賃貸不動産を相続するとき最初に注意すべき3つのポイント
(画像=Sam and Brian/Shutterstock.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

賃貸不動産の相続は、自宅の相続よりも注意すべきことが多岐にわたります。なかには誤解や思い込みが先行してしまい、あとで痛い目に遭う場合もあるのです。今回は、賃貸不動産を相続する場合に最初に注意すべき3つのポイントについて解説します。

賃貸不動産の相続は「相続完了まで」がうっかりしやすい

賃貸不動産の相続の問題というと「不動産の遺産分割をめぐって相続人同士で争いになりやすい」「相続税の申告は10ヵ月以内」というイメージが最初に浮かぶ人も多いかもしれません。それ自体は間違いではないのですが、それだけにとらわれると思わぬミスをしてしまうことになります。なぜなら相続の手続きは遺産分割と相続税の申告だけではないからです。

実際の相続は被相続人の死亡届や葬儀、名義変更などさまざまな作業が伴います。わかりやすい作業だけならよいのですが、なかにはうっかり失念しやすいものもあるため注意が必要です。忘れてしまうと余計なお金がかかったりトラブルのもととなってしまったりしかねません。相続の手続きを完璧に記憶する必要はありませんが、「ここだけは知っておいたほうがよい」という点だけは念頭に置いておくとよいでしょう。

賃貸不動産の相続で最初に注意すべき3つのポイント

賃貸不動産の相続が実際に発生した場合、最初に注意すべき3つのポイントについて説明します。

ポイント1:複数で相続する場合「遺産分割完了までは『共有状態』」

複数の相続人がいる場合、賃貸不動産は「遺産分割協議で誰がどのように引き継ぐか」が決まるまでは「相続人全員が法定相続分に従って共有している状態」となります。賃貸不動産が複数の相続人の共有下に置かれるということは、次のような手間がかかるということです。

  • 賃貸物件の契約や契約解除、リフォームなどについては、共有者全員(管理行為については持ち分の過半数)の合意が必要
  • 家賃などの収入や必要経費は法定相続分で按分して計上
  • 按分した収入や必要経費について所得税の確定申告を各相続人が行う

争いなどで遺産分割がいつまでたっても決着がつかない場合、この手間が相続人全員にずっとつきまとうことになるわけです。お互い納得のいくように協議を行うことは大事ですが、協議が長引くと相続人全員の生活に支障が出るおそれがあります。

ポイント2:被相続人分の賃貸収入は4ヵ月以内に準確定申告を

被相続人が亡くなった場合、その年の1月1日から亡くなった日(相続開始の日)までの間の所得金額と所得税額を計算し準確定申告をすることが必要です。準確定申告は相続開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に所得税の確定申告と納付を行わなくてはなりません。被相続人は生前にこの作業を行えないので、代わりに相続人(包括受遺者を含みます)が行うことになります。

相続税の確定申告は多くの人に認知されている一方、所得税の準確定申告はなかなか意識されません。被相続人の死亡後のさまざまな手続きに取り紛れてうっかりしがちなのが現実です。確定申告に慣れていないと不動産所得の計算にも手間がかかります。期限を過ぎれば延滞税などのペナルティを別途納めなくてはならないので注意が必要です。

ポイント3:不動産は相続の対象でも家賃は相続の対象ではない

賃貸不動産を相続する場合、自宅の相続と違った問題が発生します。それは「家賃などの法定果実が発生する」ということです。そして相続の対象はあくまでも賃貸不動産であり、家賃などの収入は相続の対象ではありません。つまり賃貸不動産を相続したら不動産そのものについては相続税がかかりますが、家賃は別途所得税や住民税がかかるのです。

ポイント1で解説したように遺産分割が完了するまでは相続人全員の共有状態に置かれるため、それぞれの法定相続分に応じて不動産所得の確定申告が必要となります。遺産分割が完了し、誰が賃貸不動産を引き継ぐかが決まった場合は、引き継ぐ人自ら不動産所得の確定申告をしなくてはなりません。また被相続人が不動産所得について青色申告の適用を受けていた場合、その青色申告の効力までが相続されるわけではありません。

賃貸不動産を引き継いだ相続人が青色申告の適用を受けようとするならば、あらためて自分の名前で青色申告の承認申請を行う必要になります。

賃貸不動産を相続する時には、上記で解説した3つのポイント以外にも多くの注意点が存在しますので、専門家への適切な相談が必須です。

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