価格下落時期,相続時精算課税制度
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鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

コロナ禍以降、不動産の価格下落の可能性とともに相続時精算課税制度の活用に着目する不動産オーナーが増えている傾向です。今回は、相続時精算課税制度のメリット・デメリットについて解説します。

コロナ禍での節税対策で相続時精算課税制度が見直される

相続時精算課税制度は2021年時点で創設19年目となる制度ですが使い方が難しいからかこれまであまり活用されませんでした。しかし2021年に入り節税策の一つとして再び注目を集めています。なぜなら経済の落ち込みで路線価が下がる可能性が出てきたからです。2020年7月の国税庁により公表された路線価は、思いのほか下がりませんでした。

路線価は、その年の1月1日時点での状況を反映するものですが2020年2月以降に広がったコロナ禍の影響は評価に織り込まれなかったのです。「コロナ禍なのに路線価が高い」「節税できない」とため息をついた資産かも多いのではないでしょうか。しかし2021年1月26日に国税庁は「大阪の心斎橋や宗右衛門町、道頓堀といった一部の地域の路線価を下方修正する」と発表。

2020年1~9月までの間、このエリアの地価が20%以上下落したことが下方修正の原因です。そのため今後他のエリアでも同様に路線価の下方修正が行われるかもしれません。路線価が低くなれば資産価値が下がるため、生前贈与の活用で節税しやすくなります。生前贈与でもとりわけ相続時精算課税制度は、効果の高い節税策の一つと見られているのです。

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度を使って賃貸物件を贈与するとどんなメリットがあるのでしょうか。ここで確認しましょう。

2,500万円まで贈与税が非課税

相続時精算課税制度を活用すると2,500万円まで財産を贈与しても贈与税がかかりません。通常2,000万円の財産を贈与すると50%の税率で贈与税がかかります。しかしこの制度の適用を受ける場合は、2,500万円以内となるため贈与税は0円です。

時価が「贈与時<相続時」なら節税に

相続時精算課税制度を使って贈与した財産は、相続財産に持ち戻されます。つまり生前贈与をした財産でも相続税の対象になるのです。「それなら生前贈与をしても意味がないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。しかしこの制度で贈与をした相続税の課税基準となる評価額は、相続時の時価ではなく生前贈与をしたときの時価となります。

つまり将来値上がりが確実な財産に適用すれば「相続時の時価-贈与時の時価」の分だけ節税が期待できるのです。

含み益を含めて節税が可能

親から子どもへ引き継ぐ財産がアパートやマンションといった賃貸物件だと今後の家賃収入といった含み益の問題があります。相続税の対象は、賃貸物件だけではありません。そこから生じた家賃が累積した現預金にも課税されます。しかし相続時精算課税制度を使って贈与をすればこういった含み益への課税を避けることが可能です。

収益力のある物件ほど生前贈与をしたほうが節税効果は高いといえます。

相続時精算課税制度のデメリット

一方、この制度には、以下のようなデメリットもあります。

家賃収入も移転するので生活不安の恐れ

賃貸物件を生前贈与してしまうと当然今まで受け取っていた家賃収入が贈与者の元に入らなくなります。なぜなら家賃収入は、新たなオーナーとなった受贈者のものになりからです。新たなオーナーから家賃収入をもらうと贈与税がかかるため注意しましょう。

2度と「110万円以下非課税」に戻れない

相続時精算課税制度は、贈与者が60歳以上の親または祖父母、受贈者が20歳以上の子どもか孫であれば相続時精算課税選択届出書の提出一つで適用できます。問題は「一度選択した間柄の贈与は2度と暦年課税制度に戻れない」という点です。例えば父を贈与者、息子を受贈者として相続時精算課税制度の届出を提出したとします。

すると、以後はたった10万円の贈与でも相続時精算課税制度の対象となるため、贈与税の申告が必要になるのです。「110万円以下だから申告しなくていい」と誤解して期限内に申告せずにいると後日税務署から指摘を受け申告書とともに20%の贈与税を納めることになりかねません。

うっかり忘れやすい

相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、すべて相続財産に持ち戻されます。懸念されるのが「昔の贈与は忘れやすい」という点です。届出不要の暦年課税制度と混同し「いったん贈与してあるから相続は関係ない」と誤解しやすくなります。うっかり忘れてしまうと相続税の申告の際、申告漏れとなってしまう可能性もあるでしょう。

しかし税務署側では記録が残っているため、後日「お尋ね」が届き申告のやり直しをすることになります。

登録免許税・不動産取得税が高くつく

相続時精算課税制度で贈与した財産は、相続税の課税対象です。しかし民法上「贈与」の事実は変わりません。そのため不動産移転にかかるコストの一つとなる登録免許税や不動産取得税の課税上も贈与として扱われます。相続であれば登録免許税は「不動産の価額×0.4%」「不動産取得税は0円」で済みます。

しかし贈与だと登録免許税は「不動産の価額×2%」、不動産取得税は土地と住宅用建物は3%、非住宅用建物は4%です。節税効果は移転コストも含めて考える必要があります。

不動産以外の収入があるなら検討の余地あり

以上が相続時精算課税制度のメリット・デメリットです。検討すべき要素は多岐にわたりますが「賃貸収入が生活の軸となっているかどうか」が判断の軸となります。家賃収入で生計を立てているなら少し慎重になったほうがよいでしょう。しかし「他に事業を行っている」「正社員としての安定した収入がある」という場合は、相続時精算課税制度の利用を検討してみてもよいかもしれません。

相続時精算課税制度での贈与が有意義になるのは「贈与時の評価額が相続時よりも確実に低い」といえるタイミングです。時機を逃さないように今から考えておくとよいでしょう。

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