アジアパシフィック地域,REIT,調達額過去最高
(画像=Vitalii Vodolazskyi/Shutterstock.com)

アジアパシフィック地域のREIT

総合不動産サービス会社JLLによると、アジアパシフィック地域の不動産投資信託(REIT)が、2019年140億USドル(約1.6兆円)以上を調達しました。これは、過去最高記録の2013年の138億USドル(約1.5兆円)を超える結果となりました。世界の経済・政治の不透明さを受けて、投資家はより安定した、利回り重視の株を求めたものとみられています。

アジアパシフィック地域の不動産投資は、2019年の1~9月で1,250億USドル(約13.9兆円)に達し、前年同期比ベースで10%増加しました。JLLは、2020年もまた堅調な年になるとみています。

JLLキャピタルマーケット・アジアパシフィックのCEO、ステュアート・クロウ氏は、2019年末の時点で、「今後2年間、世界の不動産取引量は上昇を続け、その中でも特に、アジアパシフィック地域は、世界中の投資家の注目を浴び、欧州や米州をしのぐでしょう。」と話しています。

JLLによると、アジアパシフィック地域の外国投資は、過去10年間で最も高いレベルにあり、2019年の全体量の35%を占めるとのことです。プライベート・エクイティ・ファンドと大規模取引がけん引役となりました。

2020年のキーワードは?

(1) 物流

物流セクターのREITは、REIT市場の時価総額に占める割合は12%ほどですが、調達された資金の三分の一ほどを占めました。これは、過去10年ほどで、Eコマースの発達し、幅広いネットワークからスピーディーに商品を届ける必要があり、倉庫の重要性が格段に高まったからです。

アジアパシフィック地域の急速な人口増加と堅調な経済成長もまた、後押しになっています。

JLLは、物流セクターは、今年も引き続きアジアパシフィック地域の最も需要のある資産クラスとなるとみています。

一方で、リテールREITは、アジアパシフィック地域市場の24%を占めました。しかし、2019年の調達額は、8億USドルほどで、全体の7%にとどまりました。

これも、Eコマースによるところが大きいと言えます。Eコマースがリテール市場に向かい風を起こし、伝統的な店舗販売を行う「ブリック・アンド・モルタル」型販売を行うセクターの成長を妨げています。

JLLキャピタルマーケット・アジアパシフィックヘッドのニコラス・ウィルソン氏は、これについて「主要なリテールREITが、株価純資産倍率およそ0.8で取引されているところをみると、オポチュニティはそこに転がっているかもしれません。」と話しています。「投資家は現在、リテールREITの価格をかなりダウンサイドに見ています。もしかしたら、少し行きすぎくらいなのかもしれません。」

(2) ジョイントベンチャー・M&A

質の高いポートフォリオにアクセスするために、市場の主要プレイヤーとのジョイントベンチャー(合弁事業)やM&A(合併・買収)を行う投資家が増えてきているといいます。たとえば、カナダの年金基金OMERSが、アジアパシフィック地域の物流プラットフォームESRに出資し、ESRがオーストラリアのプロパティリンクを取得した件などがあります。

より戦略的なM&Aにより、地理的な拡大ができるだけでなく、アメリカや欧州などでも既存の地域でも比較的新しい分野への投資を深めていけるとJLLは語っています。

(3) グリーンビルディング

運転コストを削減するためのよりサスティナブル(持続可能)な技術と、テナントや入居者を呼び込むための革新的なデザインを期待して、グリーンビルディング部門への投資も注目できそうです。

シンガポール証券取引所のメインボードに上場するKeppel(ケッペル)Reitは、2019年12月4日に、グリーンビルディングのポートフォリオを強化するためにOCBC銀行から、グリーン融資枠1.5億シンガポールドル(約119億円)を取り付けたことを発表しました。これは、同年6月に子会社を通じて取得した5.05億シンガポールドル(約401億円)に続く2本目のグリーン融資枠となります。

クロウ氏は、「アジアパシフィック地域の政府はサスティナビリティの意識が高く、スマートでより住みやすい街づくりのために積極的だ」として、「目先の利いた不動産投資家に対して、サスティナブルな資産の取得または開発をする、もしくは都市再開発の一環を担うことで、絶好の機会を得られるだろう。」と話しています。

たとえば、シンガポールは、CBD(中心業務地区)の分散化を図ることで、サスティナビリティの取り組みを進めています。これにより、古いオフィスビルを複合用途の総合開発へと再開発し、自家用車の使用を減らそうとしています。

(4) フレキシブルスペース

フレキシブルスペースもまた、シンガポール、東京およびシドニーといった主要な玄関口となる都市で拡大するとみられています。フレキシブルスペースは、どのくらいのスペースのどのくらいの期間賃貸するか、という点において、企業に自由度を与えてくれます。これらの都市では、オフィス需要が依然として高く、コワーキング事業者やサービス付オフィスにさらなる成長の余地があります。

世界的に、フレキシブルスペースはさらなる成長が見込まれています。JLLが560の不動産会社を対象に行った調査から、協力を促す「アジャイル(俊敏な)」な仕事スペースは、世界のオフィスポートフォリオのうち、2018年の19%から2020年末には30%にまで拡大すると予想されています。