脱窒素住宅・ZEH
(画像=slavun/stock.adobe.com)
本間貴志
本間貴志
ビジネス書に特化した編集会社のサラリーマン・ライターを経て、資産運用や税務の分野を専門とするライターとして活動。自主管理で賃貸経営をする不動産投資家の顔も持つ。

賃貸オーナーや不動産投資をはじめたい人にとって「脱炭素」は、今後のビジネスに関わる重要テーマです。なぜなら、賃貸経営に「脱炭素」をうまく組み込めば、まとまった助成金を得られ、さらに高稼働率を実現しやすいからです。ここでは、「脱炭素 賃貸住宅の背景」と「脱炭素 賃貸住宅の助成金」を中心に解説していきます。

ZEHとは「エネルギー収支をゼロ以下にする家」のこと

はじめに「ZEH(読み方はゼッチ、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称)とは何か」を理解しておくと、「脱炭素 賃貸住宅の助成金」の理解がスムーズになります。

経済産業省ではZEHの意味を「エネルギー収支をゼロ以下にする家」と解説しています。これはどういうことでしょうか。

今までの住宅では、エネルギー(主に電気やガスなど)の収支はマイナスでした。なぜなら、住宅では使うエネルギーを自ら生み出せなかったからです。当然ながら電気を使った分、収支はマイナスになります。とくに真夏や真冬は冷暖房費がかさむのでマイナスが大きくなります。高断熱仕様になっていない昔の家だと、さらにマイナスが大きくなります。

これに対してZEH対応の住宅では、次の3つを組み合わせて、1年間で見たときにその住宅で使うエネルギー収支をゼロ以下にするというものです。

  • 住宅自らエネルギーを創れる「太陽光発電」
  • 冷暖房や給湯などの光熱費を削減する「高効率な設備・システム」
  • エネルギーを逃がさない「高断熱仕様」

脱炭素住宅(ZEH対応住宅)が注目される背景とは

次に、ZEHを賃貸ビジネスでうまく活用するために、「政府がZEHを重視するようになった流れ」も知っておきたいところです。

2014年の「エネルギー基本計画」でZEH普及が目標になった

もともとZEHは「新たな省エネの仕組み」として、2008年前後からアメリカで注目されはじめたようです。

日本では2014年4月、「エネルギー基本計画」が閣議決定し、「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」ことが決められました。これに基づき、経済産業省は「ZEHロードマップ」を作成し、普及が進められました。

もちろん、ZEHの素晴らしさを訴求してもZEHの住宅は増えません。国は助成金をつけるなどのベネフィットを設定することでZEHの普及を後押ししました。

2020年の「グリーン成長戦略」でZEHの注目度が高まった

その後、ZEHの注目度が一気に高まる出来事が起きました。2020年10月に菅総理が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言したのです。

さらに政府は2020年12月25日、温暖化ガス排出ゼロを目指すためのロードマップ「グリーン成長戦略」を発表しました。ここでとくに成長が期待されるとされた14分野のうちのひとつが「住宅」です。2030年までに「新築の温暖化排出量で平均ゼロを目指すこと」が掲げられました。

つまり、「ZEHロードマップ」で計画したことが、国の大きな方針としてより明確になったというわけです。

グリーン成長戦略の「新築の温暖化排出量ゼロ」は賃貸住宅も含まれる

賃貸経営オーナーにとって大きいのは、ZEHの助成金には賃貸住宅も含まれていること、政府が発表した「グリーン成長戦略」のなかの「新築の温暖化排出量で平均ゼロを目指す」には賃貸住宅も含まれるという点です。

グリーン成長戦略の中身を見ると、ZEHの賃貸住宅版「ZEH-M(ゼッチ・マンション)」が工程表に組み込まれていることがわかります。具体的には、2021〜2025年の「ZEH-Mの実証」の部分です。

脱窒素住宅・ZEH
(引用:内閣官房「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」)

ZEH−M補助金の「補助金額」「スケジュール」「施工業者」

賃貸オーナーが一番気になるのは、具体的にZEH-Mに対応するアパートやマンションを建てると、どれくらいの助成金を得られるかということでしょう。ここでは「低中層ZEH−M補助金」をもとに解説していきます。

補助金額は1戸あたり50万円プラスアルファ(上限3億円)

「低中層ZEH−M補助金」の要件は数多くありますが、概要については下記のイラストを参考にするとわかりやすいです。このような機能を備えた住宅が「低中層ZEH−M補助金」の対象になります。

