次世代に資産を遺すためのアパート・マンション経営
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丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

アパート・マンションを相続した場合、「売却して現金化するか」「継続して経営するか」は相続人の数や家庭の事情によって判断の分かれるところでしょう。本稿では、収益不動産の相続対策に関する3つのポイントについて考えます。

目次

  1. 1.収益不動産を相続するメリット3つとデメリット3つ
    1. 1-1.収益不動産を相続するメリット3つ
    2. 1-2.収益不動産を相続するデメリット3つ
  2. 2.相続税対策に適している収益物件とは?
    1. 2-1.都心にある物件
    2. 2-2.土地だけでなく建物がある「貸家建付地」
  3. 3.収益不動産相続の際の注意点
    1. 3-1.遺産分割の際の注意点
    2. 3-2.生前贈与活用の注意点
    3. 3-3.売却時の注意点
  4. 4.まとめ

1.収益不動産を相続するメリット3つとデメリット3つ

収益不動産,相続対策
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収益不動産を相続するメリット・デメリットを確認します。

1-1.収益不動産を相続するメリット3つ

(1)現物資産の売却益(キャピタルゲイン)が手に入る
現物資産であるマンションなどの収益不動産は、購入したときの物件価格よりも売却額のほうが高い場合に売却益(キャピタルゲイン)を得ることができます。また、考え方によってはローン残債よりも売却額が多いケースも利益を得ると考えることもできます。複数の相続人がいる場合、不動産は分割することが難しいため、売却したうえで現金化して均等に分ければ遺産分割しやすい点がメリットです。

(2)家賃収入(インカムゲイン)が手に入る
相続した不動産を売却せずに賃貸経営を続けて家賃収入を得ることも可能です。相続した収益不動産が満室かつ盛況であれば継続したほうが安定した収入を確保できる点で生活の安定につながります。例えば「相続人が配偶者のみで老後の生活に不安がある」という場合は、売却よりも賃貸経営が適しているといえるでしょう。

(3)相続税を抑えられる
現金ではなく現物不動産で相続したほうが相続税を抑えられるというメリットがあります。なぜなら現金より現物不動産のほうが評価額が低くなるからです。現金は額面の100%の評価額ですが、土地であれば路線価をもとに約80%、建物も貸家の場合は固定資産税評価額の約70%に評価が下がります。そのため現金を不動産化しておいたほうが節税になるといわれているのです。

さらに「小規模宅地等の特例」制度が利用できればより多く節税できる場合があります。その減額率は、以下のように規定されているので押さえておきましょう。

  • 特定居住用宅地等は330平方メートルを限度に80%
  • 特定事業用宅地等は400平方メートルを限度に80%
  • 貸付事業用宅地等は200平方メートルを限度に50%

1-2.収益不動産を相続するデメリット3つ

(1)相続税の支払い義務が必ず生じる
基礎控除額を超える評価の収益不動産を相続した場合は、相続税の支払い義務が生じます。相続税は現金で納付することが必要です。そのため他の相続財産に現金や有価証券がなければ自分の預貯金などを取り崩して支払うことになります。現金がない場合は、相続した不動産を売却することも検討しなければなりません。

(2)相続人の間でトラブルになる可能性がある
遺産相続で気を付けたいのは、複数の相続人がいる場合、遺産の分け方でトラブルになる可能性があることです。遺産分割には下記で紹介する4つの方法がありますが、いずれも一長一短があります。可能な限り被相続人の生前に遺産分割について話し合っておくことで、スムーズに遺産分割協議を進めることができるでしょう。

(3)不動産所有に関わる税金が毎年発生する
不動産を相続すると所有しているだけで毎年発生する「固定資産税」と「都市計画税」があります。評価額が高い不動産の場合は、それなりに負担になるでしょう。固定資産税は固定資産評価額の1.4%、都市計画税は0.3%(東京都の場合)です。ただし確定申告の際には必要経費(租税公課)として計上することができます。

2.相続税対策に適している収益物件とは?

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相続税対策に適している収益物件について確認してみましょう。不動産には多様な物件がありますが、相続税対策に適している収益物件は次の通りです。

2-1.都心にある物件

都心にある物件は人気があり価格も高めです。「市場価格」と「相続税評価額」の乖離が大きくなる傾向があるため、節税につながりやすいといえます。特に人気が高いといわれているのが「タワーマンション」「1棟RC造マンション」「区分所有オフィス」などの物件です。

2-2.土地だけでなく建物がある「貸家建付地」

貸家建付地とは、自分の土地に賃貸用の建物を建てて第三者に貸し付けている場合の土地のことです。貸家建付地の相続税評価額は、自分が住む場合よりは低く評価することができます。貸家建付地として認められるためには、以下の2つの要件を満たすことが必要です。

  • 土地の上に建物が建っていること
    駐車場など建物が建っていない土地は対象外となります。

  • 貸家の賃料が世間相場並みであること
    無償での貸し付けは対象外となり相場より安い場合も認められないことがあります。

3.収益不動産相続の際の注意点

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収益不動産を相続する際は、次のような点に注意する必要があります。

3-1.遺産分割の際の注意点

いくら優良な資産を次世代に遺したとしてもそれが原因で親族間がもめてしまっては本末転倒です。そのため生前に遺産分割についても対策を立てておく必要があります。複数の相続人で収益不動産を相続する4つの方法の注意点は以下の通りです。

