賃貸オーナーが知っておくべき「原状回復ガイドライン」の内容とトラブル回避のポイント
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大西 勝士
大西 勝士
フリーランスの金融ライター(AFP、2級FP技能士)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。

賃貸オーナーは、退去が発生すると次の入居者を迎えるために原状回復を行うことが必要です。原状回復は、オーナー(賃貸人)と入居者(賃借人)の費用負担を巡ってトラブルになることもあります。賃貸経営を行うなら「原状回復ガイドライン」や「民法のルール」についてしっかりと理解しておくことが大切です。

本記事では、原状回復ガイドラインと民法改正のルール変更、トラブル回避のポイントについて解説します。

原状回復ガイドラインとは

原状回復ガイドラインとは、民間賃貸住宅における原状回復の費用負担のあり方についての一般的な基準です。国土交通省が1998年3月にとりまとめ2004年2月および2011年8月に裁判事例やQ&Aの追加などの改訂が行われています。民間賃貸住宅の賃貸借契約は、契約自由の原則によって貸す側と借りる側の合意に基づいて行われるものです。

しかし退去時の費用負担を巡ってオーナーと入居者との間でトラブルが発生することが少なくありません。ガイドラインでは、原状回復のトラブル防止を目的に一般的な民間賃貸住宅を想定した標準契約書や原状回復の費用負担の考え方などが示されています。原状回復ガイドラインに法的拘束力はありませんが国がとりまとめたガイドラインのため、原状回復にかかる判例も多く盛り込まれている傾向です。

そのため賃貸オーナーは、基本的に本ガイドラインに沿って原状回復に対応する必要があるでしょう。

民法改正により原状回復と敷金のルールが明確化

2020年4月1日から「民法の一部を改正する法律」が施行され賃貸借契約に関するルールが見直されました。改正前は、入居者の原状回復義務の範囲が不明確でしたが今回の民法改正によって原状回復に関するルールが明文化されました。具体的には、以下の2点について明記されています。

  • 賃借人は入居後に生じた損傷について原状回復義務を負う
  • 通常損耗や経年劣化については原状回復義務を負わない

改正後の民法ルールは、原状回復ガイドラインとほぼ同じ内容となりガイドラインで示されていた原状回復の考え方を民法改正によって明文化した形です。つまり賃貸オーナーは、原状回復ガイドラインの内容に則って賃貸経営を行う必要があります。従前は、敷金の定義や返還についての規定はありませんでした。

しかし今回の民法改正で「敷金が賃料債務の担保として入居者がオーナーに交付する金銭」「賃貸借契約が終了した時点で返還義務が生じる」などが明確化されました。

原状回復ガイドラインのポイント

原状回復ガイドラインには、具体的にどのようなことが示されているのでしょうか。ここでは、ガイドラインのポイントを確認していきましょう。

原状回復の定義

原状回復ガイドラインでは、原状回復を以下のように定義しています。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
出典:国土交通省

原状回復費用は、原則入居者の負担ですがガイドラインでは「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」といった内容が明確化されました。

賃貸オーナーと入居者の費用負担の考え方

ガイドラインでは「経年劣化や通常の使用による損耗などの修繕費は賃料に含まれる」としています。例えば以下のようなものは原則オーナー負担です。

  • 通常の住まい方や使い方をしても発生するようなもの
  • 建物価値を増大させる要素が含まれているもの

逆に以下のようなものは入居者の負担となります。

  • 住まい方・使い方次第で発生するもの
  • 入居者の管理が悪くて損耗などが発生・拡大したと考えられるもの

経過年数や施工単位を考慮する必要がある

ガイドラインによると原状回復費用の負担は、経過年数や施工単位を考慮することが必要です。入居者負担と考えられるものでも経年変化や通常損耗が含まれておりその分を賃料として支払っています。そのため入居者が修繕費用を全額負担するのではなく建物や設備の経過年数を考慮して年数が多いほど入居者の負担割合を減らす考え方が示されています。

また原状回復は毀損部分の復旧となるため、できるだけ毀損部分を限定し最低限度の施工単位に基づいて費用負担を決めることが基本です。

原状回復における費用負担の具体例

実際には、どのようにオーナーと入居者の費用負担を決めればよいのでしょうか。ここでは、原状回復における費用負担の具体例を紹介します。

床(畳・フローリング・カーペット)

