「不動産投資で税金対策ができる」という話を聞いたことがある人は多いかもしれません。しかし、実際どのような仕組みで税金が安くなるのでしょうか。ここでは、不動産投資を賢く活用して相続税を圧縮する仕組みについて、わかりやすく解説します。
目次
1.不動産をする前に押さえておきたい相続税の仕組み
相続税について、「なんとなく難しい」「素人の自分にはわからない」「自分にはあまり関係ない」と思っている人は多いのではないでしょうか。実際に相続が発生してから、初めて税務署や税理士に相談する人もいます。しかし、苦手意識があるからといってわからないまま放置しておくのはもったいないことです。相続税の仕組みは、ポイントさえ押さえれば決して難しいものではありません。
細かな計算は専門家にゆだねるとしても、相続税の仕組みについて大まかな知識を持っておくことで、生前にさまざまな方法で財産を圧縮し税金対策をすることができます。
1-1.相続税の基礎控除額とは?
相続税を知るうえで、まず重要な概念が「相続税の基礎控除額」です。相続税の基礎控除額とは、相続財産の総額から差し引くことができる控除額のこと。相続税の基礎控除額の範囲内であれば、そもそも相続税は発生しません。そのため税金対策をする前に、「財産の総額が基礎控除を超えるかどうか」を確認することが重要です。
1-2.基礎控除額を差し引いた計算の具体例
相続税の基礎控除は「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」で算出します。例えば、夫が亡くなり妻と子2人の場合、法定相続人は3人であり、相続税の基礎控除額は「3,000万円+(3人×600万円)」となり、4,800万円です。
つまり、この事例の場合、遺産総額が4,800万円以下の場合は相続税がかかりません。しかし、遺産総額が4,800万円を超える場合は相続税がかかります。基礎控除額をしっかりと把握しておくことで、相続税がかかりそうかどうかをざっくりと確認できるのです。
また、相続税は相続財産すべて合算したうえで按分し、相続税率をかけて算出するため、税率は課税財産額や法定相続人の数によっても異なるため注意しましょう。相続税率は10%から最大55%まであり、財産の金額が大きくなるほど高くなります。そのため、相続対策をするうえでは課税遺産総額を少しでも少なくすることがポイントです。
2.不動産購入で税金対策ができる合理的な理由
このことを踏まえた上で本題に戻りますが、ではなぜ不動産投資が相続税の税金対策につながるのでしょうか。それには、財産の評価方法の違いが関係しています。相続財産の総額を計算するとき、財産の内容によって評価方法が異なります。評価方法は法律によって定められており、それに従って評価することが必要です。
現預金の場合は、わかりやすく額面そのままが相続財産としての評価額になります。また、株式などの有価証券、金などの現物であれば、そのときの時価が評価額です。これに対して、不動産の評価方法には特徴があります。
2-1.建物と相続税評価額
まず建物では「固定資産税評価額」を活用します。固定資産税評価額とは、毎年4月から6月ごろに市区町村から送られてくる固定資産税の課税明細に記載されている評価額です。
固定資産税評価額は、一般的に建物の建築(購入)費用の約50〜60%になります。例えば、建物の建築費(購入費)が3,000万円だった場合は、固定資産税評価額が1,500万〜1,800万円程度、建物の建築費が5,000万円だった場合は固定資産税評価額が2,500万円〜3,000万円程度ということになります。
建物の固定資産税評価額はそのまま建物の相続税評価額となるため、3,000万円の建築費をかけて建物を建設(購入)した場合はその建物の相続税評価額も1,500万〜1,800万円となり、現預金で3,000万円を保有している場合よりも評価額が1,200万〜1,500万円ほど低くなります。
現預金で不動産を購入するだけでも相続税対策になりますが、購入した不動産を第三者に賃貸することで、さらに相続税評価額を下げられます。具体的には、相続税評価額を差し引く「借家権割合」というものがあり、その割合は多くの地域で30%となっています。割り引かれる率が30%ということは、元々の相続税評価額の70%が最終的な相続税評価額となります。
例えば5,000万円、もしくは1億円の建築費をかけて建設(購入)した建物を第三者に貸し出した場合、相続税評価額は下記の数字にまで圧縮されることになります。
5,000万円 × 50〜60% × 70% = 1,750万〜2,100万円
1億円 × 50〜60% × 70% = 3,500万〜4,200万円
2-2.土地と相続税評価額
土地の相続税評価額の計算方式は「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。「路線価方式」は路線価が定められているエリアにおいて、倍率方式は路線が定められていないエリアにおいて、それぞれ適用されます。
