自称「日本一フリーランスに優しい税理士」の大河内薫さんは、高年収フリーランスの多様な実例に、確定申告や税務調査を通じて触れている。前編・中編では、フリーランスが抱きやすい税の誤解について、トピックごとに紐解いていった。

後編では、法人化のタイミングやインボイス制度対策について考える。年収1000万円に手が届くフリーランスの多くは、「フリーランス継続か、法人化か」という二択で悩むだろう。納税額の損得も、選択の判断基準の一つだ。

年収1000万円に達してなおフリーランスで居続けることのメリットとは。法人化すると変わることは何か。税理士の観点から、大河内さんに聞く。

(取材・宿木雪樹 / 写真・大口葉)

▼前回の記事はこちら
年収1000万円になったら知っておきたい税務調査のあれこれ【大河内薫さんに聞く・中編】

お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!
大河内薫さん
最新メディアやSNSでの発信が得意な税理士。Twitterフォロワー6.7万人超、YouTubeチャンネル登録者26万人超(1月29日時点)。日本では稀な芸術学部出身の税理士として、クリエイターやアーティストを熱烈支援。芸能・クリエイター特化型税理士事務所を経営。スーツ着ずに税知識をカジュアルに発信がモットーで「お堅い、まじめ」などの税理士イメージの打破を目指す。著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(SANCTUARY BOOKS)は14万部超のベストセラー。
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フリーランスが法人化するメリットは信用度と売上の向上

フリーランスの資本家思考
(写真=大口葉撮影、ZUU online編集部)

――税理士の観点から見て、フリーランスが法人化することのメリットはありますか?

節税よりもクライアントワークの信用度と売上を高めるメリットが大きいです。

例えば、フリーランスとの取引が難しい企業の仕事を請けるために仲介企業が入る場合、マージンが差し引かれるでしょう。このマージンがないだけで、年間どれほど利益が上がるでしょうか。その金額を具体的に算出してみれば、法人化するメリットが見えてくるはずです。

フリーランスとして法人同様の信用を獲得するためには、個人の名がブランドとなる“超一流”にならなければなりません。そういった人は極めて稀なので、法人化したほうが有利である場合が多いです。

――法人化を検討するタイミングの指標はありますか?

先述した対企業の信用度と、税金の悩みを掛け合わせて考えましょう。「そろそろ納税額が増えてきたな」と感じたら、法人化を検討する頃合いです。具体的な金額の目安としては、利益(売上から経費を差し引いた金額)が500〜600万円程度でしょう。

法人化が節税につながるかどうかは個々の現状によるので、税理士に気軽にご相談ください。法人化した場合の納税額をシミュレーションできます。

もし法人化してもフリーランス時代と変わらない納税額なら、先ほど述べたように法人化することによって収益が上がる可能性が高いので、法人化して損をする不安は捨てて良いでしょう。

――税理士はどのように見つけるべきでしょうか?

何を得意とする税理士なのかアピールする税理士が少ない現状ではありますが、SNSなどをチェックすると相性の良い税理士を見つけられるかもしれません。「スタートアップに強い」、「個人の税金に強い」といった看板を掲げる税理士を探してみましょう。

合同会社?株式会社?法人化の形態の選択

――合同会社と株式会社、フリーランスにとってはどちらの形態が良いのでしょうか?

よほど合同会社にこだわりがない限りは、株式会社がおすすめです。ふたつの法人を比較した場合、違いは設立当初の登録免許税のみ。設立にかかる費用の総額差は、およそ15万円程度合同会社のほうが安いです。納める法人税の計算方法は変わりません。

この15万円を節約するために合同会社を選ぶのならば、法人化する意義を再検討してみましょう。日本では株式会社のほうが合同会社に比べて信用度が高いため、信用度を高めるために法人化するならば株式会社一択でしょう。ただし、飲食店のように他の看板があり、会社名を全面に押し出して営業する必要がない場合は、合同会社でも問題ありません。

インボイス制度とフリーランス、2023年に向けた対策法

フリーランスの資本家思考
(写真=大口葉撮影)

――2023年にインボイス制度が導入されますが、フリーランスが事前に準備すべきことはありますか?

インボイス制度について考えるためには、前提として消費税について正しく理解しなければなりません。この記事で事前知識を含めた全てを語ることは難しいため、私のYouTubeチャンネルでインボイス制度について解説したこちらの動画をご覧ください。

前提条件をふまえたうえで、インボイス制度の対策方法はただひとつ、インボイス制度が気にならないくらいに稼ぐことです。つまり、2023年までに売上1000万円以上を目指しましょう。

――その条件をクリアできない人はフリーランスでいることが難しい……?

いいえ、そういうことではありません。インボイス制度が始まるとフリーランスが淘汰されるというニュアンスの情報がほうぼうで取り上げられていますが、これはあらゆる説明を省略した極めて一面的な情報です。

確かに免税事業者は納税額の面でデメリットが増えますが、それでも発注したいと感じる付加価値がそのフリーランスにあるのならば、企業が取引する理由は十分あります。また、継続取引のある企業であれば、報酬額を調整する交渉も可能でしょう。

多少発注額が増えてもその人を選びたいと思わせるフリーランスになることは、個としての価値を高めることにも直結します。

したがって、売上が1000万円に満たないフリーランスが、インボイス制度によって営業を続けるのが難しいと安易に決めつける必要はありません。

――最後に、フリーランスにとって税の知識とは何でしょうか?

フリーランスの仕事を攻守に分けるのならば、売上を上げることが「攻め」、確定申告に取り組むことは「守り」と捉えられます。いずれも欠けてはならない、自分自身の戦闘力に資するものなのです。この「守り」に対しておろそかにならないために必要なのが、正しい税の知識です。

とは言え、税について最新の知識を追い続けることは極めて難しいでしょう。自分の知らない情報を見ると不安になるかもしれませんが、専門家の執筆した書籍や税理士など信頼できるソースをもとに、自分なりの正解を見つけてください。その第一歩として、“フリーランス税本”が役立てれば幸いです。

フリーランスにとって税の知識は攻守の「守り」

フリーランスの資本家思考
(写真=大口葉撮影)

インボイス制度対策や法人化の必要性など、年収1000万円に届くフリーランスはさまざまな課題に直面する。それらと相対したとき、専門家による正しい知識をもとに対策を判断することが重要だ。

・利益500〜600万円程度を目安に、税理士に法人化の相談を
・法人化するなら株式会社、合同会社との設立差額はわずか15万円
・インボイス制度対策するなら2023年までに売上1000万円以上を目指すこと

税対策はフリーランスにとって「守り」である。「攻め」に力を注ぎ年収1000万円に到達した人であればこそ、「守り」も盤石にしたい。税理士と連携する、書籍に学ぶなどの方法を取りながら、自身にとって最善の確定申告、売上向上のためのキャリアプランを検討していきたいものだ。

(大河内薫さんインタビュー全3回、おわり)

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年収1000万円以上稼ぎ続けるための処世術とは?【山田竜也さんに聞く・前編】

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