富裕層の節税封じ?「贈与税と相続税の一体化」とは何か
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鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

「相続税と贈与税の一体化」が注目されています。実際、このテーマを取り上げるメディアが2021年に入ってから急激に増えました。専門家の間でも議論の対象となっています。今回は、相続税と贈与税の一体化の内容と将来の見通しについて解説します。

税制改正で相続税・贈与税の一体化を示唆

2020年12月10日、2021年度税制改正大綱が自民・公明両党から発表されました。この中で目を引いたのが「基本的な考え方」にある次の一文です。

諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により…(中略)…意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている

相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、…(中略)…格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める

出典:令和3年度税制改正大綱

つまり国は「今後、相続税・贈与税の一体化を行う予定である」と言っているのです。ただこのように一体化課税に触れたのは今回が初めてではありません。2019年度税制改正や2020年度税制改正でも言及していました。「毎回の税制改正で言及している」ということは、実現する可能性がかなり高いことを意味します。

このことを受け富裕層を顧客とする一部の税理士は、今後の動向を予測し対策を検討しています。

相続税・贈与税の一体化とは何か

相続税・贈与税の一体化とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。ここで確認してみましょう。

生前贈与財産にも相続税を課税すること

相続税・贈与税の一体化とは「贈与税の対象となった贈与財産に相続税も課す」ということを意味します。現行の税制では、一部を除き生前に贈与した財産には相続税がかからない代わりに贈与税がかかる仕組みです。たいていの贈与は「毎年1月1日~12月31日までの1年間にもらった財産の総額」に課税する暦年課税制度の対象となります。

ここで高い税率の贈与税を課税することで「亡くなったときに引き継いだ財産にしか課税できない」相続税の欠陥を補い課税逃れを防止しているのです。

一体化の目的は「暦年課税制度を利用した節税封じ」

「1年間にいくら贈与しても110万円までは非課税になる」という暦年課税制度にも欠陥があります。暦年課税制度は110万円という基礎控除額があるため、課税されるのは「贈与された金額の累計-110万円」に過ぎません。また基礎控除は、毎年適用されることから見方を変えると「110万円以下の贈与を長期間にわたって毎年繰り返した場合、贈与税を回避できてしまう」といえます。

「こういった制度の欠陥を逆手に取った節税を封じたい」のが国の本音です。そのため相続税と贈与税の一体化課税の先行国であるアメリカ、ドイツ、フランスを参考に税制改正を検討しています。

現行の相続税・贈与税の一体化課税制度

日本の相続税法にもすでに相続税と贈与税を一体化した以下の2つの課税制度があります。

生前贈与加算

生前贈与加算とは「暦年課税制度の対象となった贈与財産のうち贈与者の死亡日以前3年間に相続人や受遺者がもらった財産については、相続財産に加える」という制度です。自分の死を予期した贈与で相続税を逃れるのを防止するのが目的とされています。この制度により「死亡直前に110万円以下で贈与をしても相続税の対象となってしまう」というわけです。

なお死亡日以前3年間の贈与で納付した贈与税は、納付すべき相続税から差し引けます。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは「20歳以上の人が60歳以上の直系尊属からもらった財産はすべて相続税の対象」とする制度です。2003年1月1日から施行されました。適用するには「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要となります。この届出書をいったん出すと贈与者・受贈者として記載された間柄での贈与は、すべて相続財産に持ち戻さなくてはなりません。

「累計2,500万円まで贈与税は非課税」というメリットがありますが、最終的にはすべて相続税の対象となってしまいます。

将来の相続税・贈与税の一体化の見通しは

2018年の相続税と贈与税に関する財務省の資料には、欧米の相続税・贈与税の一体化課税の現状を示したうえで「日本の生前贈与加算の対象期間は3年となっている。ドイツやフランスに比べて短い」としています。こういったことを踏まえると、暦年課税制度の生前贈与加算期間が「現行の3年」から「5年」「10年」などと長く引き延ばされる可能性が予測できるのです。

一部のメディアでは「暦年課税制度を廃止し相続時精算課税制度に一本化するのでは」とも予測していますがこれは社会を混乱させる恐れがあります。国民にストレスを与えず一体化課税を実現していくなら現行の制度を少しずつ変えることがベストです。実際、消費税もいきなり税率10%で導入されたわけではなく導入当初は3%でした。

それが5%、8%、10%と時間をかけて引き上げられていったのです。

富裕層が今からできる相続対策

相続税・贈与税の一体化課税が税制に反映されるのは、早ければ2022年度か2023年度の税制改正ともいわれています。2021年時点で猶予があと1年か2年しかないため、できることはそう多くはありません。しかしその中でも以下の3つは、検討してもよいのではないでしょうか。

  1. 現行の贈与税の制度で移転できる分は移転しておく
  2. 他の贈与税における非課税制度の対象となる財産を分析する
  3. 「贈与すべき財産」「相続すべき財産」を区別する

特に注意したいのが3です。「相続税対策=生前贈与」と見られがちですが、むしろ相続を選んだほうがいい財産もあります。例えば投資用不動産です。生前贈与すると不動産取得税がかかるだけでなく使える節税策はほとんどありません。しかし相続を選べば不動産取得税は非課税になるほか小規模宅地等の特例で評価額を下げることができます。

ただこういった相続税の見極めを一人で行うのは非常に大変です。必要に応じて税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

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