不動産所得での節税に欠かせない必要経費の知識
(画像=Africa Studio/Shutterstock.com)
丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

不動産所得を節税するためには「必要経費とは何か」をきちんと把握する必要があります。なぜなら必要経費をきちんと計上することによって利益を圧縮できるからです。本稿では、必要経費の概要と不動産の保有・売却で発生する必要経費について、経費になるものとならないものを解説しつつ節税や減価償却の方法も紹介します。

目次

  1. 1.「必要経費」の概要と不動産所得にかかる税金
    1. 1-1.必要経費とは
    2. 1-2.必要経費になる税金
    3. 1-3.必要経費にならない税金
  2. 2.不動産所得の必要経費にできる費用
    1. 2-1.ローンの支払利息
    2. 2-2.保険料
    3. 2-3.管理会社への管理委託料
    4. 2-4.管理費
    5. 2-5. 仲介手数料、広告宣伝費
    6. 2-6.修繕費
    7. 2-7.租税公課
    8. 2-8.司法書士や税理士への報酬
    9. 2-9.通信費
    10. 2-10.旅費・交通費
    11. 2-11.自動車関連費用
    12. 2-12.情報収集・新聞図書費
    13. 2-13.交際費
    14. 2-14.減価償却費
    15. 2-15.消耗品費
  3. 3.不動産所得の必要経費にできない費用
    1. 3-1.ファッションアイテム
    2. 3-2.会費(個人事業主の場合)
    3. 3-3.反則金・罰金
    4. 3-4.所得税・住民税・法人税
    5. 3-5.資格取得費用
    6. 3-6.家族への給与(業務的規模の場合)
  4. 4.必要経費計上による不動産所得の節税
    1. 4-1.節税の基本的な考え方
    2. 4-2.不動産所得における具体的な4つの節税例
    3. 4-3.節税対策時の注意点
  5. 5.不動産投資における減価償却の計算方法
  6. 6.まとめ
  7. 7.不動産所得の節税に関するよくある質問
    1. 7-1.Q.必要経費とは?
    2. 7-2.Q.必要経費になる2つの税金とは?
    3. 7-3.Q.必要経費にならない3つの税金とは?
    4. 7-4.Q.必要経費にできない3つの費用とは?
    5. 7-5.Q.必要経費計上による不動産所得の節税方法とは?

1.「必要経費」の概要と不動産所得にかかる税金

不動産所得,節税,必要経費
(画像=Atstock Productions/Shutterstock.com)

はじめに必要経費の概要と必要になる税金、ならない税金について確認しておきましょう。

1-1.必要経費とは

必要経費とは、所得税法上で収入を得るために必要な経費のことです。10種類ある所得の種類のうち事業所得、不動産所得、山林所得、雑所得を計算する際に計上します。個人所得の場合は家事のために消費した分は除外し、事業に要した分のみを案分して計上しなければなりません。

また必要経費は単年で処理するものと、減価償却費のように耐用年数に合わせ複数年で処理するものがあります。

国税庁が示した「必要経費に算入できる金額」は次の2点です。

・総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
・その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額

1-2.必要経費になる税金

税金は、必要経費になるものとならないものがあります。例えば、固定資産税や都市計画税のように不動産を保有していることでかかる税金は、必要経費として算入可能です。他にも必要経費になる税金として、以下のようなものが挙げられます。

  • 事業税
  • 事業所税
  • 消費税(税込経理の場合)
  • 印紙税
  • 登録免許税
  • 自動車税など

1-3.必要経費にならない税金

一方で所得税と住民税、法人税は必要経費となりません。所得税については、所得税法第45条で「所得税や住民税(道府県民税、市町村民税、都民税、特別区民税等)は必要経費に算入しない」と定められています。

また法人税については、法人税法第38条で「内国法人も各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入しない」と定められています。

2.不動産所得の必要経費にできる費用

不動産所得,節税,必要経費
(画像=ChristianChan/Shutterstock.com)

不動産投資で少しでも多く利益を上げるには、経費にできる費用をできるかぎり必要経費として計上することが大切です。しかし、内容によっては必要経費になるのか迷うものもあるのではないでしょうか。ここからは、必要経費にできる費用とできない費用の具体例を確認してみましょう。

