30超の資格保有者、一級建築士/CPM®の猪俣淳さんに聞く(前編)〜アセットマネジメントとは?不動産投資に役立つ資格とは?

専門知識に基づいた知識・分析・データをもとに不動産投資のコンサルティングを行っている猪俣淳さん。そのバックボーンには30を超える不動産に関連する資格があります。そんな不動産投資のプロフェッショナルの猪俣さんに「不動産投資におけるAMとPMについて」「不動産投資に役立つ資格は何か」などをテーマにお話を伺いました。

【猪俣淳さんプロフィール】
不動産投資のコンサル会社、アセットビルド代表取締役。一級建築士、宅建士、CPM ®(認定不動産管理士)など国内・海外の30を超える資格を保有。資格の領域は、建築・不動産・管理・投資・金融・保険に及ぶ。不動産投資に関する著書多数。2022年11月に新刊『誰も書かなかった 不動産投資の出口戦略・組合せ戦略〈詳細解説改訂版〉』(住宅新報出版)を出版。

猪俣淳さんの連載コラムはこちら(LIFULL HOME'Sへの外部リンク)

目次

  1. 不動産投資におけるAM(アセットマネジメント)とPM(プロパティマネジメント)とは?
  2. 不動産投資をする人が宅建士資格を持っていたほうがよい理由
  3. 一級建築士の資格取得では朝4時起きで勉強時間を確保
  4. 不動産投資に役立つ!猪俣さんがおすすめする資格

不動産投資におけるAM(アセットマネジメント)とPM(プロパティマネジメント)とは?

-猪俣さんが経営されているアセットビルドでは、顧客一人ひとりに合わせた不動産投資コンサルティングをされていますね。会社の特徴として、AM(アセットマネジメント)を重視したコンサルティングを掲げられていますが、「そもそもAMとはなにか」を読者の皆さんに解説していただけますか。

AMとはアセットマネジメントの略です。わかりやすく言うと、「投資家の代理人」ということ。AMを軸にして不動産投資家へのコンサルをする場合、「営業純利益をどれだけ高められるか」「投資価値をいかに最大化するか」がテーマになります。

-通常の不動産会社であれば、PM(プロパティマネジメント)とAM両面からのサポートを行うケースも多いですね。猪俣さんの会社はなぜ、AMに特化されているのでしょうか。

PMを軸にして不動産投資のコンサルティングをする場合、「物件の価値をどう最大化するか」が課題になります。AMとPMは利益相反(両者の利益が相容れないこと)する可能性があるため、私たちはAMに特化しています。

- AMとPMの利益相反について、具体的に解説していただけますか。

これはあくまでも一例ですが、たとえば都市開発が進む好立地に一棟マンションを所有している不動産投資家がいたとしましょう。PMを軸にしてコンサルをすると、稼働率や賃料を高めるための施策が中心になるのが一般的です。一方、AMを軸にしてコンサルをする場合、そのマンションが築浅だとしても、商業ビル経営によって利益が最大化するなら既存建物を解体して建て直すことをおすすめします。

-同じ物件でもAMの観点・PMの観点では、最適解が変わってくるわけですね。

あるいは先の例でいうと、建物を所有することが必ずしも最善ではないかもしれない。更地にして売却することが最適解かもしれません。どの選択が最適解かは、その人の目標、資産背景、リスク許容度などによっても変わってきます。これを踏まえてコンサルティングをしていくのがAMの立ち位置で行う私たちのコンサルティングになります。

物件購入や賃貸経営を前提にしてしまうと、その人の希望に沿わない結果になる場合があるわけですよね。たとえば、思ったよりもリターンが少ない、リスクが高い、あるいは、時間的に目的達成が間に合わないといった結果です。

望まない結果になったとき、「投資は自己責任だ」ということになりがちですが、投資家に責任を負わせるのであれば、不動産業者には投資家の利益を最大化するために適切なフォローをする義務、投資の透明性を高める義務があるのではないでしょうか。このことと誠実に向き合うため、私たちはAMに特化しているというわけです。

