これから増える?「セキュリティトークン」を利用した不動産証券化
(画像=Paolese/stock.adobe.com)
丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

「セキュリティトークン」は、日本ではまだ馴染みがない言葉かもしれません。しかし、不動産投資にも関わるセキュリティトークンのメリットは知っておいたほうがよいでしょう。新しい資金調達法になる可能性を秘めた、セキュリティトークンについて解説します。

セキュリティトークンとは何か

国土交通省の資料によると、セキュリティトークンの定義は以下のとおりです。

  1. 米国の法律上で証券(セキュリティ)とみなされるトークン
  2. 日本法(改正金融商品取引法)上の「電子記録移転権利」に該当するもの
  3. 株式や債券、不動産、特許、著作権、サービス利用権、金銭債権、コモディティ(金、石油など)といった価値の裏付けがあるさまざまな資産を、ブロックチェーンを用いてデジタル化したもの

資金調達に使われるトークンには、ICO(イニシャルコイン・オファリング)とSTO(セキュリティトークン・オファリング)があります。イニシャルコインである仮想通貨(暗号通貨)はそれ自体に通貨的価値があり、商取引で使うことができます。それに対してセキュリティトークンには、債券や株式と同様に証券としての価値があります。証券化の対象になるのは不動産、社債などで、今後は株式も対象になる可能性があります。基本的に収益やキャッシュフローを生むものは証券化の対象になるといわれており、不動産とは相性が良い仕組みといえるでしょう。

セキュリティトークンのメリット

セキュリティトークンには多くのメリットがあります。

1つ目のメリットは、上場証券の取引では受け渡しは3日後ですが、セキュリティトークンでは即座に取引を完了できることです。24時間365日取引ができることも大きな魅力といえます。

2つ目のメリットは、スマートコントラクト(自動化された契約)の機能を使うと契約を自動的に行えることです。株主名簿や社債原簿の更新、配当の支払いなどを自動化でき、同じプラットフォーム上で行うことができます。自動化によるコストの低減で、利回りが向上する可能性もあります。

3つ目のメリットは、安全な取引が保証されていることです。セキュリティトークンはブロックチェーンに支えられており、ブロックチェーン上で取引することによってデータの改ざんを防止できます。金融商品取引法の規制対象であるため、安全な取引が可能です。

4つ目のメリットは、対象分野が広いことです。一般的に証券化しやすいものだけでなく、多くのファンを持つアーティストやアスリート、スポーツチームなどが活動費用を調達することもできます。

セキュリティトークンと不動産投資クラウドファンディングの関連性

セキュリティトークンと不動産投資クラウドファンディングの関連性について見てみましょう。現行の不動産投資クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の投資家に不動産投資への出資を募る方法です。事業者は、不動産を運用して得た家賃収入や売却益を投資家に分配します。

STOを利用すると、クラウドファンディングのプロセスを自動化できます。セキュリティトークンを利用した不動産ファンドの資金調達方法を「不動産STO」と呼びますが、不動産STOでは投資の見返りとして投資家にセキュリティトークンが分配され、配当や償還が自動的に行われます。

出典:CrowdFunding Channel「セキュリティトークンは不動産証券化の潮流を変えるか?不動産特定共同事業の事例も踏まえて解説!」

では、セキュリティトークンを利用して不動産投資クラウドファンディングを行うことはできるのでしょうか。海外では、不動産を対象にしたセキュリティトークンSTOの事例がいくつかあります。例えば、米国では2018年8月に大手クラウドファンディング会社であるIndiegogoとSTOプラットフォームを提供しているTEMPLUMのサポートで実施された不動産(ホテル)への投資セキュリティトークンオファリング(約20億円)が調達を完了しています。

また、英国ではSmart Lands社がノッティンガム・トレント大学などの学生向けの寮(124室)をトークン化。最低投資単位は500ポンドでファンド期間は3年、総額1,400万ドルを調達しています。

日本では、大手不動産のケネディクス株式会社が「デジタルセキュリタイゼーション推進室」を立ち上げ、セキュリティトークンを活用した不動産投資プラットフォームビジネスを検討しています。

事例出典:国土交通省「トークンを活用した不動産投資の可能性と法的枠組み」

不動産会社のセキュリティトークン活用事例

海外に比べて出遅れている日本の不動産STOですが、国内でもセキュリティトークンを活用する不動産会社が出てきました。不動産情報サイト大手の株式会社LIFULLがSecuritize Japanと共同で、株式会社エンジョイワークスが行うプロジェクト「葉山の古民家宿づくりファンド」を、国内で初めて一般投資家向け不動産STOとして実施することを発表しました。

この取り組みでは、エンジョイワークスが出資した投資家に対してセキュリティトークンを発行することで、持分譲渡の利便性や安全性を高めます。ブロックチェーン上のトークンにより第三者の証明が必要なく、自身が保有する持分を証明できます。譲渡時にはスマートコントラクト(自動化された契約)を介することで、暗号資産とのDVPによって一方の売買当事者による債務不履行を防ぐことができます。DVPとは、「証券の引き渡しと代金の支払いを相互に条件を付け、一方が行わない限り他方も行われないようにすること」(日本銀行見解)です。

LIFULLは、「セキュリティトークンを利用した出資持分譲渡が可能になることで、資産運用期間中の譲渡を前提とした不動産小口投資が可能となり、様々な不動産投資のバリエーションが生まれ、不動産投資が多くの人々にとって身近なものになっていくことが期待される」と述べています。

出典:株式会社LIFULLニュースリリース

法改正でSTOによる資金調達が増えるか

平成29年に金融商品取引法が改正され、セキュリティトークンを発行して資金を調達するSTOが可能になったことで、今後はさまざまな案件が開発されることになりそうです。

ネット証券最大手のSBI証券を傘下に持つSBIホールディングスは、2020年10月9日に国内初となるSTOビジネスを開始することを発表しました。第1弾となる案件は、SBIホールディングスのグループ会社であるSBI e-Sportsが自社を引受人とするSTOを利用して行う第三者割当増資(5,000万円)です。ニュースリリースによると、この増資に際して発行されるデジタル株式はブロックチェーンを利用して発行され、トークンの移転と権利の移転・株式名簿の更新が一連のプロセスとして処理され、電子的に管理することが可能になるとしています。

SBIホールディングスグループが想定しているSTOビジネスの対象は不動産や映画、車・航空機、ESG、嗜好品(ワインなど)、美術品などです。これらを株式や社債、ファンド、受益権などの形でデジタル証券化していくといいます。

出典:SBIホールディングスニュースリリース

今回はセキュリティトークンを利用した不動産証券化について見てきましたが、時代の最先端をいく大手ネット証券グループがセキュリティトークンを利用した資金調達ビジネスに乗り出したことは、今後の普及を後押しすると思われます。STOが新しい資金調達方法として不動産投資に利用される日も、そう遠くないかもしれません。

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