2-1.ローンの支払利息

賃貸用物件の購入のために銀行から融資を受けた場合、毎月のローン返済は元本と利息を払うことが必要です。ローンの元本は、必要経費となりませんが利息は「支払利息」として経費になります。元金部分と利息部分の内訳については、ローン会社から定期的に送付される返済表に記載されているため、利息部分のみを経費として計上しましょう。

ただし不動産事業開始前に支払った利息については、経費にならないので注意が必要です。

2-2.保険料

不動産投資を行う場合、火災保険は必須です。オーナーによっては、火災保険だけでなく地震保険に加入することもあるでしょう。これらの保険料は、どちらも必要経費となります。近年は、高齢化社会の進展により孤独死保険に加入するオーナーも増えてきていますが、同様に必要経費として計上可能です。

また、入居者や通行人などに損害を与えた場合に備える「施設賠償責任保険」や災害などによる家賃収入の損失を補償する「家賃補償保険」も経費の対象となります。

2-3.管理会社への管理委託料

物件管理を不動産管理会社に委託した場合、管理委託料を必要経費として算入できます。委託管理料の相場は、家賃の5%前後が目安です。金額については、送付される明細表を確認するほか確定申告に向けた資料を作成してくれる管理会社もあるため、契約時に確認するとよいでしょう。

2-4.管理費

区分所有マンションを購入すると毎月管理費と修繕積立金を負担する必要があります。賃貸物件の管理会社に支払う管理費・修繕積立金などは、経費へ参入可能です。管理費とは、共用部分の清掃や設備の保守・点検などにかかる費用のことを指します。なお、建物の管理会社は、所有する部屋の管理を委託した管理会社とは異なる場合があるため、注意しましょう。

2-5. 仲介手数料、広告宣伝費

不動産仲介会社に支払う仲介手数料や広告宣伝費は、必要経費となります。例えば、入居者募集で不動産管理会社などに支払った費用は広告宣伝費です。仲介手数料は、売買する場合と賃貸を仲介してもらう場合で基準が異なるため、混同しないようにしましょう。

2-6.修繕費

不動産は、時間の経過や使用の度合いに応じて老朽化します。部屋のクリーニングや壁紙の貼り直し、給湯器やエアコンの交換といった修繕費は必要経費に計上可能です。また、大規模修繕に備えて支払う修繕積立金も修繕費として必要経費になります

ただし、修繕費として認められるものはあくまでも「原状回復程度に収まるもの」のみです。その修繕により価値が向上した場合には、必要経費ではなく資産として計上する必要があります。(減価償却費の対象)

2-7.租税公課

物件を保有しているとかかる固定資産税と都市計画税も、租税公課という勘定科目で経費計上することができます。

(1)固定資産税

毎年1月1日現在の土地・建物所有者に対し市区町村が課税する地方税です。課税額は固定資産税評価額を標準として1.4%(自治体によって異なる)を乗じることで計算され、支払いは年一括または年4回分納から選択できます。

(2)都市計画税

都市計画区域内にある土地・建物所有者が固定資産税と一括して納税する税金で、最高限度0.3%の範囲内で課税されます。なお、中古住宅で年の途中で所有者が変わった場合は、固定資産税・都市計画税を売り主と買い主が所有期間により按分して負担するのが一般的です。

2-8.司法書士や税理士への報酬

不動産オーナーの中には、登記手続きを司法書士に依頼したり確定申告業務や帳簿付けなどを税理士に依頼したりする人もいるでしょう。これら専門家に対する報酬は、必要経費となります。司法書士の報酬は、地域や司法書士ごとに異なるため、司法書士連合会が公表している「報酬に関するアンケート」で地域別の平均報酬額を確認すると相場の参考になるでしょう。

税理士の場合は、顧問料(月額)、記帳代行(月額)、決算申告(年額)などの費用を売上規模や訪問頻度などに応じて支払います。法人と個人事業主では、金額の水準が異なるのが特徴です。

