不動産投資の最終的な成功は物件の売却タイミングでしかわからないといえます。その理由は、家賃収入をいくら得ても、収益物件の売却価格が安いと目標とするトータルリターンを達成できないこともあるからです。
物件売却の出口戦略を考える際には、売却タイミングを見極め、成功ポイントや注意点を抑えておく必要があります。これらの不動産投資を始める前に知っておきたい情報について、詳しく解説していきます。
目次
不動産投資における出口戦略とは?
不動産投資における出口戦略とは、物件を売却するための戦略を意味します。いかに目標とするトータルリターンを達成できる適正な価格で売却することが、出口戦略の最大の課題です。
この部分について、深掘りしてみましょう。不動産投資には、次の2種類の利益があります。
・インカムゲイン(家賃収入に基づく利益)
・キャピタルゲイン(物件売却に基づく利益)
インカムゲインで利益をあげていても、出口戦略で失敗して思うようなキャピタルゲインを得られなければ、その不動産投資は失敗ということになります。なお、出口戦略は、物件売却の段階でなく、購入時に描くのが理想とされます。購入時に「その物件をいくらで、いつ売るか」を計画しておくと、成功の条件が明確になります。
不動産投資における出口戦略のパターン
不動産投資の出口戦略(売却方法)には、いくつかのパターンがあります。「どのパターンで売却するか」についても購入時に決めておくと、成功の条件がより明確になります。選択できる4パターンの内容、メリット、デメリットについて確認しましょう。
収益物件としてそのまま売却
1つ目の出口戦略のパターンは、建物と入居者を現状維持にして「収益物件としてそのまま売却する」です。このパターンと相性がよいのは、次の条件にあてはまる収益物件です。
・家賃の設定が相場に近い、または相場以上である
・入居率や収益性が高い
・人口が安定しているエリアにある など
端的にいえば、安定経営に成功している収益物件と相性がよいのが「そのまま売却する」という選択肢といえます。一方、家賃の設定が相場以下だったり、入居率が低い収益物件だったりしても、問題点を改善してキャピタルゲインが十分得られるようになれば、そのまま売却もあり得ます。
出口戦略で「収益物件としてそのまま売却する」を選択したときのメリット・デメリットは次の通りです。
〈メリット〉
・解体などの手間をかけずに売却できる
・立ち退きや解体の期間がない分、スピーディーに売却しやすい
〈デメリット〉
・(収益性が低い場合)買いたたかれる可能性がある
・(同)買い手が見つからない可能性がある
更地にして売却
2つ目の出口戦略のパターンは、収益物件を解体して「更地にして売却する」です。ただし、このパターンが選択できるのは、次に挙げる不動産投資の種類です。
・戸建て
・一棟マンション
・アパート
区分マンションで「更地にして売却する」という出口戦略が選択しにくい理由は、大勢の他所有者の賛同を得る必要があるため非現実的だからです。さらに先に挙げた不動産投資の種類の中でも、次の条件にあてはまるケースが「更地にして売却する」選択肢と相性がよいと考えられます。
・地価が高く土地の購入ニーズがある
・築古物件で空室が目立つ
・違法建築のため次の買い手が見つかりにくい など
出口戦略で「更地にして売却する」を選択したときのメリット・デメリットは次のようになります。
〈メリット〉
・(好立地なら)短期間で買い手が見つかりやすい
・(同)希望の価格で売却しやすい
〈デメリット〉
・解体費用がかかる
・(入居者がいる場合)立ち退き交渉の手間と費用がかかる
自己居住用として売却
3つ目の出口戦略のパターンは、次の買主が自分で住むための「(自己)居住用として売却する」です。 このパターンは、戸建てや区分マンションなどの収益物件で使いやすい手段です。出口戦略で「居住用として売却する」を選択したときのメリット・デメリットは次のようになります。
〈メリット〉
・よい買い手が見つかった場合、相場よりも高く売却できる
・買い手の幅が広がる(投資家以外にも売却できる)
〈デメリット〉
・居住用にふさわしいリフォームが必要なケースもある
さらに、収益物件を居住用として売却する場合、次の2つの選択肢があります。
