慶應義塾大学法科大学院修了。不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
【相談】貸し出している物件で害虫が発生し、賃借人から損害賠償を請求されています。賃貸人が損害賠償責任を負うことはあるのでしょうか。
私は、商業ビルを1棟所有しており、そのうち1室は事務所として貸し出しています。
その賃借人から、この夏、事務所において、コバエが大量に発生するようになっており、事務員も気持ち悪がって仕事にならないのでなんとかしてほしいとの連絡がありました。
業者を呼んで、1回、コバエを駆除する作業をしてもらいましたが、いまだにコバエは発生しているとのことです。
その賃借人からは、今後も状況が変わらないのであれば、被った損害を賠償してもらうとも言われております。
1回、駆除作業を行っても、状況が変わらない以上、どのような措置を取ったらよいかも分からず、困っています。
私は、何らかの損害賠償をしなければならないのでしょうか。
【回答】①害虫発生の程度、②賃貸人の被った損害の内容・程度、③賃貸人が取った対応の内容・程度等を考えて、状況によっては、賃貸人は、賃借人が被った損害を賠償する義務を負います。
害虫発生の原因が対象建物にある場合には、賃貸人は、害虫発生を防止する義務を負います。
①害虫発生の程度、②賃貸人の被った損害の内容・程度、③賃貸人が取った対応の内容・程度等を考えて、状況によっては、賃貸人は、賃借人が被った損害を賠償する責任を負うことになります。
【解説】
使用収益させる賃貸人の義務
賃貸人は、賃借人の使用目的に従って、平穏に使用できる状況を保持しなければなりません。
そして、賃借人が対象物件を使用するに際して、騒音や悪臭などの障害があれば、その障害を除去しなければなりません。
対象物件において、害虫が発生した場合には、その程度にもよりますが、害虫発生の原因を調査して、その除去をすることになります。建物そのものに害虫の発生原因がある場合には、建物を修繕するなどして害虫の発生を防止する必要があります。
かかる義務に違反した場合は、賃貸人に債務不履行があったとして、損害賠償責任を負う可能性があります。
裁判例のご紹介
賃貸人は、適切に使用収益させる義務を負いますが、賃貸人に不可能を強いるものではありません。
対象物件において、害虫が発生した事案において、賃貸人の債務不履行責任を認めたものと、認めなかったものがありますので、それぞれご紹介いたします。
債務不履行責任を認めた裁判例(東京地判平成24年6月26日)
【事案の概要】
賃借人であった原告は、テレマーケティング業務を行う事務所として、対象物件を借りていました。対象物件においてコバエが大量に発生するようになり、原告は、コバエの侵入を防ぐための対応に追われて業務に集中できず、外部から来た客にも迷惑を掛けるなどの事態が継続していました。
なお、賃貸人であった被告は、コバエの発生の都度、消毒などに努めていたという事情があります。
【判断の内容】
「本件建物では一定期間コバエが発生し、その主たる原因も本件建物の本件汚水槽の機能や構造にあったと認められるところ、」「そのコバエの発生期間中、従業員が不快感を持つとともに、事務に集中できないなどの支障も生じたほか、コバエ対策のため総務担当の事務員がゴミの処理について従業員に注意を促す広報に従事するなど余分な事務が増え、さらには、外部からのコバエ侵入を防ぐ趣旨で窓を開けられないとか、外部から来た客の不快感に苦慮するなど、本件賃貸借契約の目的に沿った原告の利用が一定程度妨げられる事態が生じていたことが認められるのであるから、本件賃貸借契約上の債務に不履行があったというほかない。」
上記のとおり判示し、被告である賃貸人の債務不履行責任を認めました。
この裁判例においては、害虫の発生の程度が大量かつ比較的長期に渡ったこと、害虫対策に追われて相当程度、賃借人の業務に支障が生じたこと等が重視されました。
債務不履行責任を認めなかった裁判例(東京地判平成25年12月25日)
【事案の概要】
賃借人であった原告は、対象物件においてネイルサロンを営業していたところ、そこでチョウバエが発生するようになりました。
賃貸人であった被告は、害虫駆除の専門家である業者に依頼して、駆除を行わせ、また、管理会社に配管調査まで行わせましたが、チョウバエの発生源をうかがわせる具体的な兆候はありませんでした。
【判断の内容】
「賃借人たる被告会社が建物を使用収益するのに支障がないようにするため、一定の限度で害虫駆除の義務を負うべきものといえ、もとより完全駆除を達成できることが望ましい。しかしながら、当該義務は不可能を強いるものではないというべきである。」
「管理会社による調査の結果、漏水等のチョウバエ発生源をうかがわせる具体的兆候が発見されなかったという状況のもとでは、それ以上の専門業者による配管の調査等を行うべき義務があったとまではいえない。」「発生源の特定と除去に至らなかったという結果をもって、対応が不十分であるということもできない。」
上記のとおり、判示して、賃貸人の債務不履行責任を否定しました。
この裁判例においては、賃貸人が原因の調査や駆除を行う等して相当程度の努力をしたこと、結局、害虫の発生原因が不明であったこと(対象建物自体の瑕疵であると必ずしも言えないこと)が重視されました。
賃貸人が害虫駆除に関して債務不履行責任を負うか否かの判断に際しては、①害虫発生の程度、②賃貸人の被った損害の内容・程度、③賃貸人が取った対応の内容・程度等が考慮されることになります。
本件について
本件についても、まず、業者に依頼する等して、害虫の発生の原因を調査していただく必要があります。
仮に、害虫の発生原因が賃借人の使用態様に起因するのであれば、害虫駆除の義務を負うのは賃貸人ではなく、賃借人になります。
害虫発生の原因が対象建物にある場合において、対象物件において害虫の発生の程度が、賃借人の業務に支障を来たす程度であれば、賃貸人が損害賠償責任を負い得ます。
早急に、専門業者に依頼する等して、原因に応じて害虫を除去する措置を取っていただく必要があります。
本記事は不動産投資DOJOの転載記事になります。
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