2-9.通信費

不動産事業に関する電話やインターネット、メールなどの通信費も経費となります。しかし自宅で使用している場合は、個人使用分と事業用使用分を按分して計上することが必要です。プロバイダーに支払う料金だけでなく、事業で使用するソフトやアプリの購入費用も必要経費となるため、もれがないように計上しましょう。

2-10.旅費・交通費

物件の視察や不動産セミナーへ参加するための交通費なども経費として計上できます。ただし不動産業に関係ない交通費や出張費は、経費となりません。旅費・交通費になるのは、公共交通機関の運賃だけでなくホテル・旅館の宿泊費や車で出かけた場合のガソリン代、高速道路料金、駐車料金など多岐にわたります。

2-11.自動車関連費用

自動車関連費用は、幅広く経費として認められています。経費になる主な費用は、自動車の購入費用や車検などのメンテナンス費用、自動車税、保険料、レッカー代などです。自家用車を不動産業務と併用する場合は、通信費と同様に家事案分して計上する必要があります。

2-12.情報収集・新聞図書費

不動産投資を成功に導くには、日ごろの情報収集や勉強が欠かせません。学習する際に不動産業に関する専門新聞や雑誌、書籍を購入した際も経費として計上可能です。不動産セミナーへの参加費や不動産コンサルティングを受ける費用も経費となります。

2-13.交際費

交際費とは「得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」(国税庁見解)をいいます。

具体的には、不動産管理会社や税理士などの関係者と打ち合わせをする際の喫茶代、飲食代などです。不動産業に関係ないものは接待交際費として国税庁から認定されない可能性があるため注意しましょう。

ケース別の詳細は国税庁ホームページ「交際費等の範囲」に例示されているので参考にするとよいでしょう。

2-14.減価償却費

不動産(建物・設備など)は、年々老朽化します。その老朽化を数値にして必要経費としたのが「減価償却費」です。減価償却費は、建物の構造や素材などにより税法で決められた耐用年数で計算します。

物件構造別の法定耐用年数は、例えば木造アパートなら22年、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のマンションは47年です。

建物や車両、工具、備品など耐用年数の詳細は国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」に記載されています。土地は、同じ不動産でも減価償却することができません。なぜなら建物のように劣化することがなく耐用年数がないからです。

2-15.消耗品費

消耗品費として計上できるものは多岐にわたります。不動産事業でよく使われるパソコンやプリンター、デジタルカメラなども消耗品費として計上可能です。消耗品費として計上できるのは、使用可能期間が1年未満もしくは取得価額が10万円未満の什器備品で10万円以上の品は備品・器具備品に勘定科目が変わります。

消耗品は、文房具など細かいものも多いため、購入した際は必ず領収書を保管しておくようにしましょう。

3.不動産所得の必要経費にできない費用

不動産所得の計算においては「必要経費となるもの」だけではなく「必要経費とならないもの」もしっかりおさえておく必要があります。なぜなら、必要経費とならないものを経費計上すると税務署から指摘を受け、経費として認定されず修正申告が必要になる場合があるからです。

3-1.ファッションアイテム

スーツやビジネスバッグなどを購入した費用は、たとえ使途を不動産事業のために限定したとしても経費として認められません。これはメガネやコンタクトレンズも同様で、いずれもファッションアイテムとみなされる可能性が高いからです。ファッションアイテムは、日常的に使うものなので経費にすることは難しいと考えたほうがよいでしょう。

3-2.会費(個人事業主の場合)

健康維持のためにトレーニングジムに通うオーナーもいるでしょう。個人事業主の場合、ジムの会費を経費にすることはできません。なぜなら個人事業主には、福利厚生費が認められていないからです。法人の場合は、家族以外の従業員がいれば福利厚生費として認められる場合があります。

3-3.反則金・罰金

車で物件視察をした際に駐車違反をしてしまった場合のレッカー代金は、経費となります。しかし反則金・罰金については、経費として計上できません。物件を視察する前に周辺駐車場の有無を確認して、必ず駐車場に停めるようにしましょう。

