「遺留分侵害額請求権」は賃貸事業にどう影響する?
(画像=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

民法改正によって、遺留分の請求に関する事項が変更されました。今年7月1日から、「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」になったのです。今回は、この変更が賃貸事業に与える影響について解説します。

民法改正で今年7月から「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」に

民法の相続に関する部分(いわゆる「相続法」)の改正が話題になっています。この改正で、遺留分減殺請求に関する変更がありました。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保証される遺産取得割合のことです。被相続人が生前贈与や遺言で特定の相続人にのみ過度に財産を与えることで、他の相続人の遺留分が侵害された場合、民法では遺留分が認められる相続人が侵害者に対して遺留分を取り戻す請求を行うことを認め、相続人間の平等を図るようにしています。

これまでこの権利は「遺留分減殺請求権」とされていましたが、相続法改正により今年7月1日から「遺留分侵害額請求権」に変更されました。主な変更点は、以下の2つです。

変更点①:請求できるのは金銭のみ

遺留分減殺請求権は、遺留分そのものを取り戻す権利です。そのため、現預金だけでなく動産や不動産などについても権利を行使できます。

これに対して遺留分侵害額請求権は、侵害額に相当する金銭的な補償を侵害者に求める権利です。よって請求・取得できるのは金銭だけで、不動産の共有持ち分を請求したり、不動産の処分禁止を求めたりすることはできません。

変更点②:生前贈与については相続開始前10年間に限定

遺留分請求の対象となる生前贈与は、被相続人が生前に行った特定の相続人への特別受益となる贈与です。法改正前は、請求の対象となる生前贈与の期間が定められていませんでした。たとえば、相続開始の30年前に行われた生前贈与についても遺留分を請求することができたのです。

法改正後、生前贈与による特別受益については、相続開始前10年間に行われたものについてのみ遺留分を請求できることになりました。

なお、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に変更になっても、時効と除斥期間に変更はありません。「相続開始」「遺留分を侵害する遺言・贈与」があったことを知った日から1年以内に権利行使をしない場合、請求権が消滅します。また請求権を行使しても相続開始から10年が経過すると、裁判途中でも請求が棄却されます。

賃貸事業への影響

相続法による遺留分請求権の変更は、不動産賃貸事業に以下のような影響を与えると考えられます。

影響①:不動産の共有を回避できる

遺留分減殺請求権の対象には不動産の持分も含まれているため、遺留分請求が認められると、その賃貸不動産は請求者と侵害者によって共有されます。

共有不動産の賃貸事業では、基本的に賃貸の契約・解除やリフォーム、解体などといった法律行為について、共有者全員の合意が必要になります。つまり、共有不動産では共有者同士の関係が良好でないと、賃貸事業が阻害されるおそれがあったのです。

これが遺留分侵害額請求権になり、請求の対象が金銭のみになったことで、賃貸不動産の持分を譲る必要がなくなりました。その結果、不動産オーナーはスムーズに賃貸事業を行えるようになったのです。

影響②:家賃という果実を得られなくなる

不動産の共有を防げるようになったことは、不動産の所有者にとってはプラスで、遺留分を侵害された相続人にとってはマイナスです。賃貸不動産の持分を請求できないということは、不動産から継続的に発生する家賃を得られないことを意味するからです。

賃貸不動産において、相続や贈与の対象となるのはあくまでも不動産という財産であり、家賃や更新料など、賃貸不動産から発生する「法定果実」は対象となりません。法定果実は、それを生む財産の所有者のみが得られるものです。この事実は、法改正による遺留分請求にも影響を与えています。

法改正前ならば、遺留分減殺請求により持分の一部を請求・取得することができたため、持分取得に伴って生じる継続的な家賃収入も見込むことができました。しかし法改正後は、遺留分侵害額請求の対象となるのは一時的な金銭に限られています。

そのため、遺留分を侵害された側が生活資金として賃貸不動産から生ずる家賃収入を期待していた場合、遺留分侵害額請求権を行使してもその後の生活に窮する可能性が高くなります。

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