A:現在の入居者に売却する
B:空室状態にして売却する
Aを選択した場合、「立ち退き交渉が不要」「次の買主探しをしなくてよい」などのメリットがあります。一方、Bを選択した場合、集客力のある仲介会社経由なら、「収益物件の相場よりも高く売却できる可能性がある」というメリットがあります。
売却以外の選択肢もある
ここまでご紹介してきた出口戦略のパターンの他に、「自分や家族が住む」「相続対策に活用する」という選択肢もあります。それぞれの内容を確認してみましょう。
・自分や家族が住む
下記のようなケースの場合、オーナー自身が収益物件を住居用として活用する選択肢もあるでしょう。
・オーナー自身にとって利便性の高い立地である
・オーナー自身が居住用の物件を探している
・子どもや親が住む物件を探している
ただし、もともと収益物件で居住用に転用するケースで、不動産投資ローンの残債が残っている場合、 金融機関との調整(一括返済や借り換えなど)が必要です。なぜならローンの目的そのものが変わってくるからです。
・相続税対策に活用する
近い将来、相続税納税を予定しているケースでは収益物件を売却せず、あえて所有し続けるという選択肢もあります。これにより、「相続税評価額を抑えられる」というメリットを享受できる可能性があります。
収益物件を所有していると、相続税評価額が抑えられる仕組みを確認しましょう。資産は種類によって相続税評価額が以下のように変わってきます。
現金や預金:相続税評価額100%(金額そのまま)
建物:実勢価格の60〜70%程度
土地:公示地価(時価)の80%程度
加えて、収益物件の場合は、以下にあてはまれば相続税評価額をさらに引き下げられます。
借地権割合:60〜70%程
借地権割合:一律30%
賃貸割合:建物の総床面積÷使用部分の合計面積
収益物件の売却価格はどう決まる?
不動産投資の出口戦略において「収益物件の売却価格がどのように決まるか」が気になる人も多いでしょう。売却価格については「収益性」と「資産性」を基に、取引事例を参考にしながら算出されるケースが多いです。「収益性」と「資産性」とはどのような内容かを確認しましょう。
収益性
出口戦略における収益性とは、その収益物件に「稼ぐ力がどれくらいあるか」ということです。最近では、不動産投資ローンの審査において「収益性を重視する金融機関が増えている」といわれます。収益性の計算式は次の通りです。
物件価格=年間家賃収入÷期待利回り
上記の計算式のそれぞれの要素は以下のようになります。
・年間家賃収入
1年間で収益物件から得られる家賃の総計です。例えば、月間の家賃収入が80万円なら、年間家賃収入は960万円(80万円×12ヵ月)になります。ただし、年間家賃収入を出すときは、現実に近い入居率を基に計算するのが安全です。
一例)
年間家賃収入(満室時)960万円×物件全体の平均入居率90%
=年間家賃収入(実際に近い金額)864万円
・期待利回り
期待利回りとは、見込みの年間家賃年収を物件価格で割って出した利回りのことです。計算式は次の通りです。
期待利回り=見込みの年間家賃年収÷物件価格×100
期待利回りが高いほど、出口戦略で収益物件が高額で売れる可能性が高くなるといえます。期待利回りの計算式内の「見込みの年間家賃収入」は、以下の要素を組み合わせて決まるのが一般的です。
・立地条件
・所在エリアの人気度
・建物構造
・築年数
・現状の入居率 など
資産性
出口戦略における資産性とは、その収益物件の「資産価値がどれくらいあるか」ということです。不動産投資ローンを組むときは収益物件を担保にするのが通例なので、金融機関は資産価値に着目します。また、稼働率が極端に低いなどの理由で、収益性では売却価格を判断しにくいケースでは資産性が重視されます。
注意点としては、ある程度の築年数が経っている収益物件では、「土地値=資産価値」と判断されるケースも少なくありません。建物の価値が過小評価される理由は、日本では中古建物の価値があまりないとみなされているからです。
※築浅だったり耐用年数が長かったりする建物(RC造など)は、建物の資産性が評価されるケースもあります。