3-4.所得税・住民税・法人税

税金のうち利益に対して納める以下の3つは、必要経費として認められていません。

(1)所得税

不動産賃貸で利益が出た場合は、「不動産所得」として給料など他の所得と合算して総合課税されます。家賃収入から経費を差し引いたものが所得です。そのため経費のほうが多ければ赤字となります。副業として行っている場合は、給与所得から赤字分を差し引く損益通算が可能です。

(2)住民税

住民税は確定申告の結果によって「所得割額」と「均等割額」を合算したものが納税額となります。所得割額の税率は、原則として市区町村民税が6%、都道府県民税が4%の合計10%です。均等割り額は2014~2023年度まで市区町村民税が3,500円、都道府県民税が1,500円の合計5,000円ですが、そのうち各500円は復興財源確保のために期間限定で加算されるものです。

(3)法人税

会社組織にしている場合に支払う法人税も必要経費となりません。法人税は、所得税と同じく利益に対してかかる税金です。法人税を経費として認めるとその分利益が減ることになり本来納税者が納めるべき税金が少なくなるため、経費計上ができません。

3-5.資格取得費用

資格取得費用は、経費計上できません。なぜなら個人の資格取得が特定の人に引き継ぐことができない、その個人だけの資格・権利にあたる「一身専属権」に該当するからです。その人が死亡した場合、資格は自動的に消滅するため、他の人が利用できません。そのため個人の資格取得費用は、自己負担が原則です。

ただし、経営者が従業員に業務上必要な資格を取得させるために支払う研修会や講習会の参加費用などは、経費として認められる場合があります。

3-6.家族への給与(業務的規模の場合)

業務的規模の場合、家族に手伝ってもらっていても給与を経費にすることはできません。保有する不動産がアパート・マンションでおおむね10室以上、一戸建てでおおむね5棟以上、駐車場で50台以上の「5棟10室」基準を満たした事業的規模の場合は、家族への給料を必要経費に計上できます。

青色申告で事業的規模の場合は、青色事業専従者給与として家族に経費として給与を支払うことができるので大変有利です。ただし家族に支払う給与の金額は、都道府県の最低時給など常識的な範囲で計上する必要があります。

関連記事

  • 不動産投資で所得税・相続税を節税する際の6つのリスク

    不動産投資は確かに節税になりますが、節税だけを目的に始めると、損をしてしまう可能性があります。今回は、不動産投資で所得税・相続税を節税したいと考えている人に向けて、6つの税務リスクについて解説していきます。


4.必要経費計上による不動産所得の節税

不動産所得,節税,必要経費
(画像=kenary820/Shutterstock.com)

ここからは、必要経費を計上することによって不動産所得を節税する方法について見ていきましょう。

4-1.節税の基本的な考え方

不動産賃貸経営において利益が出た際に、さまざまな必要経費を計上して不動産所得を少なくするのが節税の基本です。例えば、必要経費の計上で不動産所得が赤字になれば給与所得者なら給与所得と損益通算ができます。給与所得者は、すでに給与から所得税が差し引かれているため、確定申告することで税金の還付を受けることができ結果的に節税となるのです。

また、事業的規模か業務的規模かによっても節税できる金額が違ってきます。事業的規模にすると家族への給与を経費にできるなどさまざまな優遇措置を受けることできるため、資金があれば事業的規模で行うのが理想です。おおむね10室以上の一棟マンションやアパートを持てば事業的規模でスタートできます。

しかし区分所有で始める場合でも青色申告を利用することで白色申告よりは節税になります。ただし、不動産投資は長期的に安定した収益を得ることが目的ですので節税を目的に経営するのは本末転倒です。黒字が出る順調な経営を目指したうえで適切な節税を行いましょう。

4-2.不動産所得における具体的な4つの節税例

節税の基本的な考え方を踏まえて具体的に節税になる例を見てみます。

(例1)

不動産賃貸で収入よりも経費のほうが多かった場合は、確定申告で総所得から「損益通算」により赤字分が差し引かれます。会社員の場合は、給与から所得税が天引きされているため、総合課税により赤字分を差し引くことで所得税・住民税を節税できます。

(例2)

