「フリーランスは、流動性を武器に案件やコミュニティをアップデートし続けることが収入につながる」と語る山田竜也さんは、年収1000万円を維持するポートフォリオ・ワーカーであり、18年以上株式投資を続ける投資家でもある。
収入をアップするための処世術を伺った前編に続き、後編はより長期的な富につながる「資本」の築き方に切り込んだ。人生を長い目で見て豊かにしていくために重要なのは一時的な収入、つまり「キャッシュフロー」ではなく、時間をかけて積み重ねていく「資本」である。フリーランスが意識すべき資本家思考とは。(取材・宿木雪樹 / 写真・関口佳代 / 特集協力・一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)
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・年収1000万円以上稼ぎ続けるための処世術とは?【山田竜也さんに聞く・前編】
フリーランスにとっては案件そのものが“投資”である
――フリーランスが持つべき資本家思考とは何だと山田さんは考えていますか?
まず“案件そのものが投資である”という考え方を持ちましょう。フリーランスにとって案件は収入を得るための手段であると同時に、次の案件を獲得するためのポートフォリオの一部でもあります。
目先の収入ばかりを気にして先行投資となる案件をおろそかにすると、高収入を得ることはできません。
――先行投資になる案件はどのように判別すれば良いのでしょうか?
既存の案件のスコアリングは、客観的な案件比較に役立ちます。たとえば、「価格、将来性、楽しさ(やりがい)」という3つの判断基準を設け、自分が今取り組んでいる案件にそれぞれ「◎、○、△」のスコアを割り振ってみてください。
Aの案件は報酬が高いけれど、将来性もやりがいも少ない。一方で、Bの案件は請求額こそ低いものの将来性が感じられ、自分もそれに取り組んでいることが楽しい。こうしたスコアリングは、投資価値のある案件を再確認するのに効果的です。
フリーランスはクライアントとの関係性を過度に意識し、主観的な判断で案件を選びがちです。「長いあいだお世話になっているから、安くてやりがいがなくても継続する」という言い分も、その一例です。こうした案件はスコアを可視化すれば、続けるべきかどうか一目瞭然でしょう。
――しかし、先行投資になる案件を選びすぎると収入が低くなるのではないでしょうか?
もちろん収入を得る目的の案件も必要です。よくそういった案件を「ライスワーク」、先行投資としての案件を「ライフワーク」と区別する言い方を耳にしますが、その2つの割合を意識しながら案件を精査しましょう。私の場合は、ライフワークが常に全体の2割以上を占めるよう意識しながら、プランを立てています。
――フリーランスが収入目的以外の案件に2割以上を費やすには、相当の覚悟が必要では?
収入が最終的な資産だと思ってしまうから、その発想に結びつくのかもしれません。たとえ単価が低くとも、その案件から技術的資産や人的資産が生み出されるのであれば、それは極めて価値の高い案件です。
収入以外で何が自分の資本なのかを改めて整理すれば、それを得るためにどのような案件を残すべきなのか見えてくるでしょう。
資本家思考がフリーランスに安定をもたらす
――フリーランスは会社員と比べて安定しないものと捉えられがちですが、山田さんはどう考えますか?
何を安定と捉えるかによるのだと思います。たとえば、持ち家を買うことと賃貸を借りること、どちらが安定しているでしょうか?それぞれメリットとデメリットがありますから、一概にどちらが安定しているとは断言できないはずです。
持ち家があるのが会社員、賃貸を借りているのがフリーランスと考えればわかりやすいでしょう。固定資産ではないものの、フリーランスであれば変化に応じて場所を転じることがたやすいのがメリットです。
フリーランスの資産形成の基本は「リスク分散」です。取引先を複数社にしていれば、そのすべてが同じタイミングで契約を切ることはまずないでしょう。取引先だけでなく、スキルもポートフォリオ・ワーカー的な広げ方を心がければ、時代のニーズや市場の状況に応じてサービスを変えていくことができます。
前編で「流動性を武器にすればフリーランスとして稼げる」と述べましたが、そのロジックはリスク分散にも直結するものです。
――リスク分散を成功させるためのポイントはありますか?
常に一歩先の時代を予測し、その予測に基づいた進路調整を細かにしていくことです。先読み投資と同じですね。
私は今ほどフリーランスにスポットライトが当たっていない頃から、フリーランス時代が到来することを予見していました。会社がこぞってジェネラリストを育てていますから、スペシャリストへの需要は高まって当然です。
働き方についても、死にものぐるいで働く以外にステップアップの選択肢がなかったので、その抜け道はないか模索していたんです。その結果が、今につながっています。
――その先読み力はどこで養ったんですか?