仮に、収益物件のある土地が坪あたり50万円で100坪あるなら、資産価値は5,000万円(坪50万円×100坪)ということになります。ただし、同じ物件を収益性と資産性で評価した際、両者の金額に大きな差がある場合は、土地値の80〜90%程度で売却価格を決めるケースもあります。
なお、資産性の評価で有利なのは、都心の超一等地やブランドエリアと呼ばれているような地価が高いエリアです。超一等地などは希少性が高いため、通常の経済状況であれば極端な値崩れが起きにくいと考えられます。
売却タイミングを見極める4つの指標
出口戦略の実行部分ともいえる売却は、不動産投資の判断の中でも難易度が高いです。以下の4つを意識しながら、売却タイミングを慎重に判断しましょう。
長期譲渡所得になるタイミングで売却
賃貸物件などの不動産を売却する際に譲渡所得(売却益)が発生すると、これに所得税・住民税が課されます。「譲渡所得の税率」は、物件の所有期間によって大きく変わります。そのため、まとまった売却益が発生する場合は、税率が低くなるタイミングで売却を検討するのも一案です。
具体的には、不動産の所有期間が5年超の場合は「長期譲渡所得(所得税・住民税の合計約20%)」、5年以下の場合は「短期譲渡所得(所得税・住民税の合計約39%)」になります。この知識は、出口戦略において重要なので覚えておきましょう。
※復興特別所得税を含まない税率。詳しくは本稿の「出口戦略の成功ポイント6」参照
注意しなければならないのは、譲渡所得の計算における物件の所有期間が「不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるか、5年以下か」で判断されることです。わかりやすくいえば、その不動産を購入してから6年以上経っていれば、必ず長期譲渡所得になります。
減価償却期間の終了のタイミングで売却
キャッシュフローを重視する不動産投資家であれば、「減価償却期間が終わるタイミング」で物件を売却する手もあります。
減価償却期間が終われば、それまで経費として計上できていた「減価償却費」を計上できなくなります。つまり、これまでとほぼ変わらない家賃収入と経費であれば、減価償却費が計上できなくなった分、納める税金の負担が増えるわけです。
これによって投資効率が落ちたり、キャッシュフローが出にくくなったりするため、減価償却期間が終わる前後で売却するという出口戦略もよくあります。ただし、税金が増えても十分な手残りがあるような高収益物件であれば、減価償却期間が終わっても所有し続ける選択もあるでしょう。
デッドクロスのタイミングで売却
不動産投資におけるデッドクロスとは、「ローンの元金返済額が減価償却費を上回ること」です。デッドクロスの主な原因は、以下の2つです。
減価償却期間が終了した
ローンの元金返済の金額の割合が高まった
いずれにしてもデッドクロスが発生すると、たとえ帳簿上は黒字でもキャッシュフローが悪化するため、このタイミングで物件を売却するという出口戦略もあり得ます。デッドクロスによる黒字倒産も考えられるため、ローンの元金返済額と減価償却費を対比することが大切です。
空室リスクが高まったタイミングで売却
インカムゲイン(家賃収入)を重視する不動産投資家であれば、「空室率」に着目した出口戦略がよいかもしれません。そのまま物件を所有していても思ったような家賃収入が得られないなら、売却して稼働率の高い物件に切り替えるほうが安全です。
一棟物件であれば、集客の努力をしているのに空室の割合が徐々に上昇している場合などはリスクが高まっている可能性があります。また、区分マンションや戸建て住宅であれば、以前よりも入居者が決まりにくくなってきた場合は要注意です。
3つの売却方法とメリット・デメリット
不動産投資の出口戦略においては、「どの売却方法を選択するか」も重要です。以下の3つの選択肢(仲介会社、買取業者、個人間取引)があります。
仲介会社への売却依頼
最も一般的な売却方法は、仲介会社(不動産会社、宅建業者)に依頼する方法です。売却を依頼された仲介会社は自社で見込み客を探したり、不動産業界のネットワークであるレインズ(※)経由で物件の情報を発信したりして、買い手を見つけようと努力します。
