不動産オーナーのメンテナンス支出…これは「修繕費」?「資本的支出」?
(画像=Watchara Ritjan/Shutterstock.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

投資物件を保有し運営する場合、必ずメンテナンスが必要になります。メンテナンスでの支出は、「修繕費」「改良費」などの勘定科目で処理されることが多いのですが、必ずしも経費になるとは限りません。今回は、投資物件のメンテナンス支出の取り扱いについて解説します。

メンテナンス支出のすべてが経費になるわけではない

投資した収益物件は使用するにつれ徐々に老朽化します。不動産オーナーは、修繕や改修工事のために定期的に支出する必要があります。このときの支出はメンテナンスという名目から全額経費になりそうな気がしますが、税務上は違う考え方をします。その修繕や改修の内容に応じて、「修繕費」という必要経費か、あるいは「資本的支出」という資産かのどちらかになります。

修繕費と資本的支出の違い

そもそも、修繕費と資本的支出とはどのようなものなのでしょうか。以下、それぞれの税務上の取り扱いについて説明します。

修繕費とは

修繕費とは、建物や設備などの固定資産に関する修理や改良等のうち、維持管理や原状回復に必要だと認められる部分の支出をいいます。税務上、修繕費として認められるものは、全額その年の必要経費として計上できます。

具体的には、次のようなものが修繕費に該当します。
【修繕費の具体例】
維持管理費用、保守費用、解体費、壁の塗り替え費用、設備などの移転費用、部品取替え費用、メンテナンス料など

資本的支出とは

資本的支出とは、固定資産に関する修理や改良等のうち、単なる維持管理や原状回復にとどまらず、固定資産の価値そのものを向上させる、あるいは耐久性を延長するようなものについて資産として計上する支出をいいます。

資本的支出に該当する支出は支出した年の必要経費とはなりません。いったん資産として貸借対照表上に計上した後、建物などの固定資産と同様、減価償却で徐々に必要経費参入していきます。

具体的には、次のようなものが資本的支出に該当します。
【資本的支出の具体例】
建物への避難階段の取り付け、用途変更のための模様替え、設備の一部をより機能の高いものに交換した場合における通常の交換費用を超える部分の金額

判断のポイント

「修繕費は必要経費として落ちるけど、資本的支出は資産として計上し、すぐには必要経費にはならない」ことがわかりました。実際には、具体例に挙げた以外の改良費等もあります。どのような基準で判断したらいいのでしょうか。

基本的には「建物などの機能を元に戻すだけ」なのか、あるいは「建物などの機能をより向上させるため」なのかといった点が判断のポイントとなります。

判断がつきにくいものは数字で判断

ただ、現実には、それでも区別がつきにくいものもあります。その場合には、数字で判断します。具体的には、次のいずれかに該当するものについては修繕費として計上してよいこととなっています。

  • 60万円未満の支出
  • 修理する資産の前期末取得価格の10%未満の支出

「一部修繕費として計上、残りを資本的支出」もOK

この他、「支出した金額×30%」「修理する資産の前期末取得価格の10%未満の支出」のいずれか小さい方を修繕費として計上し、残額を資本的支出として資産計上する方法も認められています。

たとえば、1,000万円の建物を修理するのに支出した金額が200万円であったとします。200万円は金額からみて修繕費にはなりません。しかし、次のように処理することは可能です。

1,000万円(前期末取得価額)×10%=100万円>200万円(修理として支出した金額)×30%=60万円                      
∴60万円の方がより小さい
→60万円は修繕費として計上、140万円(=200万円-60万円)を資本的支出として資産計上

間違えて会計処理をしたなら

必要経費は課税の対象となる利益を圧縮する上、修理や改良に関する支出は金額が大きくなりがちです。そのため、「修繕費か、資本的支出か」の判断は税額への影響が非常に大きいと言えます。「うっかりミス」で済まされる項目ではありません。税務署から指摘されるまで放置しておけば、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが重くのしかかることになります。

会計処理の間違いに気づいたら、なるべく早く自主的に修正申告あるいは更正の請求を行うようにしましょう。