減価償却,固定資産
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鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

「減価償却は節税につながる」というのが不動産投資の通説ですが、選ぶ資産や選択した償却方法次第であり、償却方法を選べない資産もあります。今回は、減価償却の基本をおさらいするとともに、償却額が意外と少ない資産を2つご紹介します。

「節税策」といわれる減価償却のおさらい

減価償却とは、建物などの固定資産の経年劣化を費用として計上することです。「キャッシュアウトのない節税策」といわれますが、これは耐用年数に応じて投資額を少しずつ費用として計上するためです。投資したときに現金を支出しているので、実際はキャッシュアウトがあるのですが、長期間にわたって費用として計上できるため節税効果は高いといえます。

減価償却には2つの方法がある

減価償却には「定額法」と「定率法」があります。具体的な内容は以下のとおりです。

  • 定額法
    毎年一定額を計上していく方法で、基本的に毎年計上する金額は同じです。
    計算式
    取得価額×定額法の償却率

  • 定率法
    残存価額を一定の割合で費用計上する方法です。計上する額は償却初年度が最も多く、次年度以降は徐々に償却できる金額が少なくなります。
    計算式
    前期末の残存価額×定率法の償却率

節税効果は「定率法>定額法」といわれるが…

一般的に、定率法のほうが節税効果は大きいといわれています。初期に多額の費用を計上することで不動産所得が赤字となり、給与所得など他の所得と損益通算ができるからです。

ただし、初期に多額の費用を計上したとしても節税効果は長続きしません。繰越損失控除は、白色申告なら1年限りですし、青色申告でも翌年以降3年間です。

一方、定額法では同じ金額を長期に渡って計上します。定率法ほどのインパクトはありませんが、「10年後も20年後も、現金を出さなくても費用にできる」という点では、息の長い節税策といえます。

定額法しか選べない資産

減価償却は土地以外の固定資産について行いますが、定額法にするか定率法にするかは、資産ごとに選べます。ただし「建物」「建物付属設備」「構築物」は、現在のところ定額法しか選べません。取得時期によって変わり、詳細は以下のとおりです

建物(1998年4月1日〜2017年3月31日取得分)旧定額法
建物(2017年4月1日以降取得分)現行の定額法
建物付属設備2016年4月1日以降取得分
構築物2016年4月1日以降取得分

例えば、2016年10月に購入したアパートに対して、2018年5月に資産価値が向上するような工事を施したとします。この場合、アパート本体の価格は旧定額法で、工事代金は現行の定額法で償却することになります。

減価償却をしても得にならない固定資産

建物は定額法で減価償却を行いますが、取得価額が数千万円~数億円になるので償却額も多額になります。そのため、定額法でも償却期間が長期になれば、それなりの節税効果が得られます。

しかし、他の2つは建物に比べて投資額が小さいため、建物ほど大きな節税効果は得られません。

建物付属設備

建物付属設備とは、建物と一体となって家屋の効用を高める設備のことで、以下のようなものが該当します。

  • 照明などにかかる電気設備
  • 給排水設備
  • 衛生設備
  • ガス設備
  • 冷暖房などの空調設備
  • エレベーター
  • 通風またはボイラー設備
  • 格納式避難設備
  • 店舗用簡易設備
  • アーケード・日よけ

主な設備の法定耐用年数、つまり償却期間は以下のとおりです。

構造・用途細目法定耐用年数
アーケード・日よけ設備主として金属製のもの15年
その他のもの8年
店舗簡易設備 3年
電気設備(照明設備を含む)蓄電池電源設備6年
その他のもの15年
給排水・衛生設備・ガス設備 15年

法定耐用年数が長くなるほど、1年で計上できる減価償却費は小さくなります。

例えば、同じ日よけ設備で100万円のものでも、金属製だと耐用年数15年なので償却率は0.067、1年あたりの償却額は6万7,000円です。一方で木製の場合は、耐用年数8年なので償却率は0.125、1年あたりの償却額は12万5,000円になります。

構築物

構築物とは、土地の上に築造されたものの中で建物以外のものを指します。「建物」は不動産登記規則第111条で、以下の3つの要件をすべて満たすものとされています。

外気分断性屋根および周壁またはこれらに類するものを有する
土地への定着性基礎等で土地物理的にに定着している
用途性居住等の目的があり、その目的を供し得る状態にある

どれか1つでも満たしていない場合は、構築物になります。また、建物に付属したものではないので、建物付属設備にもなりません。

具体的には、以下のようなものが構築物に該当します。

  • 塀・門扉
  • 橋梁
  • 水泳プール
  • すべり台などの遊戯用具
  • アスファルトなどの舗装設備
  • トンネル

構築物も、構造や用途、細目によって法定耐用年数が変わります。例えば、広告看板で金属製のものなら20年、その他のものは10年です。路面舗装ならば、コンクリートやブロック、レンガ、石だと15年ですが、アスファルトだと10年になります。

投資効果を意識した支出を

減価償却の方法や法定耐用年数の知識は、不動産投資において役に立ちます。同じ不動産投資でも、建物であるアパートに投資するか、構築物である駐車場に投資するかで減価償却の金額や法定耐用年数が変わるのです。

またアパート経営をしていると、修繕や用途変更が必要になります。その場合も、建物の一部となるような工事を行うか、あるいはより簡易な工事で建物付属設備とするかで計上できる償却費の金額や期間が変わります。

「どのくらいの期間不動産投資を行うか」「支出した現金をどのくらいの期間で回収したいか」といった投資方針と照らし合わせて、投資する資産を選ぶことをおすすめします。

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