シンガポールの民泊事情
(画像=Noppasin Wongchum/Shutterstock.com)

日本で「民泊」「エアビーアンドビー(Airbnb)」という言葉が話題になってしばらくたちます。民泊とは、戸建住宅やマンションの部屋などを貸し出して、旅行者や出張者などに宿泊サービスを提供することです。今日はシンガポールの民泊事情について見ていきましょう。

シンガポールでは短期の住宅賃貸は違法

実は、シンガポールでは短期の住宅賃貸は「違法」となっています。

問題になるケースは以下の3つです。

1.住宅開発庁(HDB)の公営住宅を観光客に賃貸する。
Airbnbで宿泊先を探すのは概して観光客です。しかしHDB公営住宅オーナーは、住宅を観光客に賃貸することはできません。HDB住宅は、学生ビザや長期滞在ビザを保有している外国人にのみ賃貸できます。

2.物件の賃貸期間が短すぎる。
賃貸期間には次のような条件があります。Airbnbで宿泊先を探すような人にとっては長すぎるでしょう。

(a) HDB住宅オーナー(旅行者に賃貸できないことを大前提として)
HDB住宅オーナーは6か月未満の賃貸ができません。短期賃貸をした場合、罰金を科せられたり、住宅をHDBに強制収用されたりすることがあります。

(b) 個人住宅オーナー
個人住宅オーナーは、連続する3か月未満で物件を賃貸することが禁じられています。URAから許可を得ている場合は例外となります。

個人住宅オーナーは3か月未満で物件を賃貸したとして有罪判決を受けると、最大200,000シンガポールドル(約1,600万円)の罰金が科されます。有罪判決後も賃貸を続けると、超過分につき1日(またはその端数)あたり、最大10,000シンガポールドル(約800万円)の罰金が科されます。常犯者については、上記の罰金に加えて、懲役最大12か月の実刑判決となる場合もあります。

3.一回に賃貸する相手の人数が多すぎる。
ひとつの物件に一度に滞在することができる人数には法的な制限があります。これは、オーナーが一度に賃貸することができるテナントの数にも影響します。

(a) HDBオーナー(旅行者に賃貸できないことを大前提として)
ひとつのHDBユニットに滞在できる人数は(HDBオーナーとその家族も含めて)

  • 3ルームユニットについては6人
  • 4ルーム以上のユニットについては9人
    (1ルームおよび2ルームHDBユニットのオーナーは賃貸に出すことができない)

HDBユニットのオーナーで、ユニットの人数上限を超えて賃貸した場合、罰金を科されるか、HDBによりユニットを強制収用されることがあります。

(b) 個人住宅オーナー
一度に1つの個人住宅物件に滞在できる他人の数は、6人となっています。これ以上の場合は、URAの認可が必要になります。

家族(ヘルパーやナニーも含めて)とともに物件に住んでいるオーナーがテナントを入居させる場合は、全部で6人になるような人数にしか賃貸することができません。

オーナーの家族を含めると、1物件内に住んでいる人数がすでに6人を超えている場合、そのオーナーは自宅物件を賃貸することができません。

個人住宅オーナーがこの賃貸できる人数を超えて賃貸したとして有罪となると、最大200,000シンガポールドル(約1,600万円)の罰金および/または、最大12か月の懲役が科せられます。有罪判決後も賃貸を続けると、超過分につき1日(またはその端数)あたり、最大10,000シンガポールドル(約800万円)の罰金が科されます。

短期の住宅賃貸に関する政府の話し合い

シンガポールの都市再開発局(Urban Redevelopment Authority (URA))は2019年5月8日、一般市民、町内会、コンドミニアム、ホテル、サービスアパートのマネジメントチームとの4年間にわたる協議の末、短期(3か月未満)の賃貸はシンガポールでは依然として違法であるとの発表をしました。

シンガポールの法定機関は、民泊を取り扱うホームシェアリングのプラットフォームの運営者らが同機関のルール草案を「あまりにも制限が多い」と批判したのをうけて、民家の短期賃貸を認める案に踏み切らないことを決定しました。

この草案には、オペレータのライセンス取得、それぞれの住宅に対して年間民泊として営業できる日数を最大90日とすること、また80パーセントの住民が合意した場合に限って、民泊の営業を認めることなどが含まれています。

ホームシェアリングのプラットフォーム運営者は、90日上限と、80%合意の2つのルールについて特に反対しました。

シンガポールの法定機関は、状況が行き詰ったため、草案を進めないこととするが、プラットフォーム運営者がルールの草案をコミットすることに合意するならば、「今後ポジションを見直すことをいとわない」としています。

「プラットフォーム運営者が商売上やむをえないのは理解できます。だからといって、シンガポール国民の懸念に対応しない、より緩やかな規制の枠組みを許せるほどではありません。」とURAは説明しています。

シンガポール国民の懸念

URAが民間に委託して、数千人の住宅所有者を対象に行った国勢調査よると、回答した住宅所有者の大半が、短期賃貸者によって、住民の安全やプライバシーが侵害されたり、共有設備にダメージが与えられたり、迷惑をかけたりするのではとの懸念を示していると言います。

▼2018年後半期に行われた国勢調査結果(1,000名以上の個人住宅オーナーに面談)

  • 68% ― 敷地内におけるセキュリティに懸念
  • 67% ― 住民のプライバシーが損なわれる
  • 64% ― 短期滞在者による不作法な振る舞いや騒音などの迷惑行為に懸念
  • 56% ― 短期滞在者による共有設備へのダメージなどへの懸念
  • 55% ― 短期住宅賃貸による火災などのリスク増大

上記の懸念事項を受けて、草案に賛成した回答者は次のとおり:

  • 69% ― 区分所有物件内で短期住宅賃貸に80%同意の条件を設けることを支持
  • 69% ― 年間90日の民泊営業日数を支持
  • 80% ― ホームシェアリング・プラットフォーム運営者はライセンスを取得し、政府による規制を受けるべき

調査回答者のうち、たった7%が自宅を(短期)賃貸に出すことに積極的でした。

加えて、コンドミニアムのマネジメントチームは、ジムやプールといった共有設備を利用する短期賃貸者の「影響を軽減」しなくてはいけないとの懸念を示しました。

東南アジアにおけるAirbnbの公共政策担当、ミッチ・ゴー氏は、他の国の政府は、現代の旅行のトレンドを反映した「サスティナブルな」ルール・規制を導入しているのに、URAの判断を「失望させる」として、「現在の状態に固執している限り、シンガポールは例外のままです。」と話しました。ゴー氏は、将来の短期民泊営業の許可に向けて、政府と引き続き検討を進めたいとしています。

ゲストが民泊を利用することは違法なのか?

シンガポールでは、ゲストが民泊を利用することを規制する法律はありません。ただし、2018年3月にはニュージーランドから訪れた一家が、Airbnbでコンドミニアムの一室を4泊予約したものの、違法だとしてコンドミニアムのセキュリティガードに追い払われてニュースとなるなど、利用することは違法でないとしても、リスクがあります。

世界一民泊に対する規制が厳しい国ともいわれるシンガポール。現代の旅行者のトレンドとして、現地の人の生活が垣間見えたり、宿泊よりも旅行先での体験にお金をかけたりできる民泊は人気ですが、シンガポールにコンドミニアムをお持ちの方で旅行者への賃貸をお考えの方、シンガポールへの旅行でホテル以外の選択肢として民泊をお考えの方は法規制に注意が必要です。