相続で納税資金がないときの最後の手段「物納」とは何か
(画像=designer491/Shutterstock.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

賃貸不動産を引き継ぐと相続税の納税額があまりにも高額で納付に四苦八苦する人が少なくありません。今回は、そんな納税資金に困ったときの最後の手段となる「物納」について解説します。

相続税は原則「金銭納付」

ほかの税目と同じく相続税は原則として相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に金銭で一括納付しなくてはなりません。ただ実際の相続は承継する財産の評価額があまりにも高額である一方、相続人の手元には現預金がほとんどないケースもめずらしくありません。「相続税は金銭納付のみ」とされていると納税しない相続人が続出するおそれがあります。

救済措置として「延納」「物納」がある

相続税法では、金銭一括納付が難しい納税者に向けて救済措置を2つ用意しています。一つが「延納」です。延納は金銭での一括納付が困難だとみられる事情があり、相続税額が10万円を超える場合、担保を提供すれば、相続税を分割で支払うことができます。しかし延納でもどうにもならないとき、もう一つの救済措置として「物納」を活用することが可能です。

どうにもならないときの納税方法「物納」とは

物納は相続税特有の納税方法です。いわば「どうにもならないときの最後の手段」なのですが、最後の手段であるため、いくつかのハードルをクリアしないといけません。

物納するための要件

物納のための要件をチェックすることが必要です。物納するための要件は以下のようになります。

  • 延納をしてでも金銭で相続税を納付するのが困難であること
  • 物納申請財産(物納できる財産)が日本国内にあること
  • 物納できる財産が管理・処分できるものであること(権利の帰属が不明確な土地などはダメ)
  • 賃借権や居住用建物など、税務署が所有者となった場合に使用収益しにくい財産を物納に充てる場合には、どうしてもほかに適当な財産がないことを証明すること
  • 相続税の申告期限か物納申請期限までに物納に必要な一定の申請書類を提出すること

要は「物納しか納税手段がない」「物納にできる財産は他人の手垢のついていない、処分・管理しやすい財産」であることが求められています。

物納できる財産の順位

ただ物納するといっても順番があります。先順位の財産があるのにもかかわらず、後順位の財産を申請することは原則できないのです。物納申請財産は次の通りです。

  • 第1順位 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式など
  • 第2順位 非上場株式など
  • 第3順位 動産

ざっくりいうと「財産の単価が高そう、かつ値段がつきそうな財産」が優先です。なお美術館に飾られているような特定登録美術品は、上記の順位に関係なく物納に充てることができます。

賃貸不動産を物納するときは必要書類に注意

もし賃貸不動産を相続した場合、「どうしても納税資金がない」「延納も難しい」という事情に陥ったら、物納を検討せざるをえません。不動産は第1順位であるため、物納がやむを得ないとなったら認められる可能性はあります。ただし提出書類に注意が必要です。自用の不動産を物納に充てる際、登記事項証明や境界線に関する確認書、公図や住宅地図などが必要となります。

しかし賃貸物件が建っているなどにより賃貸の用に供されている土地を物納に充てる場合には、以下の書類が別途必要となります。

  • 土地賃貸借契約書の写し
  • 賃借地の境界に関する確認書
  • 賃借人ごとに賃借地の範囲、面積および境界を確認できる実測図
  • 物納申請前3ヵ月間の地代の領収書
  • 敷金等に関する確認書
  • 賃借料の領収書等の提出に関する確約書
  • 建物の登記事項証明書
  • 賃借人が暴力団に該当しない旨の誓約書

このほか物納に充てる土地が私道に面している場合には、通行承諾書などが必要です。

期限までに書類を提出できないときの対策と注意点

物納を希望するならば、期限までに必要書類を提出することが必須です。しかし事情によっては間に合わない場合もあります。この場合「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出すれば、提出期限を3ヵ月延長することができます。それでもなお間に合わない場合は再延長することが可能です。このとき最長で本来の物納申請期限の翌日から1年間、期限を延長することができます。

ただし「年7.3%」あるいは「前年の11月30日の公定歩合+4%」のいずれか低い割合の利子税を支払わなくてはならないので注意が必要です。

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