不動産クラウドファンディングの成長性と課題|J-REITと同規模の市場に成長する可能性も
柏村 雄
株式会社タスキ代表取締役社長
株式会社ZISEDAI代表取締役社長

1979年、東京都生まれ。大学卒業後、2017年までグループだった新日本建物に03年4月に入社。16年4月から新日本商事にて事業部長、17年7月から新日本建物管理にて本部経営企画部次長を務めた。17年10月に株式会社タスキへ転籍し、経営管理部長に就任。その後、経営管理部長を兼ねながら18年4月から投資戦略部長、同年9月からは取締役として監査室長を務めた。19年5月からは取締役として経営管理部長とコンプライアンス・オフィサーを兼任し、DX部門を管掌。2021年10月より現職。2022年12月には子会社である株式会社ZISEDAIの代表取締役社長に就任。

資産運用の有望な投資先の一つとして注目度が上昇している「不動産クラウドファンディング」。今回、
不動産クラウドファンディング「TASUKI FUNDS」を開発、運営する株式会社タスキの柏村雄代表取締役社長に、TASUKI FUNDSの強みや市場の動向などについてインタビューを行いました。

前編では「TASUKI FUNDS」の強みや特徴を中心にお届けしてきました。後編では、不動産クラウドファンディング市場の課題や先行きについて、引き続き柏村さんにお話をうかがっていきます。果たして、今後も不動産クラウドファンディング市場は拡大を続けるのでしょうか。

目次

  1. 他社との競争激化も追い風に
  2. 不動産クラウドファンディングの課題と注意点
  3. 「町の再生」という社会的な意義

他社との競争激化も追い風に

――そもそもなぜ、不動産クラウドファンディング市場に参入されたのでしょうか。

柏村(以下、回答は全て同じ) 不動産クラウドファンディングに参入する以前、私たちは主に共同住宅やホテル、保育園の開発や不動産コンサルティングを手掛けてきました。不動産クラウドファンディング事業に新規参入したのは2018年から2019年頃。クラウドファンディングを通して、もっと多くの投資家に不動産開発を知っていただきたかったことが大きな理由の一つです。

また、不動産クラウドファンディングは、不動産の現物への投資に比べるとかなり少額で投資ができるため、もっと投資家のすそ野を広げたいという思いもありました。

――確かに、「不動産投資」は少なくとも数百万円、時には数億円レベルの資金が必要というイメージがあります。

もちろん、物件の場所や規模などによって金額は大きく変わりますが、ある程度まとまった資金が必要というのは確かです。そのため、積極的に不動産投資を行う層は資金が潤沢な富裕層か、あるいは銀行融資を活用する投資家に限られてしまう側面があるのは否めません。

日本政府は「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げ、NISA(少額投資非課税制度)の拡充など、個人が投資に参加しやすくなるような政策を推し進めています。それにも関わらず、不動産投資のハードルが高いままでは、個人の新規参入はなかなか見込めないでしょう。そこで、「少額で投資可能」、「申し込みはオンラインで完結」という強みを持つ不動産クラウドファンディングへの参入を通して、不動産投資のハードルを下げようと考えたわけです。
(※TASUKI FUNDSはNISAの対象投資商品ではありません)

――新規参入された2018年当時は、まだ不動産クラウドファンディングの黎明期に当たり、市場規模もかなり小さかったようですが、現在では急速に拡大していますね。

国土交通省によると、2018年の不動産クラウドファンディング市場の規模は12.7億円。案件数も26件と、非常に小さい市場でした。しかし、2019年は34.2億円、2020年は85.6億円、2021年は232億円と、倍々ゲーム以上のペースで規模が拡大しています。市場の成長ペースに波は出てくると思いますが、まだ拡大は始まったばかりですし、今後も成長が続くでしょう。不動産クラウドファンディング市場自体の市場規模も拡大が続いていることは追い風です。

――市場の拡大にともなって、他社との競争も激しくなるのではありませんか?

不動産クラウドファンディングの市場は、まだ成長を始めたばかりです。参入する事業者が増えれば、その分、競争の激化は避けられません。とはいえ、不動産クラウドファンディング市場自体が拡大すれば、当然、私たちTASUKI FUNDSもその恩恵を受けられますから、そういう意味で、競争の激化も歓迎すべきことだと思います。

不動産クラウドファンディングの課題と注意点

――今後も不動産クラウドファンディング市場が拡大するのはほぼ確実な情勢ですが、急速に拡大している分、課題も生まれているのではないですか?

