フリーランスというキャリアの選択肢はここ数年で存在感を増し、フレキシブルな働き方に対する感心は高まりつつある。

その一方で、強調されるのは「収入面の不安定さ」だ。フリーランスになったものの、毎月の収入に限界を感じ、自身のキャリアに不安を覚える方も少なくはない。

フリーランスが安定して高収入を得る方法を探るべく取材したのは、年収1000万円を維持するフリーランスの山田竜也さん。Webマーケティングを主軸に、コンサルティング、メディア運営、セミナー講師など複数の収入源を持つポートフォリオ・ワーカーであり、著書『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』(日本実業出版社)では、フリーランスの処世術について解説している。

どうすればフリーランスとして稼ぐ好循環を作ることができるのか?年収1000万円の壁を越える方法とは?(取材・宿木雪樹 / 写真・関口佳代 / 特集協力・一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会

フリーランスの資本家思考
(画像=関口佳代撮影,ZUU online編集部)
山田竜也さん
同志社大学哲学科卒業後、3年半の会社員生活を経て、2007年にフリーランスとして独立。独立当初は自己破産寸前になった経験もあるが、稼ぐための仕組みを身につけてからは1000万円を超える年収を維持。専門分野はWebマーケティング。コンサルティング、広告運用、Web管理の他、自分の所用するメディアからの広告収入、セミナー講師、著者印税、イベント売上など複数軸の収入を持つポートフォリオワーカーでもある。著書に『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』(日本実業出版社)、『すぐに使えてガンガン集客! WEBマーケティング123の技』(技術評論社)。

「だからあなたは稼げない」フリーランスが陥りがちな目標設定の罠

フリーランスの資本家思考
(画像=関口佳代撮影)

――単刀直入にうかがいますが、フリーランスが安定した収入を得るためのコツは何でしょうか?

そもそも安定した収入という目標設定が間違っているのではないでしょうか。

フリーランスは業界のニーズやライフスタイルに応じて自身のキャリアを選択できることが強みですから、収入の安定にこだわるとフリーランスらしい働き方から遠ざかる可能性があります。

フリーランスとして成功するためには、新たな分野への挑戦を受け入れ、都度スキルを磨き続ける姿勢を維持することが望ましいです。安定性ではなく、流動性を取るほうがフリーランスとしては強いキャリアを築くことができます。

――流動性を優先すると、専門スキルやブランディングの軸がぶれてくるのではないかとも思うのですが。

ひとつの専門分野に関連する業務や職種の枝葉は多いものです。

たとえば、私はWebマーケターとしてキャリアをスタートしていますが、その知見とを自らの経験を掛け合わせることで、フリーランスについて論じる機会が増えました。私が突然バリスタになるのは難しいでしょうが、これまで学んだことを生かして領域を横展開していくことは意識次第で可能です。

クライアントから相談を受けたら、たとえ専門分野と違う領域でも挑戦することを勧めます。自らの領域を拡大するチャンスは思わぬタイミングで訪れるものです。そうしたチャンスは戦略的に取捨選択するよりも、直感的に挑戦したほうがニーズに即した独自性のあるキャリア形成につながります。それは差別化という点で武器になるはずです。

――そう言われてみれば、稼げないフリーランスは同じ分野や案件に執着しているようにも感じます。

その傾向は人付き合いにも見られますね。フリーランスの同業者と狭いコミュニティで馴れ合う環境は、あまり望ましくありません。

会社の仲間同士で傷をなめ合う飲み会と似たような環境を自ら構築すると、新しいことには挑戦しづらいですし、同業者の比較対象をむやみに作ってしまうことになります。

フリーランスだからこそ、異業種の人が集まる場所に自ら飛び込むべきです。自分がオンリーワンになれるコミュニティに身を置くことで、先ほど述べた流動性を武器に、自らのスキルを横展開して仕事の幅を広げていくことができるでしょう。

稼げるフリーランスの「3つのタイプ」 上手な掛け合わせとは?

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(画像=関口佳代撮影)

山田竜也さんの著書『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』(日本実業出版社)では、仕事が途切れないフリーランスのタイプとして、スキルを特化させる「職人」タイプ、相手の相談を受けやすい「相談役」タイプ、SNSやメディアなどで影響力を高めて武器とする「城持ち」タイプが紹介されていた。このタイプ分けから、稼ぐフリーランスの傾向について深堀りする。

――著書には「3つの強みを乗算することでフリーランスとしてのパワーが増す」と書かれていましたが、収入面で見たとき特に強いタイプはどれでしょうか?