※レインズは、宅建業法に基づいて国交大臣が指定した「不動産流通機構(Real Estate Information Network System)の略称です。
仲介会社に売却を依頼するときに注意したいのは、3種類の媒介契約(仲介契約)にはあることです。どの方法を選ぶかで、信頼できる1社に依存するか、複数の不動産会社にお願いできるかなどの条件が変わってくるため、違いを理解した上で契約しましょう。
[一般媒介契約]
売主(不動産オーナー)が、他の仲介会社に売却を依頼することもできる契約です。売主自身が、親戚や知人などの売却相手を見つけても構いません。
[専任媒介契約]
1社の仲介会社に売却を依頼する契約です。ただし、売主自身が親戚や知人などの売却相手を見つけても構いません。
[専属専任媒介契約]
専任媒介契約と同様、1社の仲介会社に売却を依頼する契約です。こちらは、売主自身が売却相手を見つけることができない旨の特約を設けるのが通例です。
さらに、3種類の媒介契約には契約の有効期間やレインズへの物件情報の登録、依頼者への報告義務なども異なります。その内容をまとめると、以下のようになります。
媒介契約 の形態 | 契約の 有効期間 | レインズへの 物件情報登録 | 依頼者への 報告義務 |
---|---|---|---|
一般媒介契約 | 法律上の 制限なし(※) | 法令上の 義務なし(※) | 法令上の 義務なし |
専任媒介契約 | 3ヵ月以内 | 契約締結から 7日以内 | 2週間に 1回 |
専属専任媒介契約 | 3ヵ月以内 | 契約締結から 5日以内 | 1週間に 1回 |
買取業者への売却依頼
不動産の買取に特化している買取業者に直接売却するという選択肢もあります。不動産仲介業者に物件の売却を依頼した場合は、成約までに数ヵ月かかるといわれます。さらに、数ヵ月待っていたからといって、必ずしも売買契約が成立するわけではありません。
買取業者への不動産の売却では、価格面で折り合いがつけば、1週間や数週間といった短期間で売却することができます。このように買取業者への売却依頼にはメリットがありますが、売却価格が1〜3割程度下がるというデメリットがあります。
個人間取引の売買
売主と買主が不動産売買の交渉を直接行う方法もあります。しかし、この売買方法は不動産の知識のない者同士が売買することによってトラブルになりやすいため、宅建業者などの専門家を挟むのが安全です。
出口戦略の成功パターン
次に、不動産投資の主な物件(区分マンション、一棟アパート、一棟マンション)の出口戦略の成功パターンをシミュレーションしてみます。
ここでは内容をイメージしやすくするため、不動産投資ローンの金利や譲渡所得に課される所得税・住民税などを考慮せず、インカムゲイン(家賃収入に基づく累計キャッシュフロー)とキャピタルゲイン(売却益、ただし売却損もあり)を軸に見ていきます。なお、物件の所有期間は2011〜2021年の間とします。
区分マンションの出口戦略の成功パターン
健美家の「収益物件 市場動向 年間レポート(2021年1月〜12月期)」 によると、区分マンションの平均価格は2011〜2021年の間に687万円上昇しました。ただし、この間所有物件の築年数が増えたことなどを考慮し、売買益を343万円(687万円の約50%)と仮定します。
一方、区分マンションはキャッシュフローがマイナスになるケースも多いため、10年間でマイナス100万円と仮定しました。その結果、売却益と累計キャッシュフローの合計で最終損益はプラス343万円となり、出口戦略は成功しました。
2011年購入価格:846万円
2022年売却価格:1,189万円
売却益:プラス343万円
累計キャッシュフロー:マイナス100万円
【最終損益:プラス243万円】
一棟アパートの出口戦略の成功パターン
健美家のレポートによると、一棟アパートの平均価格は、2011年〜2021年の間に2,469万円上昇しました。ただしこの間、所有物件の築年数が増えたことなどを考慮し、売買益を1,234万円(2,469万円の約50%)と仮定します。
一方、一棟アパートは入居率を維持できればキャッシュフローを得やすいため、10年間の累計でプラス500万円と仮定しました。その結果、売買益と累計キャッシュフローの合計で最終損益はプラス1,743万円となり、出口戦略は成功しました。