市場が盛り上がり、好利回りの案件だとあっという間に満額を達成できるのは喜ばしいことです。その半面、きちんとしたリスク管理ができていない事業者が新規参入したり、不動産クラウドファンディングの投資リスクを十分に把握されているとは言えない投資家の方々が増えたりするといった状況も生まれています。

そもそも、不動産開発はリスクを伴うもの。私たちは不動産デベロッパーとしての豊富な経験をもとに、用地取得の段階から投資家が抱えるリスクを極力抑えるように努力していますが、私たちのような事業者ばかりではないということを、投資家の方々にも念頭に置いていただきたいですね。好い利回りにばかりに気を取られていると、思わぬ損失を被りかねません。

――ほかにも、不動産クラウドファンディングへの投資に関して、一般的な注意点があれば教えていただけますか?

一般的な投資信託と比べ、不動産クラウドファンディングは満期までの期間が半年から1年程度と短い傾向があります。利回りは年率換算で表示されるケースが多いので、利回りが表向きは「6%」と表示していても、運用期間が半年のファンドでは、実質的な利回りは半分の3%。利回りの数字だけでなく、運用期間にも注意が必要でしょう。

――市場の拡大にともなって、法律面などの市場整備も必要になりそうです。

確かにその通りなのですが、不動産クラウドファンディングにはJ-REIT(不動産投資信託)という類似商品があります。J-REITは2003年からスタートし、法整備も進んでいるので、それが不動産クラウドファンディング市場の整備にも活きてくるでしょう。J-REITの市場規模は、コロナ禍で一時的に縮小したものの、2021年には再び17兆円の大台を突破しました。不動産クラウドファンディングも、市場の整備が進めば、同じような規模まで成長できるのではないでしょうか。

ちなみに、J-REITと不動産クラウドファンディングで違う点は、値動きです。J-REITは東証で株式の個別銘柄と同じように売買されているため、購入後に値下がりすればキャピタルロス(値下がり損)が発生します。一方、不動産クラウドファンディングは市場での値動きがないので、投じた資金に応じて安定した利回りが期待できるのがメリットです。

――J-REITは、現金が欲しい時にすぐに市場で売却できるという換金性の高さが強みですが、不動産クラウドファンディングは途中解約が可能なのでしょうか?

TASUKI FUNDSに関していえば、途中での換金方法として、中途解約か、地位の譲渡があります。
中途解約は、やむを得ない事情がある場合にのみ受け付けています。地位の譲渡は、譲渡先が見つかればいつでも可能です。その場合の譲渡価格は譲渡先との任意の金額となります。

――それも、不動産クラウドファンディングの課題と言えそうですね。

J-REITは、換金性が高いことが人気の要因の一つになっています。セカンダリーの取引市場の整備は、不動産クラウドファンディングの解決すべき課題ですね。市場の拡大を背景に、時間が経てば解決される課題だとは思いますが、やはり誰かが手を挙げる必要はあります。

セカンダリー取引のプラットフォームを作ることは、私たちの使命の一つです。私たちが積極的に手を挙げていこうと考えています。

「町の再生」という社会的な意義

――TASUKI FUNDSには、「町の再生」という社会貢献の側面もあるそうですね。

私たちが取得した用地の9割近くが、実は空き家か、あるいは将来的に空き家になる可能性がある「潜在的な空き家」でした。TASUKI FUNDSは、投資家の方々が安定かつ好利回りを得られるミドルリスク・ミドルリターンの金融商品であると同時に、空き家を減らし、町全体の美化や再生にも貢献することができる事業でもあるのです。

今後、不動産クラウドファンディングの市場拡大に伴って、他社との競争も激しくなるでしょう。しかし、自社の目先の利益だけを考えず、TASUKI FUNDSを通して社会に貢献する意識を忘れずに取り組んで参りたいと思っています。

――最後に読者の方々に伝えることがあれば、お話しください。

私たちTASUKI FUNDSは、元来の不動産デベロップメント事業者としての経験や知識を活かし、賃料相場や不動産市場の需給などを考慮しながら、より安全性の高い商品設計を行っています。実際、過去に組成し運用が終了している3件のファンドは、いずれも5~10%の予定利回りを実現させました。

今後も、「IoTレジデンスを開発しているタスキだからこそできる」と胸を張って言えるようなファンドを組成していこうと考えています。今後も年4件程度、新たなファンドを組成する予定なので、資産運用の有望な投資先の一つとして捉えていただけると嬉しいです。

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