2024年6月17日に、東京都と大阪府において不動産特定共同事業(不動産クラウドファンディング)に関する行政処分が実施されたことが発表されました。

また、行政処分の取消を求める訴訟が提起されるとともに、行政処分の一部について執行の停止を求める申立てが行われており、東京地方裁判所は後者について業務停止命令の効力停止を2024年6月20日に決定しました。
東京地方裁判所の決定資料には関連プロジェクトにおける資金調達規模が1,900億円を超える巨大なプロジェクトであることも記載されており、多くの投資家に関わる重要な内容だとYANUSY編集部は捉えています。

本記事では、行政処分の内容に加えて東京地方裁判所の決定内容についても解説します。

目次

  1. 行政処分の内容とは?
  2. 行政処分が実施された理由は?
  3. 東京地方裁判所の決定とは?
  4. 東京地方裁判所が決定した背景(判断理由)とは?
  5. まとめ

行政処分の内容とは?

「みんなで大家さん」においてファンドの募集・運用が実施されている「共生日本ゲートウェイ成田プ ロジェクト」(以下「成田PJ」)に関して、事業者を監督する「東京都(住宅政策本部民間住宅部不動産業課)」及び「大阪府(都市整備部 住宅建築局建築指導室建築振興課 宅建業指導グループ)」より行政処分が実施されました。
詳細な情報は各関係者のホームページに掲載されていますが、ここではその概要を解説します。

関連資料 : 東京都 報道発表資料
関連資料 : 大阪府 報道発表資料

なお、本件については行政処分の取消しを求める訴訟と、行政処分のうち「業務の一時停止」を命じる部分についての執行の停止を求める申立てが行われており、後者について、2024年6月20日に東京地方裁判所より、当該裁判の第一審判決の7日が経過するまで効力を停止することが決定されていますので、その点についても後述します。

関連情報 : みんなで大家さん公式ぺ―ジ 業務停止処分の効力の停止に関するお知らせ

■処分を受けた事業者
1.都市綜研インベストファンド株式会社(投資家と匿名組合契約を締結してファンドを運営する事業者)
2.みんなで大家さん販売株式会社(Webサイトを通じて匿名組合契約の代理・媒介を行う事業者)

■処分内容
1.業務の一時停止(新規の募集及び販売に関する業務を30日間停止)
2.業務に関して以下事項を指示
(1)ファンドが扱う「対象不動産」の変更に際し、変更又は解約についての意思を明確に確認できていない事業参加者に対し、契約の変更に応ずる意思があるかを速やかにかつ明確に確認すること
(2)成田PJの計画見直し(※1)公表以降に成田PJに出資した事業参加者に対し以下の措置を講ずること
 ・成田PJの計画見直しの影響やリスクなど、投資判断を行う上で重要な事項を適切に説明すること
 ・対象不動産の宅地造成工事完了時における形状・構造等の必要事項を明示した上で説明すること
 ・今回の処分理由及びこれに対する処分内容等について説明すること
(3)成田PJに関する出資契約の解約の申出があった場合、事業参加者の保護に万全を期すこと(※2)
(4)再発防止策の検討、実行、周知徹底
(5)法令順所の徹底(社内研修や継続実施の指示を含む)
(6)不動産特定共同事業に関する業務の適正な運営を確保(社内の業務管理体制の整備等)
(7)事業参加者からの解約の申出に係る対応状況を報告すること

※1 令和5年5月19 日付けで「共生日本ゲートウェイ成田プロジェクトについての近況報告」が公表されており、当初事業計画の見直しや事業の具体化が図られています
※2 代理・媒介を行うみんなで大家さん販売株式会社に対しては、ファンド運営を行う都市綜研インベストファンド株式会社への取り次ぎを指示

行政処分が実施された理由は?

東京都と大阪府の報道発表資料に掲載されている処分理由のうち、主なポイントは以下の通りです。

・開発許可の対象ではない土地を対象不動産に含んでいるにもかかわらず、対象不動産について成田市開発許可により開発許可済みであると契約成立前交付書面及び契約成立時交付書面に事実と異なる記載をした

・上記誤りを是正するために対象不動産の交換を行う際に、事業参加者から契約変更の同意を適切に得なかった
(申出がない場合、契約に同意したものとみなすこととした)

・成田PJの計画見直しを行った際に、事業プランの変更が土地の資産性に大きく影響を及ぼす可能性のある重要な事項であると認識していたが、事業参加者に対する十分な説明を実施しなかった

・宅地造成工事完了時における形状・構造等を投資家に対する交付書面に十分には記載しなかった

東京地方裁判所の決定とは?

東京地方裁判所は執行停止の申立てに対して、以下の決定を行ったことが「みんなで大家さん」ホームページ上で公開されていますので、その内容についてもポイントをまとめます。

■決定事項
1.業務停止処分の効力は第一審判決の言渡から7日が経過する日まで停止する
2.申立人のその余の申立てを却下する
3.申立費用は相手方の負担とする

30日間の業務停止については、裁判の判決が言い渡されるまで停止されているため、みんなで大家さんは当面、不動産特定共同事業を継続することとなっています。
一方、処分内容のうち指示事項については取り消されていないため、投資家に対する説明や意向確認などが今後進むことが想定されます。

東京地方裁判所が決定した背景(判断理由)とは?

東京地方裁判所の決定書面を確認すると、業務停止処分を裁判の一審判決まで停止した理由として、以下のような考え方が記載されています。

・業務停止により、みんなで大家さんの営業活動に著しい支障が出ることが一応認められる
 損害の性質上、事後でその業務停止が適当でなかたったと判断したとしても原状回復が困難なため、第一審判決の結論を踏まえて業務停止を行うか決定することが適当

・元本保証がないこと、「土地開発型特有のリスク」があることが重要事項説明書に記載されており、事業参加者は当該リスクを一定程度許容していると認められる

現時点では行政処分自体を無効としているわけではなく、業務停止については裁判の一審判決を踏まえ判断すべき、という内容ですので、行政処分で指示された投資家に対する説明や意思確認などが今後進められることになると考えられます。

まとめ

不動産特定共同事業法においては、投資家への投資勧奨に際して、投資判断に関わる重要事項を投資家がわかるように説明するよう求めています。

一方で、東京地方裁判所の決定においては、重要事項説明書等の交付書面において記載されたリスクについて、投資家が一定程度許容していることを認めています。

不動産クラウドファンディングでは多くのサービス事業者が存在し、かつ、個々のファンドが扱う対象不動産や不動産事業内容やリスクも様々ですので、投資前に商品内容をしっかり確認し、リスクにも納得した上で投資することが重要です。

例えば、投資募集時点で完成して賃料を得ている収益不動産(マンションやオフィスビル等)を扱うファンドと、大規模な開発を伴うファンドでは想定すべきリスクの内容や程度が異なります
また、ファンドで損失が生じた際に優先的に損失を負担する劣後出資比率についてもファンドごとに異なっており、劣後出資比率が高いほど投資家のリスクを抑制する仕組みとなっています

投資家が自身のリスク許容度に応じたファンドを選択できることが重要ですので、YANUSYでは、投資家個々のリスク許容度合いを踏まえた投資判断を行う上で有益な情報提供を行えるよう、これからも努力してまいります。