インドネシアは、ジャカルタの都市高速鉄道(MRT)ネットワークの延伸に向けて、400億USドル(約4兆3,600億円)を支出する構えです。このプロジェクトは、2045年までに7兆USドル経済圏を作りたいとするジョコ・ウィドド大統領のロードマップの一部です。
ジャカルタ都市高速鉄道会社(PT MRT Jakarta)は、現在の延伸計画の資金調達元を選定中です。2019年3月に部分的に運転を開始した最初のMRT路線に、さらに6路線を加えたい考えです。6路線が加われば、香港やシンガポールのMRTと全長が同程度になります。
ジャカルタ都市高速鉄道会社のサバンダール社長取締役は、マスタープランとして2030年までに全長230キロの路線を建設することを目標に掲げています。現在の全長は16キロです。建設をいかにして加速させていくかが今後のカギとなります。
すでに開通しているジャカルタのMRT路線は、南部郊外の人口の多い住宅地ルバック・ブルスから、ダウンタウンのビジネス街ブンダランHIまで15.7キロの道のりをカバーしています。
▼ジャカルタMRTマップ(出所:ジャカルタ都市高速鉄道会社)
青色:フェーズ1(完成済み)
緑色:フェーズ2
その他の鉄道計画
2019年9月、インドネシアはJICAと、60兆ルピア(約4,600億円)のジャカルタとジャワ島のスラバヤを結ぶ鉄道の準高速化プロジェクトに調印しました。
インドネシアはまた、ジャカルタと西ジャワの首都バンドンを結ぶ142キロの高速鉄道プロジェクト、60億USドル(約6,500億円)も委託しています。このプロジェクトは、中鉄国際集団有限公司とインドネシア国有企業のコンソーシアム、インドネシア中国高速鉄道社(KCIC)が請け負っています。2019年末に完成予定でしたが遅延しており、現在の完成予定は2021年を見込んでいます。
国家開発企画庁の資料によると、インドネシアは、スラウェシとカリマンタンに鉄道網を建設するだけでなく、国の主要な空港と近隣都市を鉄道で結ぶ計画もしています。
不動産市場への影響
ジャカルタは、東南アジアの中でも、酷い渋滞で有名な都市のひとつです。位置特定技術を専門とするTomTom社が発表する交通渋滞ランキング(Traffic Index Ranking)では、2019年は世界10位となっています。しかし、過去からの推移をみていくと、ジャカルタは世界4位(2017年)、世界7位(2018年)、世界10位(2019年)と少しずつ順位を下げてきています。TomTom社は2016年に導入された車のナンバープレート(奇数・偶数)による車両規制とMRT路線の効果が出てきているとしています。また、不動産コンサルタントのクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドは、MRTによって、CBD(中心業務地区)エリアで働く人々の通勤時間が、25~30分から、5分に短縮されると見積もっています。
▼交通渋滞ランキング(Traffic Index Ranking)(出所:Tom Tom Traffic Index ranking)
順位 | 都市名 | 国名 | 混雑レベル |
---|---|---|---|
1 | バンガロール | インド | 71% |
2 | マニラ | フィリピン | 71% |
3 | ボゴタ | コロンビア | 68% |
4 | ムンバイ | インド | 65% |
5 | プーネ | インド | 59% |
6 | モスクワ州 | ロシア | 59% |
7 | リマ | ペルー | 57% |
8 | ニューデリー | インド | 56% |
9 | イスタンブール | トルコ | 55% |
10 | ジャカルタ | インドネシア | 53% |
新しい地下鉄路線を温かく歓迎するのは通勤者だけではありません。アナリストは、市内の不動産市場を再び活性化させるのではと考えています。特にオフィス部門は、近年稼働率が下がり、賃料も伸び悩んでいました。インドネシア初のMRTの開通により通勤が楽になることで、ジャカルタのCBD(中心業務地区)のオフィス賃料および稼働率も上がることが期待されています。
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、2019年第1四半期のCBDエリアにおけるプライムオフィススペースの稼働率は74.13パーセントと、前年同期76.67パーセントから下がっており、理由は大規模供給によるものとしています。賃料は、一方で7.3パーセント下がって、平米あたり20.24USドル(約2,200円)となりました。
ジャカルタのMRTができたことで、MRT直結またはMRTへのアクセスが便利なオフィスやコンドミニアムの需要も高まるとみられています。また、接続性のよいショッピングモールの客足も伸びるでしょう。
不動産専門家は、TBシマトゥパンMRT路線沿いのエリア、TBシマトゥパンから南ジャカルタを通って、スディルマン通りやタムリン通りまでが、MRTへのアクセスの良さから最も影響を受けると予想しています。サウスチャイナ・モーニングポスト紙の2019年5月末の記事では、まだMRTによる不動産賃料や価格への具体的な影響はみられていないということですが、今後オフィス、リテール、レジデンシャルすべてポジティブな影響が見込まれています。
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、MRT沿いのオフィスに移転する企業が増えてきているといいます。一方で、MRT路線に近くない空きオフィスには、賃料が下がったことにより、e-コマースやコワーキング事業者などが入ってきているということです。また、安価な賃料のオフィススペースを求めるスタートアップ企業などもあるため、MRTによるダイナミクスの変化が、市場の他のプレイヤーへの利益につながっているようです。
不動産価格の将来的な上昇を見込んで、MRT沿線では再開発も始まるかもしれません。沿線には古い建物が多く、土地のサイズも比較的小さいものが多くなっています。商業化が進むにつれて、小さなオフィスや高層住宅、ホテルなどができてくるとみられています。