大きな影響を受けたのは、橘玲氏の考え方です。私は読書がたいへん好きなのですが、特に橘氏の著書は積極的に読みました。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)をはじめ、一時期は橘氏が勧めるライフハック術や物事の考え方をすべてまねしていましたね。
――今見えている“先”について一例があれば教えてください。
フリーランスのあいだでは40代を境に仕事が一気に減るという、いわゆる「40代限界説」が唱えられています。確かに、企業内では年齢に応じた昇進制度がありますから、外注に関わる現場の担当者の年齢は30代前後でとどまります。年の離れたフリーランスに扱いづらさを感じる担当者も少なくはないでしょう。
しかし、私は今後クライアント側にも40〜50代の人材が増えてくると予想しています。高齢化に伴って現場を回す人員は減るため、若手の業務から離れられない人も増えてくるはずです。キャリアアップしないミドル層が安心して相談できる同年代のフリーランスは、将来的には一定の需要が期待できます。
――フリーランスが加齢を恐れる理由は、資産が不明瞭という点もあるかもしれません。流動性をリスクにしないためには、どのような資産形成が望ましいでしょうか?
流動的だからこそ、計画的な資産形成は必要不可欠です。貯蓄はもちろん、株の運用なども勧めます。知識がなくても挑戦しやすいのは、インデックスファンドや積立NISA、iDeCoなどでしょうか。
資産運用に対して身構える方もいるようですが、まずは自分の資金を投じて値動きを見ることから始めなければ、生きた知識を得ることはできません。
自他を過剰に意識して消耗しすぎない方法
――こうしてお話をうかがうと、山田さんはなにか特殊なノウハウで年収1000万円の壁を越えているというわけではないということがわかります。
そもそも、過度な年収思考に陥りすぎではないでしょうか。キャッチーなフレーズなので著書などで年収1000万円と謳ってはいますが、実は私自身はそれほど年収にこだわっているわけではありません。
私にとって、仕事の目的の中心は稼ぐことではなく、誰かの役に立つことです。それが仕事になることもありますし、そうでない場合も楽しんでいます。
自分の生活に必要なぶんだけ仕事をして、地に足のついた資産形成と案件のアップデート、つまり将来への投資を繰り返すことが正攻法だと思います。
――そうは言っても、やはり他人の年収を聞くと気になるものでは……?
他人の仕事や年収なんてまったく関係ありません。誰かの働き方と自分の働き方を比較しても意味がありませんよ。
何らかの情報が発信されるとき、その情報には機能的価値と感情的価値があります。他者の年収や働き方の情報に焦りを抱くのは、感情的価値を揺さぶられすぎているのかもしれません。
そもそも他者について情報を取りすぎる傾向があるように感じます。SNSなどを通じてそうした不安の要素となる情報を目にしているのであれば、何を目的にその情報を得ているのか再考してみてください。機能的価値の高い情報を得るためだったはずなのに、いつの間にかSNSを利用する目的が変わってしまっている人も多いのではないでしょうか。
――自分のキャリア形成や年収に疑問を抱いてしまうと、つい他者の状況を参照したくなるのかもしれません。
その疑問が生まれてくる原因は、自分との向き合い方にあるかもしれません。
他者や社会に貢献することを主軸とし、具体的にどうコミットしていくか模索すれば、仕事の内容や報酬に疑問を抱くことはないはずです。自分の価値を主観で判断しすぎているのではないでしょうか。
まず、自己評価を目的に他者に興味を抱くのはやめましょう。SNSのプッシュ通知を切る、気になるアカウントはミュートするなどの手段を活用し、フリーランスや同業者の情報を意図的に断つと効果的です。
資本家思考を持つために今から始められる3つのこと
フリーランスとして稼ぐことをテーマとして山田さんと話すうちに見えてきたのは、そもそも稼ぐことを主軸にしている時点で本質的ではないという結論だ。フリーランスが持つべき資本家思考は、リスク分散しつつ、社会貢献を目的としたキャリアへの投資を選択していくことにつながる。そのために今から始められることは、下記の3点となる。
・先行投資と捉えられる仕事を全体の2割以上キープする
・流動性を支えるリスク分散と資産形成を続ける
・客観的視点で貢献性を保つキャリアに目を向け、他者に左右されない
資本家思考を持つフリーランスになるためには、それを支えるメンタリティが何よりも大切だということに立ち返った。収入に依存することなく、適切な判断基準で自身のキャリアを形成できるフリーランスを目指すことが、持続的な収入を生み出す一歩になるだろう。
(山田竜也さんインタビュー、おわり)
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