「不動産の2022年問題」で地価暴落は起きない!?その背景と理由を解説
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本間貴志
本間貴志
ビジネス書に特化した編集会社のサラリーマン・ライターを経て、資産運用や税務の分野を専門とするライターとして活動。自主管理で賃貸経営をする不動産投資家の顔も持つ。

地価暴落のトリガーになりかねない「不動産の2022年問題」をご存じでしょうか。首都圏に多い生産緑地の解除が2022年に集中するため、起こる問題とされています。ただ結論からいえば「不動産の2022年問題」が混乱を招く可能性は低いでしょう。本稿では、生産緑地の背景と2022年問題の可能性が低い理由を詳しく解説します。

目次

  1. 生産緑地はどんな制度?生産緑地の多いエリアは?
  2. 「不動産の2022年問題」の可能性は低いと考えられる2つの理由
  3. 不動産投資家は「不動産の2022年問題」のここに注目すべき
    1. 生産緑地延長の申請割合が低い自治体もある
    2. 生産緑地の延長期間は10年間である
  4. 「生産緑地は郊外に多い」これも見逃せない点
  5. 「不動産の2022年問題」に関するよくある質問
    1. Q.「不動産の2022年問題」とは?
    2. Q. 不動産投資家が「不動産の2022年問題」で注目すべきポイントは?

生産緑地はどんな制度?生産緑地の多いエリアは?

はじめに「生産緑地」と「不動産の2022年問題」の概要を整理しましょう。生産緑地とは、30年間にわたって所有している土地で農作物をつくる代わりに「固定資産税」「相続税」が優遇される制度です。具体的には、 固定資産税の評価額が宅地よりも低くなり(納める固定資産税が下がる)、相続税の納付が猶予されます。

これは、生産緑地だからこそのメリットです。国や自治体が生産緑地の制度を行う背景には「都市環境や生活環境を守ること」「公害や災害の防止」などの目的があります。生産緑地の広さは、どれくらいあるのでしょうか。国土交通省の資料によると2020年時点で生産緑地は、全国に約1万2,034ヘクタールあります。

首都圏1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で約57%です。首都圏では、都市空間の近くに農地が広がる光景がよく見られます。しかしこれは生産緑地地区があるからなのです。生産緑地は、エリアによって面積にバラツキがあります。例えば東京23区の生産緑地は、全体395.64ヘクタールのうち175.54ヘクタール(約44.4%)が練馬区です。

一方、同じ東京23区でも北区は0.3ヘクタール(0.08%)にとどまるなど生産緑地がほとんどないエリアもあります。(参照:東京都都市整備局「生産緑地地区一覧」2021年4月1日現在)生産緑地の79%は、1992年から指定を受けているものです。(下記の表参照)30年後の2022年に大量の土地が生産緑地から解除される可能性があるため、地価暴落が起こるリスクが懸念されています。

これがいわゆる「不動産の2022年問題」です。

「不動産の2022年問題」の可能性は低いと考えられる2つの理由

現実的には、以下の2つの理由から「不動産の2022年問題」の可能性は低いでしょう。

・買取りの申出があるため
指定後30年経過した生産緑地には「買取りの申出」という仕組みがあります。よくある勘違いは「30年経った生産緑地がそのまま売地として不動産マーケットに大量に流れ込むのではないか」という懸念です。しかし実際は「買取りの申出」の仕組みがあるため、それが拒否された場合も農林漁業者へのあっせんが行われます。

これが不調に終わった場合のみ行為制限解除が行われるため、(下記のフロー参照)生産緑地のすべてが不動産マーケットへ一気に流れ込むわけではありません。

・特定生産緑地制度があるため
2018年4月から「特定生産緑地制度」がつくられたことも理由の一つです。同制度によって対象地区は、生産緑地を10年間延長できることになりました。つまり同制度を利用して生産緑地を延長する割合が高ければ「不動産の2022年問題」の可能性は低く逆に選択する割合が少なければ懸念材料になりえるといえます。

実際に生産緑地を10年間延長する割合は、どれくらいでしょうか。日本経済新聞社が行った調査結果が参考になります。同調査では、1都3県それぞれから生産緑地の面積が広い上位5自治体を抽出し(4都県×5自治体)計20自治体の特定生産緑地制度の申請状況をまとめたものです。