(1)現物分割
現物分割は、相続財産をマンションはA、有価証券はB、現金はCというように分けて分割する方法です。この方法では、財産の種類によって価値に差があるため、不公平感から話し合いがまとまりにくいというデメリットがあります。可能な限り公平に近づける努力が必要です。

(2)代償分割
代償分割は、不動産のように分割が難しい財産を相続する人が、その価値に見合った現金を他の相続人に渡す方法です。この場合、不動産を相続する人が現金を工面できなければ成立しません。また代償分割を行う場合は、遺産分割協議書に記載しておくことが必要です。記載がないと受け取る金額によっては、贈与税を課税される恐れが生じます。

(3)換価分割
換価分割は、相続する不動産などを売却して他の相続人に見合った比率の現金を渡す方法です。実際に売った金額が分かるため、相続人へ公平に相続分を割り当てられることがメリットといえます。ただし故人が遺した物件を失うことになるため、賃貸マンションで満室盛況の場合は十分な検討が必要です。

(4)共有
相続人が複数いる場合に所有権を持ち分登記して共有する方法です。

ただし、不動産の共有はできるだけ避けたほうが賢明といえるでしょう。なぜなら生活環境などの違いによって不動産収入を継続して得たいと考える相続人もいれば、土地・建物を売却して現金を手にしたいと考える相続人もいるからです。このような場合には相続人間でもめごとが起きる可能性があります。

例えば共有名義にした相続人が亡くなった場合、2次相続が発生するため、相続人が増えてしまい不動産をどう運用していくかの同意が取りにくくなることもあり得ます。また相続人が兄弟や親子間から甥や姪などにも至るため相続人間の関係が希薄となるため不動産を巡って争いが起きてしまうことが懸念されます。

このような点から不動産の共有はせずに、一人の相続人に1物件を相続させることが、次世代にとっても良い方策といえるでしょう。

3-2.生前贈与活用の注意点

相続によって財産を残す他に贈与によって生前に財産を次世代に引き継ぐことも可能です。贈与には毎年行える「暦年贈与」と、2,500万円までは相続開始までは無税で贈与が行える「相続時精算課税」の2種類があります。暦年贈与の場合、毎年不動産の持ち分を少しずつ贈与し所有権を移転させ、数年かけて次世代に引き継ぐイメージです。

贈与時には登録免許税・不動産取得税・登記費用などがかかりますので、これらの費用負担をしても有効な方法なのかどうかを検討する必要があります。相続時精算課税の場合は、2,500万円を超える部分に20%の贈与税がかかり相続時には贈与した財産を含めて相続税の計算が行われますが相続財産としての評価額は贈与時の価額です。

そのため不動産の値上がりによる相続財産の増加を防ぐことができます。贈与が完了すればその後の賃料収入は次世代の財産となり賃貸経営や管理を早めにはじめられるという点がメリットです。なおいずれの贈与の場合も他の財産を含めて生前に贈与を行った場合と相続時に財産を引き継いだ場合の税負担を試算・比較をして、より有利な方法で進めていくことが大切となります。

3-3.売却時の注意点

(1)売却のメリット
売却するメリットは、現金化することで複数の相続人がいる場合、公平に分けやすくなることです。売却すれば賃貸管理の手間もなくなります。相続人の年齢にもよりますが、住まいと賃貸物件が遠距離で管理が困難な場合は売却も有効な選択肢です。

(2)売却のデメリット
デメリットは、売却してしまうと賃貸経営のような定期的な安定収入がなくなることです。売却した場合は仲介手数料や不動産所得税、住民税の支払いが生じます。またローン残高によっては売却金から返済したときに思ったほど手元に残らない場合があることもデメリットです。

(3)売却するならやっておくべきこと
売却の大前提としてローン残債額より物件売却額のほうが多くないと抵当権を抹消できないため売ることができません(現金や借り替えローンなどで補てんすることも可)。まずは不動産会社に物件の査定をしてもらいましょう。査定の結果、売却予想額のほうが多ければ売却することが検討できるため、不動産会社と売却時期や売り出し価格を相談します。

査定は複数の不動産会社に依頼するのが高く売るコツです。売却時期に関しては、通常販売期間が約3ヵ月、引き渡しまでに約1ヵ月といわれていますので余裕をみて4ヵ月程度に設定することが必要でしょう。用意する書類としては、アパート・マンションの場合は購入したときのパンフレットや管理規約、使用細則などを買い主に渡さなければなりません。もし紛失してしまった場合は不動産会社にその旨を伝えます。

4.まとめ

アパート・マンション経営に関する相続対策の3つのポイントは理解できたでしょうか。相続にはさまざまなメリット・デメリットがあります。そのため生前に遺産分割をどうするかについて十分話し合っておくことが重要です。あらかじめ方法を知っておくことで、より一層まとまりやすい方法を選択でき相続のトラブル回避につながります。

また生前贈与を選択肢の一つとして検討するのもよいでしょう。物件を売却する場合についてもいくつかの注意点があるため、事前に把握しておくことが大事です。物件を売らずに賃貸経営を引き継ぐ場合は、共有は運営が難しいため、できれば一人の相続人が受け継いだほうが無難です。せっかく故人が遺した財産ですので満室盛況なら賃貸経営を引き継ぐのが理想といえるでしょう。

アパート・マンション経営は、現在の収益を生むだけでなく次の世代へ優良な資産を遺すことができます。今後の経営と合わせて次世代へ引き継ぐための方策も考えてみてはいかがでしょうか。

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