<オーナー負担>

  • 次の入居者確保のために行う畳の裏返し・表替え
  • フローリングのワックスがけ
  • 家具の設置による床やカーペットのへこみ
  • 日照や雨漏りが原因の畳の変色・フローリングの色落ち

<入居者負担>

  • 飲み物をこぼしたことによるシミやカビ
  • 冷蔵庫下のサビ跡
  • 引っ越し作業などで生じた傷
  • 入居者の不注意によるフローリングの色落ち

壁、天井

<オーナー負担>

  • テレビや冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ
  • 壁に貼ったポスターや絵画の跡
  • 入居者所有のエアコン設置による壁のビス穴
  • 自然現象によるクロスの変色

<入居者負担>

  • 清掃を怠ったことによる台所の油汚れ
  • 結露を放置したことで拡大したカビ、シミ
  • タバコが原因のクロスの変色や臭い

建具、襖(ふすま)、柱

<オーナー負担>

  • 次の入居者確保のために行う網戸の張り替え
  • 地震が原因で破損したガラス
  • 自然現象による網入りガラスの亀裂

<入居者負担>

  • 飼育ペットによる柱などの傷や臭い
  • 落書きなどの故意による毀損

設備、その他

<オーナー負担>

  • 専門業者による全体のハウスクリーニング
  • 台所、トイレの消毒
  • 浴槽や風呂釜の取り替え(破損なし)
  • 鍵の取り替え(破損・紛失なし)
  • 寿命による設備の故障、使用不能

<入居者負担>

  • ガスコンロ置き場や換気扇などの油汚れ(入居者が清掃・手入れを怠った場合)
  • 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ(入居者が清掃・手入れを怠った場合)
  • 不適切な手入れや誤った使い方による設備の毀損
  • 紛失、破損による鍵の取り替え

退去時のトラブル回避のポイント

賃貸オーナーが退去時のトラブルを避けるには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。

入退去時に原状回復確認リストを作成する

退去時のトラブルを防ぐには、入退去時に原状回復確認リストを作成することが有効です。オーナーと入居者が立ち合ったうえで損耗の箇所や程度、原状回復の内容について確認しておけばトラブル防止につながります。確認リストは、話し合いがうまくいかなくなった際に証拠資料として提示できるため、仮にトラブルになっても早期解決が期待できるでしょう。

原状回復ガイドラインには「入退去時の物件情報及び原状回復確認リスト」の例が示されているため、参考にするのがおすすめです。

通常損耗補修特約を定めて入居者の合意を得ておく

入居者に原状回復費用を一部負担してもらいたい場合は、賃貸借契約の際に「通常損耗補修特約」を定めることも方法の一つです。賃貸借契約書に特約として原状回復の内容や金額を具体的に明記し入居者の合意を得られれば特約部分の原状回復費用を負担してもらえます。例えば「退去時のハウスクリーニング費用〇万円は入居者の負担とする」といった具合です。

入居者の負担範囲や金額が明記されていないと特約は有効と認められない可能性があります。また単に記載されていても入居者への説明を怠ったり合意を得ていなかったりする場合は、認められない可能性もあるため、注意が必要です。賃貸借契約において通常損耗補修特約を追加したい場合は、事前に不動産会社や弁護士などの専門家に相談しましょう。

敷金ゼロ住宅が増えた理由

2020年の民法改正の影響で敷金ゼロ住宅が増加傾向です。これは、敷金を受け取るよりも退去後にクリーニング代として請求するほうがトラブルは減ると考えるオーナーが増えたからといわれています。近年は、賃貸借契約時に家賃保証会社を利用することで家賃滞納リスクを回避することが可能です。敷金などの初期費用を高くすると次の入居者の確保が難しくなることも理由の一つといえるでしょう。

敷金をゼロにする代わりに通常損耗補修特約で原状回復費用の負担を入居者に求めるケースもあります。

まとめ

賃貸経営では、退去時の原状回復費用の負担割合を明確にしておかないと入居者とのトラブルに発展する恐れがあります。退去時のトラブルを回避できるように原状回復ガイドラインや改正後の民法ルールを理解しておきましょう。

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