マンションの修繕工事のために専有部分に立ち入ることができる?
宮川敦子
宮川敦子
弁護士(東京弁護士会)|慶應義塾大学法科大学院修了。不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務など多岐の分野に携わる。

【相談】マンションの修繕工事に際して、専有部分への立入りを拒絶する区分所有者がいる場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

私は、マンションの管理組合の役員を務めています。

マンションの排水管において、水漏れが生じている箇所が発見され、専門業者に調査を依頼したところ、排水管の老朽化がかなり進んでおり、早急に大規模な修繕工事が必要であることが分かりました。

その工事を行うためには、各区分所有者の専有部分への立入りが必要であるため、管理組合より各区分所有者へ丁寧に説明を行い、立入りの承諾を得るよう努めてきました。

ほぼ全ての区分所有者の承諾を得ることができたのですが、ただ一人、頑なに立入りを拒絶している区分所有者がいます。

そのため、管理組合は、修繕工事を開始することができないでいます。

立入りを拒絶している区分所有者の専有部分へ立入ることができる方法はないのでしょうか。

なお、マンションの管理組合の規約は、国土交通省が作成したマンション標準管理規約を使っています。

【回答】修繕工事の必要性があると判断され、かつ、その必要性等を考慮した上で、各区分所有者の負担や不利益が受忍限度の範囲内であると判断されれば、専有部分への立入りが認められ得ます。

修繕工事の必要性があると判断され、かつ、その必要性等を考慮した上で、各区分所有者の負担や不利益が受忍限度の範囲内であると判断されれば、管理組合による各区分所有者の専有部分への立入りが認められ得ます。

【解説】

専有部分への立入りが許されるか?

(1)法律上の規定等はどうなっているのでしょうか。

排水管の工事、外壁の塗装工事、バルコニーの防水工事等は、各区分所有者の専有部分やバルコニーに立ち入らなければ、容易に工事を行うことができないことがあります。

このような場合において、専有部分への立入りを拒絶する区分所有者が一人でもいたとすると、管理組合は工事を行うことを断念しなければならないのでしょうか。

この点に関して、区分所有法において、次のように規定されています。

区分所有法6条2項
区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。

区分所有法6条2項は、各区分所有者に対し、必要な範囲内で他の区分所有者に専有部分等を一時的に使用させることを受忍する義務を課しています。

また、マンション標準管理規約においては、次のように規定されています。

マンション標準管理規約23条
1 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる。
2 前項により立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。

マンション標準管理規約23条では、管理組合等は、必要な範囲内でマンションの修繕工事を行う場合、各区分所有者の専有部分に立ち入らせてもらうことを請求できると規定しています。

(2)区分所有者が拒絶している場合、判決を取る必要があります。

上記の立入り請求権の規定があるからといって、管理組合が各区分所有者の専有部分に当然に立ち入ることができるわけではありません。

立入りを拒否する区分所有者がいる場合、管理組合は、立入りを認める判決を得た上で、立ち入らなければなりません。

以下において、同様の事案の裁判例をご紹介いたします。    

(3)裁判例の紹介

以下の東京地裁平成27年3月26日判決では、管理組合が行う大規模修繕工事について、各専有部分への立入りが許されるか否かが争われ、結論としては立入りが許されました。

【事案の概要】
マンション管理組合は、各区分所有者に対し、マンションの大規模修繕工事の計画内容を説明し、専有部分への立入りの承諾を得るように努め、被告以外の区分所有者からは全て承諾を得ていました。
マンション管理組合は、再三の説得にもかかわらず承諾しない被告に対し、専有部分に立入り使用する権利を有することの確認、工事を妨害しないことを求めて、訴訟を提起しました。
なお、当該マンションの管理規定には、上記のマンション標準管理規約23条と同様の規定が置かれていました。

【判断の内容】
まず、裁判所は、「本件マンション全体の排水管構造は、」「腐食、減肉が認められるなど、早急な修繕が必要」な状況等から、「本件各工事は、本件マンションの共用部分の保守、修繕のために必要な工事であり、原告が同工事のために必要な範囲内において」「立入等を求めることには正当な理由がある」と工事の必要性を認定しました。
そして、「共用部分の修繕のために必要な工事であり、かつ、復旧工事により原状回復が予定されていることを考慮すると、その負担又は不利益は、本件マンションの区分所有者としては受忍限度の範囲内に止まる」と認定し、原告の請求を全て認容しました。

【事案の概要】
マンション管理組合は、各区分所有者に対し、マンションの大規模修繕工事の計画内容を説明し、専有部分への立入りの承諾を得るように努め、被告以外の区分所有者からは全て承諾を得ていました。
マンション管理組合は、再三の説得にもかかわらず承諾しない被告に対し、専有部分に立入り使用する権利を有することの確認、工事を妨害しないことを求めて、訴訟を提起しました。
なお、当該マンションの管理規定には、上記のマンション標準管理規約23条と同様の規定が置かれていました。

【判断の内容】
まず、裁判所は、「本件マンション全体の排水管構造は、」「腐食、減肉が認められるなど、早急な修繕が必要」な状況等から、「本件各工事は、本件マンションの共用部分の保守、修繕のために必要な工事であり、原告が同工事のために必要な範囲内において」「立入等を求めることには正当な理由がある」と工事の必要性を認定しました。
そして、「共用部分の修繕のために必要な工事であり、かつ、復旧工事により原状回復が予定されていることを考慮すると、その負担又は不利益は、本件マンションの区分所有者としては受忍限度の範囲内に止まる」と認定し、原告の請求を全て認容しました。

上記のとおり、裁判所は、工事の必要性や各区分所有者の負担・不利益等が受忍限度内であるかを丁寧に認定した上で、管理組合による立入りを認める判断をしています。

本件について

本件では、現にマンションにおいて水漏れが生じている状況や専門業者による調査結果を踏まえると、排水管の修繕工事の必要性は高いものと考えられます。

そして、工事内容が各区分所有者に過大な不利益や負担を課すものではなく、各区分所有者の受忍限度の範囲内であると言い得る場合には、各区分所有者の専有部分への立入りは認められることになります。

ただし、立入りを拒絶する区分所有者に対しては、管理組合が専有部分に立入り使用する権利を有することを確認し、修繕工事を妨害しないことを求めて、訴訟を提起する必要があります。

本記事は不動産投資DOJOの転載記事になります。
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