-とはいえ、不動産投資にはAMとPMの両方が不可欠ですね。PMのフォローはどのようにされているのでしょうか。

私たちはあくまでも依頼を受けた「投資家の代理人」の立場ですから、複数のPM会社の中からその人とその物件に最適なPM会社をマッチングします。単にPMの会社をご紹介するのではなく、自主管理やサブリースを含めてその人にとっての最善策をご提案しています。

不動産投資をする人が宅建士資格を持っていたほうがよい理由

-猪俣さんのAMに特化した不動産投資コンサルティングの背景にあるのが、数多くの不動産、金融、相続などの資格に基づく専門知識ですね。保有されている資格数はどれくらいでしょうか。

現在、全部で31の資格を保有しています」

参考資料 猪俣淳さんの全保有資格
【不動産系】宅地建物取引士/不動産コンサルティングマスター/不動産アナリスト/ハウジングライフプランナー【不動産投資系】CCIM認定商業不動産投資顧問/CCIM公式セミナー講師(事業用不動産の市場分析)/不動産証券化マスター/米国不動産投資マスター/米国不動産投資コンサルタント【建築系】一級建築士/震災建築物応急危険度判定士/既存住宅状況調査技術者/住宅メンテナンス診断士/住宅インスペクター/住環境測定士補【不動産管理系】CPM認定不動産経営管理士/CPM公式セミナー講師(メンテナンスとリスク管理及びマーケティングとリーシング)/ CPM MPSA試験採点官/賃貸不動産経営管理士/管理業務主任者/賃貸住宅査定申請主任者/防火管理者【金融系】ファイナンシャルプランナー/ FP技能士/貸金業務取扱主任者【保険系】損害保険リテール資格/生命保険募集人資格【相続系】相続対策専門士/相続アドバイザー/事業承継スペシャリスト

-そんな猪俣さんだからこそ、ぜひ伺いたいのですが、「不動産投資に資格は必要か否か」という議論がありますが、これについてはどうお考えですか。

資格を取る、取らないは別にして、知識そのものを得ることは間違いなく役に立つはずです。たとえば、建築の知識があれば自分自身で建物の問題点を見つけ出し解決策を得ることができます。
そもそも資格には、学歴や他の保有資格といった受験資格が必要なものもあります。たとえば、建築士ならば建築系学歴や実務経験といったように。でも資格取得ではなく、知識の取得を目的とするのであれば受験者が勉強する参考書を読み込むだけでも一定水準の知見を得られるはずです。内容が難しければ漫画形式になっている入門書などもたくさんあります。

-不動産投資に役立つ資格としては、「宅建士」がよく取り上げられますが、これについてはいかがですか。

不動産投資をするなら、宅建士の資格は持っていても良いかもしれませんね。

第1の理由として、重要事項説明の内容が理解しやすくなる。収益物件を購入する際、宅建士から重要事項説明を受けますが、知識がないと理解しないままに判子をついてしまうケースもよくあります。宅建士の知識があれば、こういったことは無くなるでしょう。

第2の理由として、不動産業者になめられなくなる。取引前に宅建士であることをそれとなく匂わせるだけで、一定の専門知識を持っている人だと一目置かれる。そういった意味では、宅建士資格には不動産業界の「葵の印籠」のような機能があるといえるのかもしれません。

第3の理由として、不動産投資の経営規模が拡大したときに宅建士資格があると幅が広がります。所有物件数が多くなり、購入や売却の機会が増えてくると不動産投資を“業”として行う側面が強くなります。その場合、宅地建物取引業の免許が必要になってくる可能性もありますが、自身で資格を持っていれば、宅建士を雇わなくて済みますからね。