脱窒素住宅・ZEH
(引用〈画像〉:環境共創イニシアチブ「2021年の経済産業省と環境省のZEH補助金について」)

上記のような「低中層ZEH−M」に対応する賃貸住宅を建てた場合の補助金額は次の通りです。

  • 1戸あたり50万円(上限: 3億円)
  • 蓄電システム(定置型)を設置すると1kWhあたり2万円など
    (参考:環境共創イニシアチブ「令和3年度」低中層ZEH−M促進事業)
    ※補助金の実施や金額などについては年度によって異なる可能性があります。

低中層ZEH−Mの補助金についての注意点は3つあります。1つ目は、50万円という補助金は一棟あたりではなく、一戸あたりの設定という点です。とくに戸数が多い賃貸物件はまとまった補助金が得られます。

2つ目は、ZEH−M補助金は原則、単年度の補助金(上限3億円)ということです。ただ単年度で事業が完了できないときは複数年事業として認められる可能性もあり、その場合は上限額が6億円となります。

3つ目の注意点は「審査採択方式」ということです。これは審査件数が予算額をオーバーした場合、審査を経て採択案件を決定するというものです。オーナーが補助金を受けられたら賃貸住宅を建てると考えている場合、業者にその意思をはっきり伝えるのが無難でしょう。

スケジュールは5月から公募開始、7月以降実施の流れ

補助金の申込み・審査・実施のスケジュールについては、その年によって違うと思いますが、「2021年 低中層ZEH−M補助金」のスケジュールは次の流れになっています(単年度の場合)。

  • 公募期間:2021年5月10日から6月3日
  • 交付決定:2021年7月上旬(予定)
  • 事業期間:2021年7月上旬〜2022年1月21日
  • 完了実績報告書提出:事業完了後30日以内、または2022年1月28日
    (参考:環境共創イニシアチブ「令和3年度」低中層ZEH−M促進事業)

次年度以降も、制度が大きく変わらなければ上記に近いスケジュールと考えられます。これからZEH−M補助金を利用したい人は、このタイムスケジュールを意識しながら融資や業者との調整を進めるのがよいでしょう。

ZEH−M対応住宅は登録デベロッパーに施工を依頼するのがポイント

具体的に、「低中層ZEH−M補助金」の要件にあてはまるアパートやマンションを建てるには、ZEH補助金の窓口である環境共創イニシアチブに「ZEHデベロッパー」として登録されている業者に依頼しなくてはならないという決まりがあります。

なお、令和2年度事業で登録されているZEHデベロッパーは、大手のハウスメーカーや不動産会社が中心です。一部、地域密着型の工務店も登録されています。一例では次のような会社です。

 旭化成ホームズ
 大東建託
 東京建物
 大和ハウス工業
 大京
 積水ハウス など
 ※登録番号順

最新のZEHデベロッパーについては、環境共創イニシアチブ公式サイトをご参照ください。

建設から解体までのスパンでCO2削減を目指す賃貸住宅も

上記の「ZEHデベロッパー」に登録している業者が、ZEH−Mに対応する商品を販売・企画しているケースもあります。たとえば、太陽光発電を組み込んだ住宅を得意にするセキスイハイムではZEH−Mに対応した仕様の賃貸住宅「レトアAZ」を販売しています。

現段階のZEH−Mに対応の賃貸住宅は、「レトアAZ」のように高断熱・太陽光発電・省エネシステムを組み合わせた企画が中心ですが、最近ではさらに広い視点でCO2削減を目指す賃貸住宅も登場しています。

大東建託は2021年3月、「日本初」の「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)賃貸集合住宅」を発表しています。これはZEHに対応しつつ、建設から解体までのトータルの二酸化炭素排出量をマイナスにする賃貸住宅です。

脱窒素住宅・ZEH
(引用〈画像〉:大東建託プレスリリース)

持続可能な社会を目指すSDGsが重視される時代にあって、競合のハウスメーカが同様の商品企画を打ち出してくる可能性も考えられます。

ZEH−M対応の賃貸住宅を建てるなら、早いタイミングのほうが有利

ZEH−M対応の賃貸住宅は、補助金を得られるだけでなく「光熱費の安さ」によって競合物件との差別化ができます。ただし国が計画した通り、新築の賃貸物件のスタンダードがZEH−Mになればアドバンテージが薄れる可能性もあります。

その意味では、もしZEH−M対応の賃貸住宅を建てるなら、早いタイミングのほうが有利ともいえるでしょう。

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