2011年購入価格:4,508万円
2022年売却価格:5,742万円
売却益:プラス1,234万円
累計キャッシュフロー:プラス500万円
【最終損益:プラス1,734万円】
一棟マンションの出口戦略の成功パターン
健美家のレポートによると、一棟マンションの平均価格は、2011〜2021年の間に2,767万円上昇しました。ただしこの間、所有物件の築年数が増えたことなどを考慮し、売買益を1,383万円(2,767万円の約50%)と仮定します。
一方、一棟マンションは一棟アパートよりも戸数が多いため、キャッシュフローを得やすいと考えられます。10年間の累計でプラス1,000万円と仮定しました。その結果、売買益と累計キャッシュフローの合計で最終損益はプラス2,383万円となり、出口戦略で成功できました。
2011年購入価格:1億3,545万円
2022年売却価格:1億4,928万円
売却益:プラス1,383万円
累計キャッシュフロー:プラス1,000万円
【最終損益:プラス2,383万円】
不動産投資の出口戦略の成功例を見てきましたが。不動産投資の初心者の中には「こんなに儲かるのだろうか」と思う人もいるかもしれません。実際は、以下を反映させると利益が圧縮されます。
・不動産投資ローンの金利の支払い
・譲渡所得への所得税・住民税の課税
・一棟物件の場合は大規模修繕費
また、理想的な入居率を維持した場合の結果であることをご理解ください。
出口戦略のよくある失敗パターン
ここまでの解説で、不動産投資の出口戦略で成功するためのポイントやシミュレーションについて理解できたのではないでしょうか。ここからは、その内容に基づき出口戦略のよくある失敗パターンを3つ紹介します。
出口戦略の失敗パターンその1:物件を高値掴みしてしまった
物件の高値掴みとは、絶対に避けたい出口戦略の失敗パターンです。相場よりも割高な価格で物件を購入してしまうと売却益が圧縮されたり売却損が膨らんだりする原因となりかねません。相場と比較したうえで物件を購入することが大切です。
出口戦略の失敗パターンその2:低利回りのため買いたたかれた
物件を所有している間に「稼働率が低下する」「家賃が著しく下落する」といったことが起こると購入したときよりも低利回りになる可能性があります。低利回りになると売却交渉が不利になり買いたたかれるケースも少なくありません。高稼働になるように経営努力を心がけましょう。
出口戦略の失敗パターンその3:経済的ショックのときに売却した
リーマンショックやコロナショックなど経済的ショック時に「不動産市場も大きな影響を受けるのではないか」と不安になって狼狽(ろうばい)売りをすることは避けましょう。一般的に不動産は、株式のように短期間で大暴落する可能性は低いです。経済的ショックが起こっても状況を見極めながら売却すべきか否かを冷静に判断してください。
不動産投資の出口戦略で売却するときの注意点
最後に、不動産投資の出口戦略を実行するとき(物件を売却するとき)の注意点をご紹介しましょう。いずれも、投資家なら必ず覚えておきたい重要事項です。
複数社に見積もりを出す
物件を売却する際は「買取」と「仲介」の選択肢があります。両者の違いは次の通りです。
買取 | 内容:不動産会社に直接売却する メリット:スピーディーに売却しやすい デメリット:仲介よりも売却価格が安くなりやすい |
---|---|
仲介 | 内容:不動産会社に買主を探してもらう メリット:買取よりも高値で売却しやすい デメリット:売却までに時間がかかりやすい |
このうち、通常の出口戦略では「仲介」を選ぶのが一般的です。理由は「買取」よりも「仲介」の方が高い金額で売却しやすいからです。
買取と仲介、どちらを選ぶにしても、複数の不動産会社の査定を受けましょう。ただし、業者が提示してきた査定価格通りに売却できるとは限りません。会社の評判などを基に、査定価格の信頼性を見極めましょう。
入居者がいる状態で売却する
不動産投資の出口戦略では、入居者がいる状態(オーナーチェンジ物件)で売却した方が有利です。買い手から見ると、オーナーチェンジ物件には「購入してすぐに家賃収入が入ってくる」「入居者募集をしなくてもよい」などの魅力があるからです。