一級建築士の資格取得では朝4時起きで勉強時間を確保

-国がリスキリング(学び直し)政策を打ち出していることもあり、資格取得そのものに興味がある人も多いと思います。猪俣さんが初めて取得された資格は何でしょうか。

大学卒業後、横浜の不動産会社に入社したのですが、その年に宅地建物取引主任者(現宅建士)を取得したのが初めです。学生時代から付き合っていた家内との結婚のために、義理の父から宅建資格の取得と貯金100万円を条件にされていたので、必死に貯金と勉強に励みました。

-厳しいお義父さんがいらっしゃったから、今の猪俣さんがあるのですね。ただ、当時の不動産業界は激務だったと思うのですが、どうやって勉強時間を確保されましたか。

宅建士の勉強は、主に通勤の電車移動の時間を活用しました。もちろん、それだけでは時間が足りないので休日も勉強にあてて、何とか一発合格できましたね。

-ただ、猪俣さんの取得資格を拝見すると、難易度の高いものも多数ありますね。それだけではとても勉強時間が確保できないように感じますが。

保有している資格のなかで一番難易度が高いのは一級建築士でした。このときは、休日は受験生向けの講座を受けたり、図書館で勉強をしたりというのが基本でした。さらに勉強が進むにつれて知識量の不足を痛感したので、朝5時に起きて自宅で勉強しました。

それでも、一級建築士の1回目の試験では、自信があった課目を1点差で落とし不合格となりました。ならばと、2回目は4時起きで勉強をして何とか合格できました。その後は、早起きが習慣化して他の資格取得もスムーズに進むようになりました。

不動産投資に役立つ!猪俣さんがおすすめする資格

-気になるのは、なぜそこまで大変な想いをして資格取得をされるかということです。

不動産の仕事は奥が深く、掘り下げようとすればするほど次から次へと興味の輪が広がっていくからです。資格取得は仕事への関心と知的欲求の現れといえるかもしれません。決して資格マニアということではありません。

-その結果、不動産系の資格だけでなく、管理、建築、相続、金融・保険などの資格を取得することになったんですね。

不動産の専門知識は、用語ひとつにしても本当に追求していくと正しい理解がいかに大切かという事がわかります。たとえば、不動産投資の基本用語に「イールドギャップ(収益格差、スプレッド)」がありますね。

イールドギャップは、単純に「金利と表面金利の差」と解説されることが多いですが、それでは融資期間の長短に伴う返済額の違いや、空室損・運営費・修繕費といった要素が反映されません。本来の意味でのイールドギャップとは、「総収益率=営業純利益÷総投資額」と「ローン定数=年間返済額÷借入額」の差のことです。この差がレバレッジを生じさせる要因となりますが、これさえも投資期間や売却出口での損益といった要素が反映されていない単年の指標ですから、さらに踏み込むと保有期間中のキャッシュフローと売却キャッシュフローの合計が初期投資額と同額になる割引率(内部収益率=IRR)と借入金利が投資全体を見た場合のイールドギャップということになります。

著書「誰も書かなかった~」は、不動産投資をされる皆さんや、そういったみなさんに提案されるプロフェッショナルの方々のためのマニュアルとして書きました。自分自身の投資を実例に投資の入口から出口まで、ポートフォリオの組成など市場分析・財務分析の仕組みを紹介しながら解説していますので、手に取っていただければと思います。

-さきほど、不動産投資に有効な資格として宅建士を挙げられましたが、他にもおすすめの資格はありますか。

宅建士以外に有効な資格であれば、建築系(建築士・インスペクター資格等)、賃貸管理系(賃貸不動産経営管理士等)の資格を勉強されると良いと思います。また、プロの皆さんであればCPM(認定不動産経営管理士)とCCIM(認定商業不動産投資顧問)という米国発のふたつの資格を強くお勧めします。

-不動産投資に役立つ資格取得に興味のある人は、参考にしてみてはいかがでしょうか。

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