主が知りたい情報となるため、正確に記載する必要があります。以下は、基本的な項目ですがダウンロードしたフォーマットによっては入っていない項目があるかもしれません。

そのため、複数のフォーマットをダウンロードして最も良いと思うフォーマットを使うようにしましょう。

5-1.物件に関する情報

購入したい物件の不動産登記簿謄本上の住所、建物の名称、延床面積、建物の構造(木造・軽量鉄骨・重量鉄骨・RC)などを記載します。分からない部分は、記載しなくてもかまいません。不動産会社や売主に確認して記載する方法もあります。

5-2.購入希望金額

購入希望金額は、売主が最も注目している項目です。金額は、インターネットの物件情報に掲載されている売出価格ではなく買主が購入したい金額を記載します。もちろん売出価格でも問題ありません。ただし優良物件で購入希望者が多いと予想される場合は、予算の範囲内で少し高めの金額を記載しておくと売主から交渉の承諾を得られる確率が高くなるでしょう。

買付証明書に記載した購入希望金額は、必ずその金額で購入しなければならないわけではありません。実際の交渉時に多少値下げしてもらえる可能性はあります。ただし売主から「買付証明書に記載された希望金額でなければ売却できない」といわれる可能性もあるため、希望金額は支払える額を記入することが大前提です。

購入希望金額が妥当かどうか自分で判断が難しい場合は、不動産仲介会社に相談して決めることも選択肢の一つでしょう。不動産仲介会社も妥当な金額であれば仲介しやすいため、交渉がまとまる可能性が高くなることが期待できます。

5-3.手付金

手付金は、契約が成立したことを証明する性格があり、売買契約書の締結時に物件購入代金の頭金として売主に支払う金額を記載します。手付金は売買代金の一部に充当されますが、買付証明書を提出する時点で手付金を支払う必要はありません。金額は決まっておらず物件価格の約5~20%が一般的です。ただし建設中の場合は、「物件価格の5%」「着工前や完工済みなら10%まで」という制限があります。

また、頭金になるからといって手付金をあまり多く入れるとリスクが高くなる点は押さえておきましょう。万一買主都合で売買を解除する場合、手付金は還ってこないのが一般的です。物件の引き渡しや購入金額の支払いを履行する前であれば買主は手付金を放棄、売主は手付金の2倍の金額を支払うことで契約を解除できます。(民法557条)

例外として「住宅ローンの融資が非承認になった」「地震で物件に破損が生じた」など不可抗力で契約を解除する場合は、あらかじめ取り決めがあれば手付金が返還される場合もあります。

5-4.中間金

手付金と残代金の中間に支払う金額を記載します。記載の有無は、物件によって異なるため、必要ない場合は0円と記載しても差し支えありません。新築マンションなどでは、中間金を入れないケースがあります。中古物件の場合は、売主が新居購入や引っ越し費用に充てるため、中間金を支払うケースもあるでしょう。

契約を解除した場合、手付金は戻りませんが中間金は返金されるのが特徴です。

5-5.残代金

購入希望金額から手付金と中間金を差し引いた金額を記載します。不動産売買契約を結んでいたとしても、残代金が支払われ購入代金の支払いがすべて完了しないと物件と鍵の引き渡しが行われません。不動産は、高額なので原則不動産仲介会社の店頭で支払いが行われることはなく、銀行から売主が指定する口座に振り込むことになります。

売主が指定口座に振り込まれたことを確認できれば残代金授受の成立です。その後の登記手続きについては、司法書士に依頼するのが一般的です。

5-6.年収

購入者が会社員の場合は、源泉徴収票に記載されている「支払金額」、自身で確定申告している場合は事業収入や給与所得を合計した「所得金額」を記載します。この項目は、買主が購入するのにふさわしい経済力があるかを判断するためのものです。購入したい物件だからといって虚偽の年収を記載してはいけません。

虚偽の申告が発覚した場合、売主との信頼関係が失墜するため、正直な金額を記載するようにしましょう。

5-7.金融機関・融資利用の情報

金融機関でローンを組む場合、融資を受ける金融機関名、金額などを記載します。融資を受ける金融機関が決まっている場合は、金融機関名などを記載、金融機関が決まっていない場合は候補になっている複数の金融機関を記載もしくは未定と記載しておきましょう。また「融資特約」を付けている場合は「融資特約あり」と記載する必要があります。

融資特約とは「住宅ローン特約」とも呼ばれ住宅ローンの融資が通らなかった場合に売買契約を白紙撤回することができる特約です。万一住宅ローンの審査に落ちた場合にトラブルになるのを防ぐ役割があります。融資特約の記載欄がない場合は「その他」の欄に融資特約ありと記載しておきましょう。融資を受ける金額については、物件価格のみか諸費用まで含めたものかも記載します。

金融機関・融資利用の情報を詳しく記載することで売主や不動産仲介会社からの信頼が高まることが期待できるでしょう。

5-8.契約希望日

物件の契約締結日や引き渡しなどの希望スケジュールを記載します。スケジュールをしっかりと記載しておけば売主に引っ越しが必要な事情がある場合に対応しやすくなります。またキャンセルがあった際のトラブル抑止になるため、記載したほうがよい項目です。