とくに入居者が長期で住み続けていたり、信頼性の高い属性(例:大手企業勤務や公務員など)だったりする場合は安心材料になります。
※ただし、「居住用物件」として売却する場合は、入居者がいない状態(空室)で売却するのが基本です。
修繕やリフォームを安易に行わない
収益物件が長期的な空室の場合、「修繕やリフォームを行ったほうが売却で有利になるのでは?」と考えるオーナーもいるかもしれません。しかし、実際には修繕やリフォームなどを施しても、売却価格が高くならない、あるいは、買い手が見つからないケースもあります。
販売にあたり修繕やリフォームが必要か否かについては、信頼できる不動産会社などの意見を参考にしながら、慎重に判断するのが賢明でしょう(複数社の意見をヒアリングするのが望ましいです)。
売却時にかかる税金や費用を調べておく
不動産投資の出口戦略では、売却額がそのまま手元に残るわけではありません。税金や費用を差し引いた金額が手残りとなります。売却時に「手残りがこんなに少ないと思わなかった」という結果にならないよう、どのような費用や税金がかかるかを予め把握しておくのが賢明です。主な項目は次の通りです。
・譲渡所得に対する所得税、住民税
・仲介会社に支払う手数料
・抵当権抹消登記費用
・売買契約書に貼付の印紙代 など
なお、譲渡所得に対する所得税・住民税は、所有期間によって税率が変わってきます(復興特別所得税含む)。
所有期間5年以下:約40%
所有期間5年超:約20%
※上記の所有期間は譲渡した年の1月1日現在で判断する
売却完了までのスケジュールを把握しておく
不動産投資の出口戦略を実行するときは、ある程度の期間がかかります。このことを意識していないと、「現金が入ってこないので困る」といった窮地に追い込まれかねません。売却期間がどれくらいかかるかはケースバイケースですが、契約完了までを含めて6ヵ月以上とイメージするのが無難です。
合わせて、売却完了までのスケジュールを把握しておくと、進行状況を確認しやすいです。以下はその一例です。
- 複数社への査定依頼
- 仲介会社の決定、媒介契約の締結、販売価格決定
- 物件の販売開始
- 問い合わせや内覧の対応、条件交渉
- 売買契約の締結、引き渡し
出口戦略は経営環境によって変わり続ける
不動産投資を成功に導くには、出口戦略を描くことが欠かせないことが理解できたのではないでしょうか。本稿の内容をおさらいしてみましょう。
・不動産投資はキャピタルゲインを得て成功か否かを判断できる
・出口戦略にはいくつかのパターンがある(物件をそのまま、更地、居住用など)
・出口戦略の売却タイミングを様々な指標で判断することが大事
・注意点は、複数社の査定を受ける、リフォームを安易に行わない など
最後に補足ですが、不動産投資のベストな出口戦略は、経営環境によって変わり続けます。そのため一定期間ごとに「キャッシュフローが予定通り積みあがっているか」「不動産市場がどうなっているか」などをチェックし続けることが重要です。
不動産投資の出口戦略に関するよくある質問
Q.不動産投資で成功した具体的な状態とは?
A.「初期費用とローン残債の合計」よりも「(家賃収入を源泉とした)キャッシュフローと売却益の合計」が上回れば「不動産投資は成功した」といえます。
Q.出口戦略でよくある失敗のパターンとは?
A.購入時に物件を高値掴みしてしまったケースや、空室率が高いために買いたたかれたケースなどが挙げられます
Q.仲介会社に依頼する以外の売却方法は?
A.買取業者へ売却依頼する方法や、個人間取引で売買する方法があります。ただし、買取業者だと売却価格が割安になる傾向があり、個人間取引の売買だとトラブルのリスクがあるので注意しましょう。
Q.売却価格が高くなる物件とは?
A.「収益性」と「資産価値」のどちらか(または両方)が高い物件です。具体的には、以下のような特徴を持つ物件です。
収益性の高い物件:利便性、大規模開発、人気の街など
資産価値の高い物件:都心の超一等地、ブランドエリアなど
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