不動産投資における物件売却のタイミングを考える
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丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

不動産投資では「保有している物件の売り時はいつなのか」という出口戦略も重要です。「物件売却のタイミング」を的確に判断することが不動産投資の成功につながります。ここでは物件売却のタイミングを見つけるための4つの視点について見ていきましょう。

目次

  1. 1.不動産投資の「成功」にかかわる売却タイミングを考える4つの視点
    1. 1-1.デッドクロス目前
    2. 1-2.大幅な出費が発生する直前
    3. 1-3.築年数が売却に有利なタイミングであるとき
    4. 1-4.売却によるキャピタルゲインが見込まれるとき
  2. 2.不動産売却のベストタイミングをはかる3つのポイント
    1. 2-1.市況から見る
    2. 2-2.季節から見る
    3. 2-3.税制から見る
  3. 3.不動産を売却するときの4つの注意点
    1. 3-1.投資物件の瑕疵(かし)担保責任を確認する
    2. 3-2.家賃滞納は精算する
    3. 3-3.ローン残債があるか確認する
    4. 3-4.安くても売ったほうがよいタイミングもある
  4. 4.まとめ

1.不動産投資の「成功」にかかわる売却タイミングを考える4つの視点

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(画像=Jirapong Manustrong/Shutterstock.com)

売り時を判断する際に大切なのは、「物件がふさわしい売却のタイミングにあるかどうか」です。「投資」というジャンルにおいて、「投資した金額を回収した金額が上回る状態」のことを「成功」と表現することができるかもしれません。投資を成功させるためには、「最も安価な時期」に購入し「最も高価な時期」に売却することが望ましいことです。しかし現実はなかなかそううまくもいきません。

なぜなら「最も高価な時期」は時間がたってみなければ分からないからです。では何を指標に売却時期を検討すればよいのでしょうか。主に以下の4つの視点から判断することができます。

1-1.デッドクロス目前

不動産投資は一定の節税効果(利益の圧縮)を見込むことができます。なぜなら減価償却費を経費にすることによって所得を低く抑えることができるからです。借入金の返済方法が「元利均等返済なのか」「元金均等返済なのか」によってそのタイミングは異なります。毎月の融資返済額の元金返済額と減価償却費の額が逆転することを「デッドクロス」と呼びます。

この「デッドクロス」直前は一つの売却時期といえます。毎月の融資返済額のうち元金については経費計上ができません。現金は支出しつつ経費計上できない元金よりも減価償却額が少ない場合、実際の収入よりも税務上の利益が大きくなり税負担が増加します。キャッフローが悪化しますのでその前に売却するのです。

1-2.大幅な出費が発生する直前

国土交通省の資料によると分譲マンションにおいては、約12年に1度の周期で大規模修繕工事を実施するのが一般的となっています。大規模修繕工事は、外壁タイルの補修やコーキング打ち替え屋上防水工事などがメインです。さまざまな工事を行うことによって投資物件の資産価値を保全する役目を担っています。

大規模修繕工事は数百万円~数千万円の大幅な出費が見込まれるでしょう。出費が発生する前に投資物件を売却することができれば大幅なキャッシュアウトを回避することができます。裏を返せば投資物件を選定する際は、その物件の大規模修繕工事の周期や履歴などを確認しておくことが賢明です。またエレベーターや機械式駐車場のリニューアル時期などもあわせて確認しておくことをおすすめします。

1-3.築年数が売却に有利なタイミングであるとき

不動産は築年数によって価値が変わります。住んでいるうちにどうしても劣化していくため、約5年単位で人気が変化していくといわれています。

(1)築5年未満
築5年未満の物件は新築と見た目がそれほど変わらないため、高い価格で取引される例も少なくありません。ただし5年ではローンの支払いもそれほど進んでいないため、売却額がローンの残債を下回る可能性があります。

(2)築10年未満
築10年未満の物件は、それほど大きな劣化がしていない割には5年未満よりも価格が低めのため、買い手の需要が多い年式です。価格は下がりますが、その分ローンの返済も進んでいるので差し引けば5年未満とそれほどコスパは変わらないでしょう。また税制面でも5年未満で売却すると「短期譲渡所得」として39.63%(復興所得税を含む)の税金が課せられます。

しかし5年以上では「長期譲渡所得」とみなされ20.315%(復興所得税を含む)と半分程度の税負担で済むのでたいへん有利です。まだ修繕費用もほとんどかからないので物件の築年数がこのラインなら売り時と判断してもよいでしょう。

(3)築10年以上
築10年以上になると中古のイメージが強くなり設備も劣化してくるので部分的には修繕も必要です。価格が下がったうえに修繕費用がかかるため、コスパが悪くなります。築15年以上になるとキッチンなど設備の入れ替えも必要になり20年以上では壁のクロスや床の張り替えなどリフォームが前提となるため、売却のタイミングとしてはやや遅いといえるでしょう。

30年以上になると建物の価値はほぼなく底値でしか売れなくなる可能性もあります。マンション売却の場合、理想は築6~10年ですが逆に30年以上経っている物件はローンの支払いが終わっているケースが多く赤字になる心配はないので「いつ売っても大丈夫」という点はメリットです。

