今年の路線価は、新型コロナウイルスの影響があるにもかかわらず、予想外に高い金額となりました。収益物件を持つ賃貸オーナーとしては、不安に感じるところです。今回は、今後の動向の予測も含めて、考えておきたい相続税対策についてお伝えします。
5年連続で路線価上昇…コロナ不況が反映されない「なぜ」
7月1日に国税庁が今年の路線価を公表し、全国約32万地点(標準宅地)で前年に比べ平均1.6%のプラスになったことが明らかになりました。訪日外国人客によるインバウンド消費や、再開発が影響したものと見られます。しかし、その好景気は2019年までのもので、現在私たちの生活に大きな影を落としている新型コロナウイルスの影響が反映されていません。
路線価はその年の1月1日の評価額
路線価は、公表される7月1日における評価額ではなく、その年の1月1日時点のものです。新型コロナウイルスの影響が表面化したのは今年の2月以降であり、それによる経済の冷え込みや土地取引の減少は、今回の路線価には反映されていないのです。
コロナの影響で路線価が補正される可能性もある
国税庁がコロナの影響を考えていないわけではありません。公表の際、経済活動が縮小し全国的に地価下落が生じる可能性について示唆し、「もしも路線価が地価を上回り、納税者の多くに影響が出るようならば便宜を図る」として補正率の導入を検討する旨を発表しました。昨年の台風19号や2018年の熊本地震の際も、被害の甚大だった地域については「調整率」と呼ばれる補正が入り、路線価による評価が低くなるような配慮がなされています。
賃貸オーナーが行うべき相続税対策4つ
「路線価が高い」と聞くと賃貸オーナーとしては不安が募りますが、以下の4点を意識して行動するようにしましょう。
生前贈与は慎重になるべし
収益不動産を早めに子どもに引渡し、そこから得られる収益を含めて相続税対策を講じたい賃貸オーナーもいるでしょう。しかし、今年の生前贈与は慎重になったほうがいいかもしれません。来年以降、路線価が下がる可能性があるからです。
前述のとおり、路線価はその年の1月1日時点の評価額です。この評価は、前年の取引状況や公示地価を参考にして行われます。ということは、来年の1月1日時点の路線価はコロナの影響で下がる可能性が高いです。潜在的な収益力が格段に高く、路線価が高くてもなお生前贈与を行う価値があるなら別ですが、そうでないなら待ったほうがいいかもしれません。
生命保険などで納税資金対策を
「来年以降、コロナの影響で路線価が下がるのではないか」と書きましたが、正直どうなるかはわかりません。仮に下がったとしても、相続税が発生すれば納税をしなくてはなりません。節税したところで、資金は必要になるのです。
「500万円×法定相続人の数」までは非課税になる生命保険を上手に使って、納税資金を用意しておきましょう。また民法改正によって、2019年7月1日から遺産分割前でも被相続人の預貯金を一部引き出すことができるようになりました。こちらも併せて検討するといいでしょう。
空室を減らして家賃を下げない努力を
賃貸事業用の不動産は、借家権割合や小規模宅地等の特例の適用で評価額を下げることができます。ただし、これは「貸室として稼働していれば」の話で、空室を放置していると適用されません。また、相続後に賃貸物件の売却を考える相続人がいますが、賃料が低いとその分売却時の評価額も下がってしまいます。
空室が出ても放置せず、入居者募集広告を打つ、家賃はできるだけ下げないようにするなど、営業努力を怠らないようにしましょう。
猶予制度などの活用も検討
本来相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。しかし現在、コロナにより三密を防ぐなどの対策を講じなくてはならないことから、相続手続きが思うように進まないケースが増えています。そのため国税庁は、相続税の申告・納税については「個別指定による期限延長の手続き」をすることで申告・納税を先延ばししてもよいとしています。コロナによる補正が入るかどうかも含めて、相続税を慎重に計算したいと思う人は、このような制度の活用を検討しましょう。
今年発生した相続について、すでに相続税を申告・納付した人は、更正の請求を検討するといいでしょう。コロナによる補正が入り、路線価が低くなることがわかってから更正を請求し、正しい評価額と納税額を申告すれば、払い過ぎた相続税が還付されます。
焦らず状況を見極めるのが最善の策
コロナ禍で状況が読めない中、高い路線価が公表されると、収益物件を含めて保有資産の多い人は焦りを感じるかもしれません。しかし、お伝えしたように打つべき対策はあります。大切なのは、焦らず状況を見極めることです。今後の国税庁の発表をこまめにチェックし、自身にとって最善の策を考えるようにしましょう。
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