路線価とは、土地の1平方メートル当たりの評価額で、土地が面している道路によって定められており、毎年改定されているのが特徴です。路線価方式が適用される場合、土地の相続税評価額は面積に路線価をかけ、形状によって微調整して評価額を決定します。
この路線価は一般的に土地の売買価格の8割程度を目途に設定されているため、現預金で保有しているよりも土地を購入した方が相続税の節税につながるわけです。土地は現預金と比較して一般的に換金しにくいといわれているため、不動産の評価額は現預金として保有しているよりも低くなるよう設定されているのです。これは建物にも言える考え方です。
倍率方式の場合は、都税事務所や市役所などで確認できる「土地の固定資産税評価額」を使って計算します。
土地の場合も賃貸の用途で貸し付けられている場合、建物と同様に相続税評価額が割り引かれる形となります。ちなみに、賃貸の用途で貸し付けられている土地のことを「貸家建付地」と呼びます。
2-3.小規模宅地の特例について
相続税評価額を減らすためのコツとして、「小規模宅地等の特例」についても覚えておきたいところです。この特例の正式名称は「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」で、一定条件に当てはまるケースでは相続税評価額が50〜80%減額されます。
例えば、「被相続人(亡くなった人)等の事業の用に供されていた宅地等」で、「貸付事業以外の事業用の宅地等」と「特定事業用宅地等に該当する宅地等」の両方にあてはまる場合は、限度面積を400㎡として80%が減額されます。また相続する土地が「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」の場合も、限度面積を330㎡として80%が減額されます。
3.相続税を圧縮できた事例
実際に相続税評価額が圧縮された事例を紹介していきましょう。相続税を計算するためには、相続税の税率と控除額の表を参考にする必要があります。以下が、その表になります。
遺産の総額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | − |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この表を参考に、現金1億円を相続人1人に相続する場合と、1億円で購入した不動産を相続人1人に相続する場合の相続税額を比較してみましょう。
3-1.現金1億円を相続人1人に相続する場合
この場合、1億円から基礎控除額を差し引いた額を算出し、その後、上記の表の相続税率と控除額を使って最終的な相続税を計算します。ちなみに基礎控除額の計算式は前述の通り、「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」です。
1億円 − (3,000万円 + {1人×600万円})=6,400万円
6,400万円×30%(相続税率)− 700万円=1,220万円
現金1億円を相続人1人に相続する場合、上記のように最終的な相続税額は1,220万円となります。
3-2.現金1億円で購入した不動産を相続人1人に相続する場合
一方、1億円で不動産を購入した場合はどうでしょうか。不動産を購入する場合は土地と建物の価格は1:1に振り分けられ、「建物が購入価格の60%の相続税評価額となったことに加え、賃貸することでさらに30%の減額」、「土地は購入価格の80%の相続税評価額」というケースでは、土地と建物の評価額は以下のように計算されます。
建物:5,000万円×60%×70%=2,100万円
土地:5,000万円×80%=4,000万円
その後は建物と土地の評価額の合計から、現金のときと同じように基礎控除額を差し引き、相続税率と控除額を使って最終的な相続税を計算します。
6,100円 − (3,000万円 + {1人×600万円})=2,500万円
2,500万円×15%(相続税率)− 50万円=325万円
現金1億円を相続するときと比べると「1,220万円 – 325万円」で895万円の節税効果があったことになります。
4.不動産を購入・賃貸すれば、相続税評価額を下げることが可能
このように、現預金で不動産を購入・賃貸することで、相続税評価額を下げることが可能です。相続税評価額が下がれば、適用される相続税率が低くなり、相続税が圧縮されます。
税金は、法律に則って計算されるため、仕組みを理解したうえで資産を組み替えれば合理的に税金対策ができます。一方で、「本当に相続税対策が必要なのか」「不動産購入によって家族の間でトラブルが起きないか」といった点には十分注意し、専門家などに相談をしながら対策するようにしましょう。
4-1.節税目的の不動産投資はNG?
ただ最近では、不動産購入による相続税の過度な節税に、国税庁の厳しい目が向けられつつあります。そのため、行き過ぎた相続税対策にならぬよう、一定の歯止めも必要なことは覚えておきたいところです。
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