1-4.売却によるキャピタルゲインが見込まれるとき

不動産価格が高騰している局面においては、購入したときの価格よりも売却したときの価格が上回るケースもあるでしょう。こうした場合は、キャピタルゲインを狙って投資物件を売却するのも一つの方法です。全額自己資本で購入した場合は計算が簡単ですが、ローンを組んで購入したケースでは、ローン残債や諸経費を支払ったうえで満足のいく金額が手元に残るかが判断の基準になります。

2.不動産売却のベストタイミングをはかる3つのポイント

不動産売却のベストタイミングをはかる3つのポイントについて確認してみましょう。

2-1.市況から見る

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(画像=Blue Planet Studio/Shutterstock.com)

最も重要なのは市況を見て判断することです。不動産価格は比較的安定していますが、それでも大きな出来事があれば変動することがあります。2008年のリーマンショックのような金融危機があれば一時的に下がりますが、そのようなときはあわてて売らずに市況の回復を待ったほうが得策です。逆に東京の不動産価格が上昇しているときは買い手が多いために高く売れる可能性があります。

2-2.季節から見る

不動産の需要には季節性があります。4月は新入学、新入社の季節で準備・引っ越しがある2~3月が最も不動産の需要が高くなる傾向です。したがって余裕を持てるのであれば閑散期に売らずに2~3月に向けて売却スケジュールを立てたほうが効率的といえます。

2-3.税制から見る

税制の区切りの年数を意識することも大切です。先述したように不動産は所有期間によって譲渡所得税率が変わります。その税率は、以下のように税率が変わることに注意しましょう。

  • 5年未満 所得税30.63%+住民税9%=39.63%
  • 5年以上 同15.315%+同5%=20.315%

例えば所有期間があと3ヵ月で5年以上になるといったタイミングであれば3ヵ月売却を待って低い税率で譲渡すれば節税になります。

3.不動産を売却するときの4つの注意点

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(画像=garagestock/Shutterstock.com)

売却するときに注意しなければならない4つの点について確認します。

3-1.投資物件の瑕疵(かし)担保責任を確認する

「シロアリによる被害が広がっていないか」「雨漏りが発生していないか」など、引き渡し後に瑕疵担保責任を問われるケースは少なくありません。場合によっては損害賠償責任を負うことも考えられるため、売却しようとしている物件に欠陥や不具合がないかどうか、確実に押さえておくことは重要です。ホームインスペクターなど専門家へ診断を依頼するのも方法の一つです。

3-2.家賃滞納は精算する

不動産投資は、入居者が家賃を支払ってくれて初めて成立します。つまり家賃滞納などが発生している物件は、投資物件としての価値自体に疑義が生まれる可能性があるのです。現在保有している投資物件に家賃滞納が発生している場合は、確実に精算してから売却の段取りを進めるようにしましょう。

3-3.ローン残債があるか確認する

不動産を売却する場合、ローン残債の金額によって売れるか売れないかが分かれます。例えばローン残債が1,000万円で売却査定額が1,500万円の場合は、ローンを完済することで抵当権を抹消できますので、物件の売却が可能です。反対にローン残債が1,500万円で売却査定額が1,000万円の場合は、ローンを完済することができず抵当権を抹消できないため、物件を売却することができません。

ただし不足分の500万円を現金で充当すれば抵当権が抹消できるため、売却が可能になります。売却の際は、まずローン残債額と不動産会社が査定した売却金額の差額を確認することが重要です。

3-4.安くても売ったほうがよいタイミングもある

不動産は、安くても売ったほうがよいタイミングがあります。それは以下のようなケースです。

(1)修繕費がかさむ場合
「築10年以上」の項目でも紹介しましたが、建物は経年劣化によって年を追うごとに修繕する箇所が増えてきます。20年以上になればリフォームに数百万円かかる場合もあるでしょう。リフォームローンを組めば金利も払わなければなりません。そのようなときは現状渡しで不動産会社に売却したほうが得な場合もあります。ただしローン残債を売却価格が上回ることが必要です。

(2)他の物件に買い替えたい場合
新築で購入したころは想定した利回りを得られた物件でも築年数が経過すれば修繕費が多くかかるようになり実質利回りが低下していきます。空室が出れば次の入居者を獲得するために家賃の値下げも検討しなければならないでしょう。そうなればさらに利回りが低下します。そのようなケースでは、他に高利回りを得られる物件を購入するために物件を売却して頭金にすることも方法の一つです。

4.まとめ

  • 不動産は築年数によって修繕やリフォームが必要になるので、コスト面を考えてタイミングを判断することが大切
  • ベストなタイミングをつかむためには、「市況」「季節」「税制」を見て判断する
  • 売却する際は、瑕疵担保責任、家賃滞納の有無、ローン残債などを確認する
  • 修繕費などのコストがかさむ場合や、運用利回りが低下した場合などは安くても売却して新たな物件に投資する選択肢もある

より有利なタイミングをしっかり捉えことが不動産投資成功の近道といえるでしょう。

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