生産緑地の面積の広い1都3県の自治体

東京都練馬区
立川市
町田市
八王子市
清瀬市
神奈川県横浜市
川崎市
秦野市
相模原市
藤沢市
埼玉県さいたま市
川口市
川越市
上尾市
新座市
千葉県市川市
船橋市
松戸市
柏市
千葉市

※日本経済新聞社(2021年5月19日付け)調べ

同調査結果では、2021年11月末時点で20自治体の生産緑地の85%(面積ベース)で10年間の延長申請がされています。同年12月末までの申請分や一部自治体では、2022年に入っても申請受付を継続しているため、さらなる上積みが見込めるでしょう。生産緑地の延長は「住宅地として人気のあるエリアは土地が高く処分しやすいため、申請率が低くなるのではないか」との見方もありました。

しかし実際には、住みたい自治体ランキングで上位の千葉県柏市(30位)が申請率100%、埼玉県川口市(35位)が申請率78%の高い割合となっています。
※SUUMO住みたい自治体ランキング2021(関東)

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不動産投資家は「不動産の2022年問題」のここに注目すべき

ここまで紹介してきた内容で「不動産の2022年問題」の可能性が低いことは、理解できたのではないでしょうか。しかし投資家が生産緑地の動向を無視してよいわけではありません。以下の2つの観点から着目していくことが必要です。

生産緑地延長の申請割合が低い自治体もある

前出の日本経済新聞社の調査結果が示すように生産緑地の多くは、10年間延長が申請されています。一方、2021年11月末時点での申請率が60%にとどまる相模原市のように申請率が低い自治体の場合、生産緑地が解除される土地が出てくる可能性も否定できません。ただ延長申請率の低い自治体では「申請期間を2022年3月まで延長」「未申請者に注意喚起のお知らせを送る」などの対策をとっています。

最終的に多くの自治体で生産緑地を延長する割合が高くなる可能性もあるでしょう。

生産緑地の延長期間は10年間である

特定生産緑地制度の延長期間は10年間です。同制度で今回は「不動産の2022年問題」が回避される公算が高いですが10年後に「2032年問題」が起こる可能性はないのでしょうか。これについては、特定生産緑地制度に「10年経過する前であれば改めて所有者等の同意を得て繰り返しの延長ができる」との文言もあります。

そのため2032年になった途端に解除される土地がたくさん出る可能性は低いでしょう。「買取りは負担になるので拒否する自治体も出てくるのでは?」という意見もあるかもしれません。しかし生産緑地には、都市の環境保全や災害時の避難所の役割もあります。これらを考慮すると自治体の買取り拒否で生産緑地だった空き地や売り地が急増する可能性は低いでしょう。

もしそのようなことが現実的に起こる場合は、首都圏の人口が急減して生産緑地がその役割を終えたときかもしれません。

「生産緑地は郊外に多い」これも見逃せない点

ここでは「不動産の2022年問題」が地価暴落のきっかけになる可能性について考察してきました。 結論からいえば以下の理由から「2022年問題」の可能性は低いです。

  • 指定30年後の生産緑地には「買取りの申出」の仕組みがある
  • 生産緑地を10年間(繰り返し)延長できる制度ができた
  • 延長制度の申請割合が高い自治体が多い

そもそも生産緑地に指定されている土地は郊外が多い(好立地が少ない)ため、仮にこれらの土地が不動産マーケットに流れても「影響は限定的ではないか」との見方もあります。これらを総合的に勘案すると生産緑地の解除をきっかけに地価暴落が起こる可能性は低いといえるのではないでしょうか。仮に2022年に地価暴落が起きても別の原因でしょう。

一方、生産緑地の10年間延長の申請率が極端に低い自治体では、エリア限定で影響のある可能性も否定できません。心配な場合は、自治体の担当課などに「延長状況はどうか」を問い合わせてみるのがよいでしょう。

「不動産の2022年問題」に関するよくある質問

Q.「不動産の2022年問題」とは?

首都圏1都3県で「生産緑地」と呼ばれる30年間にわたって所有している土地で農作物をつくる代わりに「固定資産税」「相続税」が優遇される制度が、2022年に大量の土地が生産緑地から解除される可能性があり、地価暴落が起こるリスクがある問題のことです。

Q. 不動産投資家が「不動産の2022年問題」で注目すべきポイントは?

生産緑地の延長を申請する割合が低い自治体もある点や生産緑地の延長期間は10年間である点、生産緑地は郊外に多い点などに注目です。