「親が亡くなり、賃貸物件を相続することになった。『兄弟で仲良く共有してくれ』と生前親に言われたけど、本当にその通りにすべきか」という相談を時々受けます。結論から言うと、安易な共有は避け、代償分割を使って財産を分割することが「争族」の回避につながります。
賃貸物件を兄弟で相続するなら安易に共有すべきでない理由
相続した後の所有の形態の一つに、「共有」があります。ここでいう共有とは、不動産など一つの財産の所有権が複数の人(個人または法人)によって支配・利用されている状態を言います。一つの土地を3人兄弟で共有する形で相続した場合、その土地の持分を3分の1ずつ相続人が保有することになります。
現預金は少ないけれど不動産などの固定資産が多く、均等に財産を分けることが難しい場合に共有が選択されることが多いです。賃貸物件を共有という形で遺産分割を行うと、「相続の手続きがシンプルで済む」「相続時の争いが一時的に収まる」反面、以下のようなデメリットが相続後に発生します。
不動産の賃貸借の業務には原則として全員の同意が必要
賃貸物件の賃貸借契約の締結や解除などといった行為には、原則として共有者全員の同意が必要です。また、賃料の変更や物件の用途変更、リフォームなどについても同様です。
共有者全員が常に賃貸事業に従事しているならまだしも、誰かが他の事業に専従している、あるいは病気などでコミュニケーションを取りにくいといった事情があると同意を得るまでに時間がかかり、賃貸事業に支障をきたします。
子や孫の世代で売却したくなった時に売りにくくなる
共有不動産の売却にも、共有者全員の同意が必要です。ここでも「共有者同士の意思疎通がしやすいかどうか」がカギとなります。相続時は相続人同士の仲が良くても、子や孫へ持分が承継されたとき、スムーズにコミュニケーションが行えるとは限りません。感情面の問題以外にも、承継した人が海外に住んでいたり、承継後に行方不明になってしまったりすることがあるからです。
このような事情があると、引き継いだ子や孫が将来持分を売却したいと考えても、なかなか売れずに困る可能性が高くなります。
「1人で相続」+「代償分割」が望ましい
相続後の共有のリスクを避けるためには、「1人で相続し、その後相続した人が他の兄弟たちに代償分割する」のがベターです。
代償分割とは何か
代償分割とは、一つの現物財産を共同相続人のうちの1人あるいは複数人が代表して相続し、相続した人が他の共同相続人に対して代償金(あるいは代償財産)を支払うという遺産分割の方法の一つです。代償分割の方法を採るのは、賃貸物件の他、居住用財産や事業用財産など「承継した後の生活や事業を円滑に行うことが必須」な財産を相続する場合が多いです。
賃貸物件を相続した相続人の現預金が少ない場合の対策
財産を承継した相続人が他の共同相続人に対して支払う代償金は、承継した人がもともと持っていた現金を使うことが多いです。しかし、誰もが現金を潤沢に持っているとは限りません。とはいえ、現物財産で代償すれば、相続税以外に所得税がかかる可能性があります。
代償金は分割で支払うこともできます。承継した財産が賃貸物件であれば、承継後に発生する家賃などから代償金を支払うこともできます。結果、承継した人の経済的な負担を減らすことができるのです。
手続きの流れ
賃貸物件について代償分割を行う場合には、その旨を遺産分割協議書に記載します。分割して支払う場合は、その旨についても記載する必要があります。
また、相続の対象となる賃貸不動産の評価は、相続税評価額で計算します。土地は「路線価方式」「倍率方式」のどちらか、建物は「固定資産税評価額」で評価した後、借地権割合や借家権割合を加味して評価額を計算します。実勢価格の半分近くになることもあるため、代償金の計算は慎重に行うべきです。
注意点
遺産分割協議書に代償分割に関する記載をしないと、代償金の支払いが単なる贈与と見なされ、代償金を受け取った側に贈与税が課される可能性があります。
また、代償金の支払請求権があるからといって、家賃や更新料の請求権があるわけではありません。家賃や更新料が発生する不動産の所有権は、あくまでも相続した人に帰属します。
財産評価や代償金の支払額、支払方法については、共同相続人同士で合意が取れるまで話し合わなくてはなりません。代償分割は「争続リスク」を抑えるのに適していますが、「話し合い」は他の分割手法の場合と同じく重要なのです。
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