不動産投資の呼び込み文句の1つに「節税」があります。「不動産投資をして節税しよう」というものです。一見魅力的ですが、節税目的の投資は行き詰ります。今回は「節税目的」の中身を紹介し、なぜそれが危険かについて解説します。
目次
「不動産投資で節税」のカラクリとは
「不動産投資で節税」を具体的に言うと「減価償却」「損益通算」「繰越控除」の3つになります。それぞれのメリットとして強調されている内容は次の通りです。
減価償却で節税
不動産投資のメリットとして謳われるものの1つ目は「減価償却で節税できる」というものです。減価償却とは、建物や付属設備、備品などの固定資産の経年劣化や使用に伴って価値が減少したものを数値化し、使用できる期間(耐用年数)に応じて費用計上することをいいます。
減価償却による節税効果の最大の強みは「キャッシュアウトがない」点です。通常の必要経費は現金支出が必要であるのに対し、減価償却は概念的な価値の目減りを必要経費として計上したに過ぎません。「現金を使わず固定資産を持っているだけで節税できる」のが減価償却のメリットです。
損益通算で節税
謳い文句で多いものの2つ目は「損益通算で節税できる」というものです。この言葉は特にサラリーマン大家さんに向けて言われます。
損益通算とは、事業所得・不動産所得などで生じた赤字を給与所得や一時所得などの他の所得の黒字と相殺できるという制度です。賃貸業で生じた不動産所得が50万円の赤字、給与所得が400万円の黒字のケースなら、合計所得金額は「400万円-50万円=350万円」になります。50万円所得額が下がると税額が下がるだけではありません。適用される税率も一段階低いものになる可能性もあります。損益通算による節税効果はかなり大きいのです。
損失の繰越控除で節税
謳い文句の3つ目は「損失の繰越控除で節税」というものです。賃貸業で生じた収益は不動産所得に該当します。不動産所得で青色申告を選択すれば、損失が生じた年で損益通算できるだけでなく、相殺しきれない分を翌年以後3年間繰越控除できます。
つまり、赤字が生じた年の翌年や翌々年、賃貸事業が黒字になっても相殺して課税される利益を抑えることができるのです。
なお、青色申告をすると赤字が生じた年の前年分の黒字と相殺し、納め過ぎた税金の還付を受けることもできます。これを「繰戻還付」といいます。
節税目的の不動産投資が危険な理由3つ
以上3つが不動産投資の営業でよく謳われる節税メリットです。得するように見えますが、これだけで投資に踏み出すのは危険です。次の3つの現実も考慮しないと、損失や債務を抱えるだけになります。
初期投資にお金がかかる
不動産投資で盲点になりやすい1つが「初期投資にお金がかかる」点です。賃貸業は株式やFXと違い「少額の自己資金だけでスタート」ができません。千万単位、億単位の物件を購入するには多額の借入が必要です。つまり初期投資にかなりのお金がかかるのです。
「減価償却はキャッシュアウトが伴わない節税策」と言われますが、物件購入の段階で数千万円、数億円の現金を支出していることを忘れてはいけません。そう考えると「減価償却だけ特にお得な経費」とは言えないのです。
ローンの元利返済で資金が減る
不動産投資を行う人の多くはローンを組みます。借金をして投資をするということは、後で定期的に元利返済をしなくてはならないです。元利返済には現金支出が伴います。不動産投資できちんと家賃や更新料を回収しなくては、返済は自己資金の持ち出しになってしまうのです。
特に注意したいのが「元金の返済は必要経費にならない」点です。ローンの元金・利息は両方とも返済で現金が出ていきます。しかし、それぞれ計上される財務諸表が異なります。
利息の支払いは「投資の成績表」である損益計算書に必要経費として記載されます。一方、元金返済は「投資家の財産状況」を表す貸借対照表に計上されます。元本20万円、利息3万円の支払いを毎月しても、損益計算書の計上は3万円だけなのです。
損益計算書の黒字だけを見て「収益性が高い」と安心するのは危険です。毎月20万円の元金返済が盲点になり、資金繰りに困るおそれが生じます。損益計算書の必要経費の項目に載らないキャッシュアウトがあるのです。
節税のほとんどは「キャッシュアウト付」
損益通算や繰越控除など「赤字で節税」は一見オトクです。しかし実態は「費用>収益」に過ぎません。思ったように収益が出ていないか、修繕費や固定資産税で多額の費用がかかっているかのどちらかです。
そして必要経費には必ずキャッシュアウトを伴います。先ほど「減価償却は初期投資段階で多額の現金支出をしている」と言いました。減価償却も現金を出して固定資産を買わなければ必要経費として計上できません。キャッシュアウトのない必要経費など、どこにもないのです。
不動産投資をするなら長く収益が得られる物件を
必要経費には必ず現金支出が伴うこと、そして損益計算書の必要経費項目に計上されない現金支出があることを考えると、節税目的の不動産投資は危険だと言わざるを得ません。「税金を払ってもなお現金が残る投資スタイル」を目指さないと、投資はどこかで行き詰ります。
だからこそ、最初の物件選びが肝心です。勧められるままに安易に物件を購入するのではなく、長く安定して収益を得られる物件を慎重に選定することをお勧めします。
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