減価償却費は必要経費の中でも大きな節税効果があります。建物や設備の法定耐用年数が終わるまで毎年経費として計上可能です。現金の支出を伴わないため、お金を使わずに節税できる点がメリットといえます。経費として損益計算書に記載した金額が手元に残るため、「自己金融機能」と呼ばれています。

(例3)

先述した事業用規模にすることで青色申告を利用すれば65万円の基礎控除を受けることができます(事業用規模以外は10万円)。他にも家族に専従者給与を払えるなどの特典があり可能であれば利用したほうがよいでしょう。

ただし2020年度から青色申告はe-Taxで電子申告するという条件を満たさないと65万円満額の基礎控除は使えなくなっているため、注意が必要です。

参考:「令和2年分の所得税確定申告から青色申告特別控除額・基礎控除額が変わります‼️

(例4)

「小規模企業共済」に加入すると最高月7万円までの掛け金を所得から控除できます。また「個人年金」に加入すると年間保険料によって異なりますが所得税で上限4万円、住民税で上限2万8,000円までそれぞれに全額所得から控除可能です。

4-3.節税対策時の注意点

節税対策をするうえで注意しなければいけないのは、必要経費として計上できるものとできないものをしっかり把握することです。もし経費にできないものを計上すると確定申告の際に税務署から否認される可能性があります。

また、減価償却費の計上方法においては建物や設備によって法定耐用年数が決まっているため、品目ごとの耐用年数を間違わずに計上することが大事です。

5.不動産投資における減価償却の計算方法

不動産投資で購入した物件は、法定耐用年数に合わせて減価償却することが可能です。アパート・マンションを減価償却する場合、土地部分は減価償却できないため、建物部分の価格のみ減価償却します。例えば、マンションならば多くが鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造となり、新築の法定耐用年数は47年、アパートの多くは木造なので法定耐用年数は22年です。

建物・建物付属設備の減価償却の方法には、定額法と定率法の2つがあります。しかし複雑な計算が必要だった定率法は平成28年度税制改正で廃止されました。そのため平成28年4月1日以降に購入またはこれから購入する物件は簡単な定額法のみとなっています。わかりやすくなった半面、定率法を使った節税ができなくなる点はデメリットです。

中古アパートを例にすると減価償却費は、以下のような方法で計算します。中古アパートの会計上の法定耐用年数は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」で算出可能です。(端数が出た場合は切り捨て)例えば、築15年の木造アパートの場合は「(22年-15年)+15年×0.2=10年」となります。具体的な償却の流れは、下表の通りです。

【アパートの減価償却計算例】
定額法、中古アパート、物件価格5,000万円、建物価格3,000万円、会計上の耐用年数10年の場合

建物価格3,000万円
定額法 償却率0.1
経過年数償却額償却累積額未償却残高
1年目300万円300万円2,700万円
2年目300万円600万円2,400万円
3年目300万円900万円2,100万円
4年目300万円1,200万円1,800万円
5年目300万円1,500万円1,500万円
6年目300万円1,800万円1,200万円
7年目300万円2,100万円900万円
8年目300万円2,400万円600万円
9年目300万円2,700万円300万円
10年目299万9,999円2,999万9,999円1円

建物価格3,000万円を10年で償却するため「3,000万円×償却率0.1=300万円」で毎年300万円ずつ減価償却費として計上します。1年目は、300万円を償却するため未償却残高は2,700万円(3,000万円-300万円)です。2年目以降も毎年300万円ずつ償却するため、300万円ずつ残存価値が減少していきます。

ただし最終年は0にはなりません。0にすると保有物件が存在しないことになってしまうため、残存簿価として1円だけ残します。定率法は、上表の未償却残高に償却率を掛けて償却額を計算する方法のため、開業当初は償却額が多く年数経過に伴い減っていくのが大きな特徴です。

そのため開業当初数年間に経費を多く計上したい場合に有効な方法といえます。現在でも機械装置・車両運搬具・機器備品では利用が可能です。

6.まとめ

  • 収入が不動産所得のみで赤字であれば所得税は発生しない
  • 給与所得がある場合は不動産所得の赤字分を損益通算で差し引くことができる
  • 不動産投資は長く安定した収入を得るために行うものなので節税のために赤字にすることを目的にするのは本末転倒。健全経営のうえで節税を考える

節税するためには、減価償却費をはじめ必要経費にできるものはきちんと計上しましょう。その場合、経費にできないものとの区別を確認することが大事です。以上の点に注意しながら節税にも取り組み、早期に黒字経営できる状態を目指しましょう。

7.不動産所得の節税に関するよくある質問

最後に不動産所得の節税に関するよくある質問をまとめておきます。

7-1.Q.必要経費とは?