「職人×相談役」タイプの組み合わせです。「城持ち」タイプは成功率が極めて低く才能に左右されるため、そこから挑戦しないほうが懸命です。

●仕事が途切れないフリーランスの3つのタイプ
・職人タイプ:スキルを特化させる
・相談役タイプ:相手の相談を受けやすい
・城持ちタイプ:SNSやメディアなどで影響力を高めて武器にする
(山田さん著書『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』より)

――「職人×相談役」タイプでの失敗例を教えてください。

「職人×相談役」の掛け合わせがうまくいかないパターンは主に2つです。

「職人としてのスキルは高いけれど、コミュニケーション能力の問題で相談しづらいタイプに見えてしまうパターンの人」か、「よく相談されやすいけれど自分の強みやスキルをパッケージ化できていなため、収入に結び付けられずただの良い人になっているパターンの人」です。

また、後者の派生パターンで、「周囲の人脈を紹介するばかりで自分の仕事にできないパターンの人」もいます。

――思い当たる節がありますね……。ちなみに「城持ち」タイプに憧れを抱くフリーランスも多いと思いますが。

「職人×相談役」タイプを目指し、信頼を勝ち取ってから築城しても遅くはありません。「城持ち」タイプは、城となるSNSやブログなどのツールを育て、メンテナンスすることにある程度のコストがかかります。炎上商法などの手法に頼ってしまえば、長期的な安定とはかけ離れたキャリアになりかねません。

フリーランスだから社会人として特殊な目的が与えられるわけではなく、社会貢献することが大前提にあります。技術力で誰かの役に立つことを忘れず、職人としてのスキルを磨き、課題解決に注力すべきです。

価格文化圏をアップデートせよ

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(画像=関口佳代撮影)

――高収入化のための単純な方法は値上げだと思いますが、いざやってみると難しい印象があります。

基本的に一度単価が定まった案件はそれ以上高くなりません。クライアントもその価格をアンカリングしていますから、同じクライアントから発生する案件は同価格帯と考えたほうが良いでしょう。

今の収入を上げたいならば、新規案件を獲得するほかありません。そして、良質な新規案件を獲得するためにはポートフォリオを充実させる必要があります。

――具体的にどのような点を意識してポートフォリオを作るべきでしょうか?

ポートフォリオのタグラインを明確にすることを心がけるべきです。そのフリーランスの強みが何か一見して理解できれば、その強みに価値を見出すクライアントが相応の単価で相談するでしょう。

タグラインを明文化するためには、実績を語りやすい案件を意識的に増やしてください。ただ何かの案件を終えたというだけでなく、その案件がどの程度の影響力を持ったかを数値化できると良いです。たとえばWebライターでしたら、自分の記事がどれほどのPV数なのか、掲載されたメディアにどんな効果をもたらしたのかを把握することが武器になります。

――そのポートフォリオをもとに営業をかけるわけですね。

はい。ただし、『無い袖は振れない』という言葉のとおり、そもそも予算の少ないクライアントに対していくらアプローチしても単価を上げることは難しいでしょう。

あらゆるサービスの価格の相場は、コミュニティによって異なるものです。私はそれを価格文化圏と呼んでいます。フリーランスが収入を上げるためには、自分が属している価格文化圏からより高い価格文化圏に挑戦する必要があります。

それはある種背伸びをした状態なので、自分がやみくもに飛び込んだからといって、そのコミュニティで自分のスキルが求められていなければ仕事にはつながりません。さまざまな業界やコミュニティに足を踏み入れ、価格文化圏をアップデートできるフィールドを探し続けましょう。

「居心地のいい場所」に依存するな

フリーランスが持続的な収入を得るためのテクニックは、組織に属さない流動性を強みにすることが前提にあります。自分が今置かれた状況を継続させることよりも、より良い方向に転換していく意識を持つことが高収入化のカギを握るのです。

・居心地の良いコミュニティや収入、案件に依存しない
・職人としての技術力を礎に、誰かの役に立てる相談役になる
・自分の属する価格文化圏や専門分野をアップデートし続ける

こうしたポイントを意識することが、フリーランスとしての処世術の礎になります。実績を重ねているにも関わらず収入が上がらない方は、自らのスキルや周囲のコミュニティを再考し、停滞の原因を突き止めることから始めてみましょう。

【山田竜也さんに聞く・後編】につづく)

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