5-9.有効期限

買付証明書の有効期限を記載します。一般的には1~2週間が目安ですが最長でも1ヵ月までと考えたほうがよいでしょう。購入希望額と売出価格に差がある場合は、折り合うまでに時間がかかる可能性もあるため、余裕を持った有効期限を設定したほうが無難です。

6.買付証明書を提出するときの注意ポイント

買付証明書を提出するときに注意すべきポイントがあります。対応方法によっては、トラブルに発展する場合もあるため、特に以下の3つについては注意しましょう。

6-1.契約に向けて話が進んだ段階でキャンセルすると違約金が発生する場合がある

売買契約後にキャンセルすると契約違反(債務不履行)となり、損害賠償として違約金の支払い義務が生じます。不動産売買の損害賠償はあらかじめ約束した違約金を支払うのが一般的です。しかし、売買契約前であっても交渉が進んでお互いに「契約が成立する」という認識を持つまで進んだ段階のキャンセルの場合、違約金が発生する可能性があるため注意しましょう。

なぜなら誠実に契約成立に努力すべき「信義則上の義務」が双方に生じるからです。交渉破棄に関する規定はないため、損害賠償に至るケースは多くありません。しかし損害賠償が認められた判例もあるため、キャンセルに至る要因がない場合に限って買付証明書を提出することが必要です。

6-2.キャンセルが多いと信用を失う

買付証明書に法的効力がないといって何度もキャンセルしていると不動産仲介会社からの信用を失ってしまうでしょう。不動産仲介会社にとっては、売主からの印象が悪くなるため、キャンセルが多い客は敬遠される可能性があります。そのため買付証明書は、安易に提出するのではなく物件を購入する意思がある場合に限定するようにしましょう。

6-3.正しい情報を記入して提出する

買付証明書には、正しい情報を記入して提出することが大前提です。売主に少しでも良い条件に見せようと年収を高めに記入したり金融機関から融資を受ける金額を少なめに記入したりして自己資金を多く見せるなどの行為は、信義に反するのでやめましょう。実際に購入を前提に記入する内容に責任を持つことが大切です。

7.買付証明書提出から引き渡しまでの流れ

買付証明書を提出してから物件の引き渡しまでの主な流れは、以下の通りです。(金融機関から融資を受ける場合)

  1. 物件内覧後に買付証明書を提出し売主と価格を交渉する
  2. 金融機関の融資審査(仮審査)が開始される
  3. 融資審査が通過し売主から売渡承諾書が提出されたら売買契約の締結日を決める
  4. 不動産仲介会社から重要事項説明がある(売買契約と同じ日)
  5. 売買契約を結び手付金を支払う
  6. 金融機関に本融資の申し込みをする
  7. 残金を支払い物件と鍵の引き渡しを受ける

買付証明書の提出が物件購入へ向けてのスタートになります。先に紹介した「買付証明書の書き方」にある各項目の記載方法を参考にしながら売主の承諾を得られる買付証明書を作成しましょう。買付証明書は、法的効力がありませんがメリットやデメリット、注意点があります。本当に購入したい物件が見つかった場合は、売主へ意思を伝えるためにも早めに提出したほうがよい書類といえるでしょう。

はじめての提出で不安がある場合は、不動産会社に相談すれば買付証明書の書き方や提出するときに注意すべき点などをアドバイスしてもらえます。一般的に買付証明書のフォーマットは不動産仲介会社に用意してあるため、自分で作成できない人は活用するのがおすすめです。最終的に不動産仲介会社が記載内容をチェックするため、問題箇所があればアドバイスしてもらえるでしょう。

そのため買付証明書の提出に関しては、あまり心配いりません。まずは、プロに相談することが購入への近道です。

8.買付証明書に関するよくある質問

最後に買付証明書に関するよくある質問をまとめておきます。

8-1.Q:買付証明書とは?

買付証明書とは、不動産を購入する際に購入希望者が不動産の売主側に購入の意思を伝える書類のことです。売買契約書のような法的効力はありません。買付証明書を提出することで売主が買主の希望条件を確認することができるため、交渉がスムーズに進むことが期待できます。

8-2.Q:買付証明書を提出するメリットは?

売主に購入する意思表示ができることです。買付証明書を提出すると優先交渉権を得られるため、他の購入希望者を気にすることなくじっくりと交渉を進めることができます。購入希望金額を記載できるため、交渉次第では販売価格よりも安く購入できる可能性があります。

8-3.Q:買付証明書を提出した後にキャンセルはできる?

買付証明書を提出した後でもキャンセルは可能です。不動産売買契約書の締結前であれば原則損害賠償などのペナルティはありません。ただし長期にわたって契約交渉を重ねお互いに売買についての合意がありながら契約を打ち切るなど明らかに買主に信義に反する行為があった場合は、損害賠償を請求される可能性もあります。

8-4.Q:買付証明書を提出するときの注意点は?

買付証明書を安易に複数の物件に提出すると仲介する不動産会社や売主の信用を失う可能性があります。そのため本当に購入したい物件に絞って提出したほうがよいでしょう。また買付証明書を提出する際は、年収や融資の有無など正直に記載することが大切です。虚偽の記載をして発覚した場合は、信用を失うため、注意しましょう。

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