新型コロナウイルスの感染拡大でテナントが打撃を受けています。中には、不動産オーナーに賃料の減額を交渉するところも少なくありません。減額に応じた場合、オーナーの税金はどうなるのでしょうか。今回は、交渉に応じて値下げした場合の法人税の扱いについて解説します。
コロナ禍で賃料を払えない店子続出
新型コロナウイルスの感染拡大防止策によって2020年5月現在、多くのテナントが休業や短縮営業、リモートワークを余儀なくされています。契約の解除に踏み切るところがある一方、将来の事業再開と現状の赤字軽減のために賃料の減額を交渉するところも少なくありません。不動産オーナーとしては、「従前の賃料で粘りたい」という人も多いのではないでしょうか。ただ、将来を考えると交渉に応じるのも一つの策です。
いったん契約を解除すると次の店子が入るまで空室になり、いつまた借り手が見つかるか分かりません。しかし、減額交渉に応じれば賃料は0円にならないうえ、コロナ終息後に元の賃料に戻すことも検討できます。契約が続きさえすれば、多少なりとも手元に現金が入ることはオーナーにとってメリットです。
家賃を値下げしたら税金はどうなる?
家賃を値下げしたときに気になるのが「税金」です。減額に応じる行為は簡単でも、不動産オーナーが資産管理会社など法人である場合は、不利益を被る可能性があります。
理由なく値下げしたら寄附金として課税対象に
法人の不動産オーナーが理由もなく家賃を減額しても、法人税法上は認められません。本来あるべき家賃が売上とみなされ、法人税が課税されます。例えば、毎月10万円の家賃を理由なく毎月5万円に減らした場合、法人税の計算上は家賃収入が毎月10万円とされてしまうのです。この状況を法人税法上の会計処理で表現すると、以下のようになります。
1.通常の月の家賃10万円を受け取った
現預金 10万円 / 家賃収入 10万円
2.理由なく月の家賃を10万円から5万円に減らした
現預金 5万円 / 家賃収入 5万円
寄附金 5万円 / 家賃収入 5万円
寄附金は損金(法人税法上の経費)になりません。「事業と無関係に支出した」として扱われます。そのため実態は5万円の家賃収入しかないにもかかわらず、10万円分の収入に課税されてしまうのです。
なぜ、このような取り扱いがあるのでしょうか。法人は本来、事業によって営利を得るための存在です。しかし中には、法人をトンネルにして個人が不当に利益を得ようとするケースがあります。不動産賃貸業を営む法人でいうと、「役員の親族に物件を貸し安すぎる家賃しかもらわない」というケースです。法人税法では、このような不当な処理を制限し適正な賃料を得て納税しているほかの法人との課税の公平を図るべく、寄附金課税で対処しています。
コロナ禍で値下げしたら課税対象にはならない
恣意的な家賃の値下げは避けるべきですが、場合によっては値下げせざるを得ないときもあります。今回のコロナ禍が、これに当たります。テナントや入居者は自粛を余儀なくされると収入が下がって事業や生活が苦しくなるため、家賃を下げる必要が生じます。このようなやむを得ない事情が生じたときは、法人税法も配慮し、無用な課税はしないとしているのです。
先ほどの月10万円の家賃を5万円に値下げした例でいうと、コロナ禍が理由の値下げならば法人税法上も家賃収入は10万円ではなく5万円として扱われます。結果、法人の不動産オーナーがコロナ禍で家賃を値下げしても値下げした分については課税されずに済むのです。
減額を法人税法で認めてもらうには記録が必要
「家賃の減額がコロナ禍によるやむを得ない事情によるもの」と認めてもらうためには証拠を残さなくてはなりません。具体的には、賃料減額がコロナ禍によるものであり、店子の支援のためのものであることを書面に記録しておく必要があります。このほか賃料減額をした期間も記録しなくてはなりません。
減額すると2021年の固定資産税が減免される
なお、家賃を減額した結果、本年度の家賃収入が大きく落ち込むと2021年度の固定資産税・都市計画税が減免されます。減額になるか全額免除になるかは、「2020年2~10月までの任意の連続3ヵ月間の家賃収入が前年同期比でどれくらい減少したか」によって変わるため、注意が必要です。具体的には以下のようになります。
- 減少割合が30%以上50%未満:固定資産税・都市計画税が2分の1に減額
- 減少割合が50%以上:固定資産税・都市計画税が全額免除
このような猶予措置があったとしても、減額交渉には応じたくないオーナーもいるでしょう。今回はオーナーが減額交渉に応じたときの税金について解説しましたが、店子向けの家賃の支援制度もあります。どうしても減額したくない場合は、店子にそういった情報を伝えてみることも方法の一つです。
※こちらの記事は2020年5月1日時点での情報を元に執筆しております。
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