必要経費とは、所得税法上で収入を得るために必要な経費のことです。10種類ある所得の種類のうち事業所得、不動産所得、山林所得、雑所得を計算する際に計上します。

7-2.Q.必要経費になる2つの税金とは?

(1)固定資産税 毎年1月1日現在の土地・建物所有者に対し市区町村が課税する地方税です。課税額は固定資産税評価額を標準として1.4%(自治体によって異なる)を乗じることで計算され、支払いは年一括または年4回分納から選択できます。
(2)都市計画税 都市計画区域内にある土地・建物所有者が固定資産税と一括して納税する税金で最高限度0.3%の範囲内で課税されます。

7-3.Q.必要経費にならない3つの税金とは?

(1)所得税

不動産賃貸で利益が出た場合は、「不動産所得」として給料など他の所得と合算して総合課税されます。家賃収入から経費を差し引いたものが所得です。そのため経費のほうが多ければ赤字となります。副業として行っている場合は、給与所得から赤字分を差し引く損益通算が可能です。

(2)住民税

住民税は確定申告の結果によって「所得割額」と「均等割額」を合算したものが納税額となります。所得割額の税率は、原則として市区町村民税が6%、都道府県民税が4%の合計10%です。均等割り額は2014~2023年度まで市区町村民税が3,500円、都道府県民税が1,500円の合計5,000円ですが、そのうち各500円は復興財源確保のために期間限定で加算されるものです。

(3)法人税

会社組織にしている場合に支払う法人税も必要経費になりません。なぜなら法人税は、所得税と同じく利益に対してかかる税金です。法人税を経費として認めるとその分利益が減ってしまいます。本来納税者が納めるべき税金が少なくなってしまうため、経費として計上することができないのです。

7-4.Q.必要経費にできない3つの費用とは?

(1)所得税・住民税・法人税
上記のように、所得税・住民税・法人税の3つの税金は必要経費になりません。

(2)個人的な支出
ファッションアイテムや資格取得費用など個人的な支出は必要経費になりません。

(3)家族への給与(業務的規模の場合)
業務的規模の場合は、家族に支払う給与を経費にすることはできません。

7-5.Q.必要経費計上による不動産所得の節税方法とは?

不動産賃貸経営において利益が出た際に、さまざまな必要経費を計上して不動産所得を少なくできます。主な節税方法は以下の通りです。

  • 必要経費の計上によって不動産所得を赤字にし、他の所得と損益通算することで税金の還付を受ける
  • 不動産経営はなるべく税の優遇を受けられる事業的規模(5棟または10室以上)にする
  • 確定申告の際は青色申告を選択する
  • 青色申告する場合は65万円の特別控除を受けるためにe-Tax(電子申告)を利用する
  • 不動産に関する保険は経費になるので、必要な保険になるべく加入する

以前は、節税方法の一つと考えられていた建物・建物付属設備における減価償却の定率法は、現在廃止されているので使用しないように注意が必要です。ただし機器装置・車両運搬具・機器備品については利用できるため、必要な場合は選択するとよいでしょう。

>>【無料小冊子】税を理解して賢い投資家になろう - 税金一覧と節税方法を解説

【あなたにオススメ】
不動産投資で押さえておくべき減価償却費の計算と3つの節税方法
賃貸不動産の税制改正①:金地金還付スキームの封じ込め
賃貸不動産の税制改正②:海外不動産による節税が困難に
賃貸不動産の税制改正③:国外財産調書制度の厳格化
相続はプロにおまかせ!税理士を選ぶときの4つのポイント